利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「うちの強み」を語るほど、なぜか伝わらなくなる理由

「うちの強み」を語るほど、なぜか伝わらなくなる理由

会社の想いが伝わらないと感じたら―語り始める「場所」を見直してみる

求人を出しても、なかなか応募が来ない。
ホームページを新しくしても、問い合わせは以前とあまり変わらない。
営業先で自社の強みを一生懸命説明しても、相手の反応はどこか薄い。

こうした悩みを抱えている経営者の方は、決して少なくありません。

多くの場合、まず疑われるのは「商品やサービスの中身」です。
もっと機能を良くしよう、もっと安くしよう、もっと丁寧に説明しよう―そう考えて、パンフレットの文言を練り直したり、ホームページのデザインを一新したりします。
それでも、思ったほど手応えが変わらないことがあります。

実はその原因は、伝えている「内容」そのものではなく、話をどこから始めているかにあるのかもしれません。

今回は、人に届く話し方・語り方の基本的な考え方を、経営の現場に置き換えながらご紹介したいと思います。
少し回り道に感じられるかもしれませんが、日々のホームページの一文や、求人票の書き出し、営業トークの入り方といった、明日から使える話につながっていきますので、お付き合いいただければと思います。

「うちの強み」から話し始めると、なぜか届きにくい

多くの会社案内や営業トークは、こんな順番で組み立てられています。

「創業◯◯年、確かな技術で」「他社にはない設備を導入し」「業界随一の品揃えで」。

もちろん、これらは会社の大切な財産であり、誇るべきことです。
しかし、聞き手や読み手にとっては、実はいちばん最初に聞きたい話ではないことが多いのです。

少し想像してみてください。
初めて会った人が、開口一番「私はこれまでこんなにすごい実績を積んできまして」と自分の話ばかりを始めたら、どう感じるでしょうか。
悪い人ではないのだろうとは思いつつ、少し身構えてしまう、という方が多いのではないでしょうか。

一方で、「最近、お仕事は忙しいですか」「その業界、大変だと聞きますが実際どうですか」と、まず自分のことを気にかけてくれる人には、自然と心を開きやすくなります。

会社の情報発信も、これと同じ構造を持っています。
自社の実績や技術から話し始めることは、いわば「自己紹介」です。
悪いことではありませんが、それだけでは「単なる自慢話」や「会社案内パンフレットの延長」で終わってしまい、相手の心にまでは届きにくいのです。

物語は「世の中」から始めると届きやすくなる

では、人の心に届く発信は、どこから始まっているのでしょうか。

答えはシンプルで、「自社」ではなく「社会」や「相手の暮らし」から始まっている、ということです。

つまり、いきなり「うちの商品は」と語るのではなく、まず「今、世の中や地域ではこんなことが起きている」「お客様は、実はこんなことで困っているのではないか」という話から入る、ということです。

これは、営業トークだけの話ではありません。求人票も同じです。
「弊社は成長企業です」から始めるより、「今、この業界で働く人たちはこんな悩みを抱えることが多いのですが」という一文から始まる求人票の方が、読み手は「自分に関係のある話かもしれない」と感じ、続きを読んでみようという気持ちになります。

自社の魅力を消す必要はまったくありません。
ただ、話し始める場所を、自社の内側から、相手が生きている世界の側に、少しだけ移してみる。
それだけで、同じ内容でも受け取られ方が大きく変わってくるのです。

「課題」はマイナスの話でなくてもいい

ここで一つ、誤解しやすいポイントがあります。

「社会や相手が抱える課題から始める」と聞くと、何か深刻な問題や、困った状況を掘り起こさなければならないような気がしてしまうかもしれません。
しかし、必ずしもそうではありません。

「ここには、実はまだ知られていない大きな可能性がある」「これから、確実に求められるようになっていく」―そうした、前向きな切り口の「課題」もあります。

大切なのは、その課題が深刻かどうかではなく、その捉え方に、自分たちならではの新しい視点があるかどうかです。

例えば「人手不足は深刻です」という表現だけでは、あまりにありふれていて、誰の心にも強く残りません。
しかし、「実は人手が足りないのではなく、『誰にでもできる仕事』と『その人にしかできない仕事』が、ごちゃまぜのまま現場に残ってしまっているのではないか」という視点であれば、少し違って聞こえてこないでしょうか。

同じ現象を見ていても、そこにどんな名前をつけ、どんな角度から光を当てるか。
そこにこそ、その会社らしさが表れます。

話の「大きさ」を、ちょうどよく合わせる

もう一つ、意識しておきたいのが、話の規模感です。

あまりに大きすぎる話、例えば「地球環境を守らなければなりません」といったレベルの話から始めてしまうと、聞き手は「立派なことを言っているな」とは思いつつ、自分の仕事や暮らしと結びつけて考えることが難しくなります。
話が抽象的すぎて、輪郭がぼやけてしまうのです。

かといって、あまりに細かすぎる話、例えば自社製品の部品の性能の違いのような話から始めてしまうと、今度は関心のある一部の人にしか届きません。

ちょうどいいのは、その中間です。
世の中全体の大きな流れは意識しつつも、「自分たちがふだん接している、具体的なお客様や地域の姿」にまで、話の解像度を上げていく。
この「範囲の設定」こそが、実は一番難しく、そして一番大切な作業だと言えます。

