利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「敵と戦うな、新しい海を泳げ」—市場志向の発想転換が新たな顧客を生む

「敵と戦うな、新しい海を泳げ」—市場志向の発想転換が新たな顧客を生む

虫歯予防ガムに学ぶ、ビジネスの発想転換

なぜ歯医者さんが虫歯予防を勧めるのか?

「歯医者さんもオススメする虫歯予防のガム」というフレーズ、一度は耳にしたことがあるはずです。
キシリトール入りのガムの宣伝文句ですね。

でも、冷静に考えると少し不思議ではないですか?
虫歯を治すのが仕事の歯医者さんが、虫歯にならないためのガムを勧める。
それって、自分の仕事を減らすような話ではないでしょうか。

実は、この「不思議」の裏に、中小企業の経営者にもぜひ知っていただきたい、とても大切なビジネスの発想が隠れています。
それが「市場志向の考え方」と「ブルーオーシャン戦略」というものです。
難しそうな言葉ですが、要は「戦わずに、新しいお客さんを見つける」という考え方です。

まず「背景」を知っておこう—レッドオーシャンとブルーオーシャン

お店でガムを選ぶとき、棚にはたくさんの種類が並んでいますよね。
「爽やかなミント味」「フルーティーな香り」「長持ちする甘さ」……。
各メーカーが「うちの味の方がおいしい」「うちの香りの方が良い」と、同じ土俵の上で激しく競い合っています。

このような、すでに多くのプレーヤーが争っている市場のことを「レッドオーシャン(赤い海)」と呼びます。
血みどろの戦いが続く、文字通り「赤い海」のイメージです。
競争が激しいと、価格を下げるか、広告費を増やすか、どちらにしてもコストがかさみます。
体力のある大企業には有利ですが、中小企業や個人事業者にとっては消耗するだけの戦い場になりがちです。

一方、キシリトール入りガムが踏み込んだのは「ブルーオーシャン(青い海)」でした。
「味や香りで競う」のではなく、「虫歯予防」という全く新しい価値を提案したのです。
ガムをお菓子として売るのをやめ、健康グッズとして売る。
そうすることで、それまで競合他社が誰もいなかった、まっさらな青い海原に乗り出したのです。

この発想の転換のカギになったのが、「製品志向」から「市場志向」への切り替えでした。

「製品志向」とは、「自分たちの作るものをどう売るか」を考える発想です。
「うちのガムはこんなに甘くておいしい、だから買ってほしい」という視点ですね。

「市場志向」とは、「お客さんが本当に求めているものは何か」を考える発想です。
「お客さんは甘いものが食べたいのではなく、歯を大切にしたいのかもしれない」という視点から出発します。

キシリトールのマーケティング担当者はこの市場志向の発想を持ち、歯科業界全体を巻き込んで新しい市場を生み出したのです。

キシリトール普及の舞台裏—発想の転換が生んだ好循環

キシリトールはもともとフィンランドで生まれた、虫歯になりにくい甘味料です。
日本に持ち込まれた当初、担当者は「これを普及させるには歯医者さんの賛同が欠かせない」と考えました。

しかし現実は甘くありませんでした。
多くの歯医者さんは「虫歯になりにくいガム? そんなものが広まったら患者が減って儲からなくなる」と、最初は拒否反応を示したそうです。
これはある意味、当然の反応とも言えます。

転機は、ある歯科専門の商社マンとの出会いでした。
その商社マンは「予防歯科こそ歯医者本来の仕事だ」という信念を持っていました。
そこで、「虫歯になってから歯医者に行く」のではなく、「虫歯にならないために定期的に歯医者に行く」というビジネスモデルを提案し、少しずつ歯医者さんの賛同を集めていったのです。

ここに大きな発想の転換があります。「虫歯治療」という製品志向から、「健康な歯を維持する」という市場志向への切り替えです。

このモデルが受け入れられることで、歯医者さんにとっても患者さんにとっても、新しい関係性が生まれました。
患者さんは「痛くなってから行く場所」ではなく「定期的にケアしてもらう場所」として歯医者を捉えるようになり、歯医者さんも安定した顧客との長期的な関係を築けるようになったのです。

そして、キシリトールのプロモーションはこの流れに乗って一気に普及しました。
注目すべきは、虫歯になる人は日本人全体の約1割にすぎないという事実です。
それまでの歯医者の顧客は、基本的にその1割だけでした。
しかし予防歯科の概念が広まったことで、残りの9割—虫歯になっていない人たちも「潜在的な顧客」として取り込むことができたのです。
市場規模が一気に10倍に広がったようなイメージです。

別の事例で考えてみよう—コンビニコーヒーの「発想転換」

同じような発想転換の事例として、コンビニのコーヒーが挙げられます。

かつて、コーヒーを飲みたい人が選ぶのは「喫茶店」か「缶コーヒー」のどちらかでした。
喫茶店同士は「うちの豆の方が上質だ」「うちの内装の方がおしゃれだ」と競い合い、缶コーヒーメーカーは「うちの方が甘い」「うちの方が苦みが少ない」とレッドオーシャンで戦い続けていました。

そこにコンビニ各社が持ち込んだのが、「100円でその場で挽きたてのコーヒーが飲める」というモデルです。

製品志向で考えれば、「コンビニはもともと食品や雑貨を売る場所であり、コーヒー専門店には到底かなわない」となります。
しかし市場志向で考えると、「お客さんが求めているのは必ずしも”本格的な一杯”ではなく、”手軽においしいコーヒーを飲む体験”なのではないか」という視点が生まれます。

この発想の転換により、コンビニコーヒーは喫茶店とも缶コーヒーとも異なる独自の市場を切り開きました。
喫茶店には行かないけれどコーヒーは好き、という層—これまで誰も本格的にアプローチしていなかった顧客層を一気に取り込んだのです。

コーヒー市場全体で見ると、コンビニコーヒーの登場によって「コーヒーを飲む機会」そのものが増え、市場全体が拡大するという好循環も生まれました。
まさに、キシリトールが予防歯科市場を広げたのと同じ構図です。

まとめ—あなたのビジネスにも「9割の海」がある

今回の話を整理すると、次のようになります。

「誰のために、何のために、自分たちはこのビジネスをしているのか」—この問いに「製品」ではなく「お客さんの課題」を中心に答えられたとき、新しい市場が見えてきます。

キシリトールのマーケティング担当者は、「ガムを売ること」ではなく「歯の健康を守る手助けをすること」に軸足を移しました。
コンビニ各社は「食品を売ること」ではなく「手軽においしいひとときを提供すること」を選びました。
そのどちらも、競合と同じ土俵で争うのをやめ、まだ誰も本気で取り組んでいなかった「青い海」に乗り出した結果、大きな成功を手にしています。

従業員10名前後の中小企業・個人事業でも、この発想は十分に活かせます。
むしろ、意思決定が速く身軽に動ける小規模事業者こそ、発想転換の恩恵を受けやすいとも言えます。

今のあなたのビジネスでは、実際に商品やサービスを利用しているお客さんは「全体の何割」でしょうか。
もしかすると、まだアプローチできていない「残りの9割」の潜在顧客が、すぐそこに広がっているかもしれません。

「うちの商品をどう売るか」ではなく、「お客さんはどんな問題を抱えていて、どんな体験を求めているのか」。
そこから考え始めると、激しい競争の外に、あなただけの「青い海」が見えてくるはずです。

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