利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「こうだったらいいのに」を、現実に変える力

「こうだったらいいのに」を、現実に変える力

願いを行動に変える人と、変えない人の違い

誰の心にも、小さな願いがある

仕事をしていると、ふと頭をよぎる思いはないでしょうか。

「もっとお客様に喜んでもらえる商品があったらいいのに」
「この作業、もっと簡単にできないものか」
「うちの会社も、こんな雰囲気になったらいいのに」

こうした「〜だったらいいのに」という願いや、「これでいいのだろうか」という引っかかりは、誰の心の中にも、案外たくさんあるものです。

けれども、その多くは、社員との何気ない雑談や、ふとした独り言で終わってしまいます。
次の日にはもう、忘れてしまっていることも少なくありません。

これは、決して意志が弱いからではないと考えられます。
願いを口にすることと、それを実際の形にしていくことの間には、思っている以上に大きな距離があるからです。
この距離の正体を、少し丁寧に見ていきたいと思います。

なぜ、その願いは実現しないのか

願いを現実に変えるまでには、いくつかの高いハードルがあるのではないでしょうか。

まず、漠然とした思いを、誰かに伝えられる言葉にする必要があります。
「なんとなくこうしたい」というだけでは、周りの人には伝わりません。
頭の中では輪郭がはっきりしているように感じても、いざ言葉にしようとすると、意外とうまく説明できないという経験は、多くの方にあるのではないでしょうか。

次に、それに共感してもらい、一緒に取り組んでもらう必要があります。
一人で頑張るだけでは、会社という組織の中では、なかなか物事は動きません。
特に、日々の業務が忙しい職場ほど、「新しいことを始める余裕なんてない」という空気が、自然と生まれやすいものです。

そして何より、うまくいかない時期があっても、辛抱強く続けていく必要があります。
最初の一週間は盛り上がっても、二週目には誰も触れなくなっている。
そうした経験に、心当たりのある方も少なくないはずです。
この三つが揃って初めて、願いは現実に近づいていきます。

考えてみると、従業員十名前後の会社を切り盛りされている経営者の方は、日々の現場対応や資金繰り、社員の相談ごとに追われる中で、この三つのハードルすべてに、ほとんど一人で向き合わなければならない場面が多いのではないでしょうか。
相談する相手も限られていますし、立ち止まって考える時間そのものが、なかなか取れないというのが実情かもしれません。
だからこそ、多くの願いが、形になる前に立ち消えてしまうのだと考えられます。
決して、経営者の力不足ということではないのです。

一歩を踏み出せない、よくある心の壁

願いを言葉にできたとしても、そこからなかなか動き出せないという方も多いのではないでしょうか。
長年、中小企業の経営者の皆さまとお話をしてきた中で、心の中には、いくつか共通する壁があるように感じています。

一つ目は、完璧を求めすぎてしまうことです。
「どうせやるなら、きちんと準備をしてから」と考えているうちに、準備そのものが目的になってしまい、いつまでも実行に移せない。
そうした状態に、心当たりのある方もいらっしゃるかもしれません。

二つ目は、失敗への不安です。
特に、社員を巻き込んで始めたことがうまくいかなかった場合、「自分のせいで迷惑をかけてしまうのではないか」という気持ちが、強くブレーキをかけてしまいます。
責任感の強い経営者ほど、この壁は高くなりがちなのではないでしょうか。

三つ目は、「自分よりもふさわしい人が、どこかにいるのではないか」という遠慮です。
特別な資格や、華やかな実績がなければ、先頭に立ってはいけないと感じてしまう。
けれども、このあと見ていくように、先頭に立つために必要なのは、資格や実績ではないと考えられます。

こうした壁は、決して珍しいものではありません。
むしろ、まじめに会社と向き合っている経営者ほど、感じやすい壁なのではないでしょうか。
大切なのは、壁をなくそうとすることではなく、壁があることを前提にしたうえで、それでも小さく一歩を踏み出す方法を知っておくことだと思います。