言い換えれば、「大きな社会の話」と「自社の得意なこと」の、ちょうど真ん中あたりに橋をかけるようなイメージです。
この橋がうまくかかったとき、話は初めて、多くの人にとって「自分にも関係のある話」として届くようになります。

ある印刷会社の物語

ここで、一つの架空の物語を通して、考えてみたいと思います。

地方都市で、小さな印刷会社を営む橋本さん(仮名・40代)がいました。
先代である父親から会社を引き継ぎ、従業員は9名。
近隣の企業や商店のチラシ、伝票、名刺などを長年手がけてきた会社です。

ここ数年、橋本さんは二つの悩みを抱えていました。
一つは、営業をかけてもなかなか新しい取引先が増えないこと。
もう一つは、求人を出しても応募がほとんど来ないことでした。

会社案内には「創業50年の実績」「最新鋭のデジタル印刷機を完備」といった言葉を並べ、求人票にも「安定した経営基盤」「地域密着の優良企業」と書いていました。
どれも嘘ではありません。
しかし、反応はいつも今ひとつでした。

転機は、ある小さな出来事から訪れます。
近所の雑貨店の店主から、世間話のついでにこう言われたのです。

「うちも季節ごとにPOP(店頭の案内card)を作りたいんだけど、デザインなんて分からないし、印刷屋さんに頼むほどの量でもないし、結局いつも手書きで済ませちゃうんだよね」

橋本さんは、最初は特に気にも留めませんでした。
しかし、その後、別の取引先である花屋や惣菜店の店主からも、似たような話を耳にするようになります。
「デザインを頼みたいけれど、どこに相談すればいいか分からない」「印刷会社は大きな仕事しか受けてくれないと思っていた」。

そこで橋本さんは、あらためて考えてみました。
自分たちが「創業50年の技術」や「最新の機械」を誇っていた一方で、実は地域には、ちょっとしたデザインや印刷物の相談先が見つからずに困っている、小さなお店の経営者がたくさんいたのです。

橋本さんは、ホームページと求人票の書き出しを、思い切って変えることにしました。

「創業50年」から始めるのではなく、「値札やPOPを、自分で何とかしようと頑張っている、地域の小さなお店の方へ」という一文から始めるようにしたのです。
求人票も、「安定した経営基盤」ではなく、「近所のお店の困りごとに、印刷とデザインの力で応えていく仕事です」という言葉を、いちばん最初に置きました。

会社の設備や実績は変えていません。
変えたのは、あくまで「どこから話し始めるか」だけです。

半年ほど経つころには、小規模な商店からの問い合わせが少しずつ増え始めました。
求人にも、「地域のお店を支える仕事に興味があります」という応募者が現れるようになったといいます。

橋本さんはこう振り返っています。
「うちの強みは何も変わっていないんです。ただ、それを誰の悩みに向けて差し出すのか、その順番を変えただけなんですよね」

数字の裏側にある、小さな見落とし

税理士として、決算書を拝見していると、多くの会社で「広告宣伝費」の科目に、毎年それなりの金額が計上されているのを目にします。

興味深いのは、その金額の大きさに比べて、「その広告やホームページで、結局どんな言葉から話を始めていたか」まで振り返る機会は、驚くほど少ないということです。

多くの場合、去年と同じような文面のまま、なんとなく更新を続けている。
あるいは、制作会社に任せきりで、そもそもどんな順番で言葉が並んでいるかを、経営者自身が意識していない。
そういうケースが、実際には少なくありません。

毎年、同じような会社案内を作り直し、同じような求人広告を出し続けている―そういう会社は、決して珍しくないのではないでしょうか。

広告費や求人費用は、かけた金額の大きさよりも、実は「何から話し始めているか」という、ごく小さな一文の選び方の方が、結果を左右していることがあります。
これは、決算書の数字だけを眺めていても、なかなか見えてこない部分です。

まとめ―語り始める場所を、少しだけ変えてみる

会社の強みや技術、これまで積み重ねてきた実績は、間違いなくかけがえのない財産です。
それを消したり、控えめにしたりする必要はまったくありません。

ただ、それを語る順番については、一度見直してみる価値があるのではないでしょうか。

自社の話から入るのではなく、まずはお客様や地域が、今どんなことに困っているのか、あるいはどんな可能性を求めているのかから話を始めてみる。
そのうえで、「その悩みに、うちはこう応えられます」という形で、自社の強みへとつなげていく。

そうすることで、同じ実力、同じ技術であっても、相手に届く力は大きく変わってきます。

とはいえ、すべての発信を一度に見直す必要はありません。
まずはホームページのトップページの一文、あるいは求人票の書き出しだけを、試しに書き換えてみることから始めてみるのも一つです。
その小さな変化が、思っていた以上に大きな反応につながることも、決して珍しくありません。

会社の想いは、きちんと届くはずのものです。
あとは、その届け方の順番を、少しだけ整えてあげるだけなのかもしれません。

この記事をシェアする

記事一覧へ戻る

コメント Comments

コメント一覧

コメントはありません。

トラックバックURL

https://wakaruto.jp/%e3%80%8c%e3%81%86%e3%81%a1%e3%81%ae%e5%bc%b7%e3%81%bf%e3%80%8d%e3%82%92%e8%aa%9e%e3%82%8b%e3%81%bb%e3%81%a9%e3%80%81%e3%81%aa%e3%81%9c%e3%81%8b%e4%bc%9d%e3%82%8f%e3%82%89%e3%81%aa%e3%81%8f%e3%81%aa/trackback/

関連記事 Relation Entry