売上向上へ「なぜ?」を深掘り

ある町の小さなケーキ屋さんを例にお話ししましょう。
そのお店は、腕利きのパティシエが作る美味しいケーキが自慢で、創業当初はショーケースに並んだケーキを一つひとつお客様におすすめしていました。
自分たちのことを「美味しいケーキという『モノ』を売る職人」だと考えていたのです。

しかし、ある時ふと立ち止まり、考え直しました。「お客様は、なぜうちのケーキを選んでくれるのだろう?」と。
この「なぜ?(目的)」を深く掘り下げてみた結果、お客様が本当に求めているのは、ケーキそのものというより、「誕生日や記念日を、特別な一日にする『コト』」ではないかと気づいたのです。

さらに考えを深め、お客様が心から望んでいるのは、「大切な人との思い出作りをお手伝いし、幸せな時間を過ごす『コト』」という、もっと大きな目的(真の目的)であると確信しました。
そこで、自分たちの仕事を「お菓子作り」から「幸せな時間作りのお手伝い」へと捉え直したのです。

その結果、このケーキ屋さんは、ただケーキを売るのをやめました。
代わりに、ホールケーキに年齢の数字が入れられるロウソク、メッセージプレート、小さな花束、そしてお部屋を飾るためのガーランドなどを一つにまとめた「お祝いサプライズセット」を開発したのです。

これによって、お客様はあちこち買い回る手間がなくなり、たった10分でパーティーの準備が整うようになりました。
このセットは「準備がすごく楽になった!」「家族がとても喜んでくれた」と口コミで評判になり、「記念日といえば、あのお店」という特別な存在になりました。
結果として、お店の売上は以前の3倍にまで伸びたのです。
これは、お客様の「幸せな時間」という願いに、見事に応えた証と言えるでしょう。

私たちはビジネスをしていると、お客様から直接言われた要望に応えたり、ライバル店の商品と自分の商品を比べたりすることに、つい一生懸命になりがちです。

しかし、今のよう変化の激しい世の中では、お客様自身でさえ、自分が本当に何を求めているのか気づいていないことがよくあります。
そのため、お客様の言葉をそのまま聞いて表面的な改善を繰り返しても、心から喜ばれるようなアイデアはなかなか生まれません。
目先のことだけを考え、ライバルとの価格や性能の競争に走るだけでは、お互いが疲弊してしまう「しんどい競争」に陥ってしまいます。

こんなときこそ大切なのが、「そもそも、自分たちの仕事は何のためだろう?」と「なぜ?」を繰り返し、自分たちの原点(真の目的)に立ち返る考え方です。

例に挙げたケーキ屋さんのように、より大きな目的へと視点を移すことで、自分たちの仕事の本当の価値を見つけ出し、大きな成功を収めた会社はたくさんあります。

「お客様の『真のなぜ?』に応えられた者が、ビジネスを制する」のです。