小さな流れが、大きな川になるまで

ここで、ひとつ例えを挙げてみたいと思います。

山の奥深くには、誰も気づかないような、細く小さな水の流れがあります。
放っておけば、その流れは地面に染み込んで消えてしまうかもしれません。
けれども、その流れがほかの流れと合わさり、少しずつ幅を広げながら流れ続けていくと、やがて誰もが利用する大きな川になっていきます。

会社の中で生まれる小さな違和感や願いも、これによく似ているのではないでしょうか。
最初はただの細い流れです。
しかし、それを言葉にし、周りの人の共感という流れと合流させ、日々の行動として流し続けていくことで、少しずつ大きな変化になっていきます。

反対に、どれほど良い思いつきであっても、心の中にしまったままでは、地面に染み込んで消えていく水と同じ運命をたどってしまいます。
もったいないことだと思いませんか。

当たり前になっている便利さは、誰かの一歩から生まれた

少し視点を広げてみましょう。

今、私たちの身の回りには、当たり前のように便利なものがあふれています。
スマートフォンひとつで支払いができること。
近所のコンビニエンスストアが、いつでも開いていること。
頼めば温かい食事を自宅まで届けてくれるサービスがあること。

これらはすべて、もともとは誰かの頭の中にあった、たったひとつの「こうだったらいいのに」という思いから始まっています。
そしてその思いを、言葉にし、周りを巻き込み、諦めずに形にしていった人がいたからこそ、今、私たちはその恩恵を受けているのです。

裏を返せば、もし誰も一歩を踏み出さなければ、私たちは今も、不便さを当たり前のこととして受け入れながら暮らしていたのかもしれません。

会社の中も、実はこれと同じ構造をしていると考えられます。
今の仕事のやり方や、社内の雰囲気、お客様との関係性も、過去に誰かが「こうしよう」と踏み出した結果、少しずつ積み重なってできあがっているのではないでしょうか。
今、当たり前だと思っていることのほとんどは、誰かにとっての、かつての「こうだったらいいのに」だったのです。

ある印刷会社の、小さな挑戦の物語

ここで、ひとつの事例をご紹介したいと思います。

ある地方都市で、従業員十二名ほどの印刷会社を営む社長の話です。
この会社では長年、注文の受付をすべて紙の伝票で行っていました。

若手の社員から、「この伝票の書き方、正直言ってわかりにくいです」という声が、雑談の中で何度か出ていました。
社長自身も、内心では「そろそろ紙の伝票をやめて、パソコンやスマートフォンで注文を受けられるようにしたほうがいいのではないか」と感じていたそうです。

けれども、なかなか踏み出せませんでした。
「新しい仕組みを導入する費用がかかる」「ベテランの社員がついてこられるか心配だ」「今のやり方でも、一応は回っている」。
そうした理由が頭に浮かぶたびに、話は先延ばしになっていきました。
半年、一年と、月日だけが過ぎていったそうです。

転機になったのは、ある月の朝礼でした。
社長が、思い切って自分の考えを社員の前で口にしたのです。
「伝票のやり方を、少しずつでも見直していきたいと思っている。みんなの意見を聞かせてほしい」と。

驚いたことに、若手社員だけでなく、長年勤めているベテランの社員からも、「実は自分もそう思っていた」という声が上がりました。
長年ためらっていた分、社長は少し拍子抜けしたそうです。
そこで、いきなり全部を変えるのではなく、まずは一件のお得意先だけ、試しに簡単な入力フォームでの注文を試してみることにしました。

小さな試みでしたが、これが思いのほかうまくいきました。
お客様からも「前より早く注文できて助かる」と好評だったそうです。
それを見た他の社員からも、「うちの担当のお客様にも広げてみたい」という声が自然に出てきて、半年ほどかけて、少しずつ仕組みが会社全体に広がっていきました。

この社長がしたことは、決して大きな決断ではなかったのではないかと思います。
ただ、心の中にあった小さな違和感を、言葉にして、周りに伝え、小さく試してみた。
それだけです。
けれども、その一歩がなければ、この会社は今も、同じやり方を続けていたことでしょう。

先頭に立つ力は、特別な才能ではない

「先頭に立って会社を引っ張る」と聞くと、人を惹きつけるカリスマ性や、生まれ持った特別な才能が必要だと感じる方も多いかもしれません。

けれども、先ほどの印刷会社の例からもわかるように、実際に求められているのは、そうした特別な資質ではなく、案外地味な、三つの行動なのではないでしょうか。

一つ目は、心の中の違和感や願いを、きちんと言葉にすること。
二つ目は、それを一人でも多くの人に伝え、意見を聞いてみること。
三つ目は、いきなり大きく変えようとせず、小さく試しながら続けていくことです。

むしろ、従業員十名前後の会社を経営されている方は、社員一人ひとりの顔が見える距離にいらっしゃいます。
これは、大きな組織の経営者にはない、大きな強みではないでしょうか。
思いを伝えたい相手が、すぐそばにいるのですから。
大企業であれば何段階もの承認を経なければ社員に届かない一言も、皆さまの会社であれば、今日の朝礼や、ちょっとした立ち話で、直接届けることができます。

先頭に立つというと、大きな変革や、華々しい発表の場面を思い浮かべるかもしれません。
けれども実際には、朝、社員に「今日はこれをやってみようと思う」とひと言伝えることも、会議の場で「みんなはどう思う」と意見を求めることも、立派な一歩なのではないかと思います。
日々のこうした小さな積み重ねこそが、会社を少しずつ動かしていく力になっていくのではないでしょうか。

今日からできる、小さな一歩

ここまで読んで、「自分にも、そういえば心に引っかかっている願いがあるな」と感じられた方もいらっしゃるかもしれません。

もしよろしければ、次のようなことから、まずは始めてみるのも一つではないでしょうか。

一つ目は、頭の中にある「こうだったらいいのに」を、紙やスマートフォンのメモに、短い言葉で書き出してみることです。

書き出すだけで、漠然としていた思いが、少しはっきりした形を持ち始めます。
難しく考える必要はなく、思いついたままの言葉で構いません。

二つ目は、それを、信頼できる一人の社員や、身近な家族に話してみることです。

最初から全社員に発表する必要はありません。
まずは一人に、率直な感想を聞いてみるだけで十分です。
案外、「実は自分もそう思っていた」という反応が返ってくることも多いものです。

三つ目は、実際に試してみるとしたら、どのくらい小さく始められるかを考えてみることです。

全部を一度に変える必要はありません。
一つの部署だけ、一人のお客様だけ、一週間だけ、というように、小さく区切って試すことができれば、それだけ気持ちも軽くなるはずです。
うまくいかなければ、また元に戻せばよいのです。
そう考えると、最初の一歩は、思っているよりずっと軽いものではないでしょうか。

四つ目は、続けるための小さな仕組みを、あらかじめ用意しておくことです。

人は、忙しくなると、新しく始めたことから先に手を抜いてしまいがちです。
たとえば、月に一度だけでも、「あの件、その後どうなった」と振り返る時間を、あらかじめ予定に入れておく。
それだけで、思いつきで終わらせず、続けていく力になるのではないでしょうか。

おわりに ― 願いは、すでにあなたの中にある

「こうだったらいいのに」という思いを持てること自体が、実はとても価値のあることなのではないかと思います。
何も感じていなければ、そもそもそうした思いは浮かんでこないからです。

大きな決断をする必要はありません。
今日、心の中にある小さな違和感を、一言でも誰かに話してみる。
それだけで、十分に大きな一歩だと考えられます。

うまくいくかどうかは、正直なところ、やってみなければわかりません。
けれども、心の中にしまったままでは、うまくいく可能性すら生まれないのも事実です。
小さく試し、うまくいかなければ形を変え、また試す。
その繰り返しこそが、会社を少しずつ良くしていく、一番確かな道なのではないでしょうか。

その積み重ねの先に、皆さまの会社らしい、新しい当たり前が生まれていくのではないでしょうか。
今日という日が、その最初の一歩になることを、心から願っております。

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