消費者インサイトの見つけ方と仮説構築
なぜ「なんとなく売れない」が続くのか
「商品は悪くないはずなのに、なぜか売れない」「チラシを配っても反応がない」―そんな経験、一度はあるのではないでしょうか。
多くの場合、原因は商品やサービスの質ではありません。
お客さんが「本当に何を求めているか」を、こちら側がまだつかめていないことにあります。
お客さん自身も、自分の本音を言葉にできていないことがほとんどです。
「もっと便利なものがほしい」とは言えても、「なぜ不便に感じているのか」の根っこには気づいていない。
その「気づかれていないけれど、確かにある気持ち」のことを、マーケティングの世界ではインサイトと呼びます。
このインサイトを見つけることが、売れる商品・サービスをつくる出発点になります。
そして今回ご紹介するのは、集めた情報をバラバラのまま眺めるのではなく、「核になる気持ち」を仮説として立てることで、お客さんの本音を浮かび上がらせるという考え方です。
バラバラな情報を「一本の糸」でつなぐ
お客さんの声や行動を観察すると、さまざまな不満や要望が出てきます。
でも最初は、それらはバラバラな断片のように見えます。
たとえば、スマートフォンのカメラアプリを実際に使ってみた場合を考えてみましょう。
・「シャッターを押すタイミングが遅れて、いい瞬間を逃してしまう」
・「撮った写真が思ったより暗い」
・「何枚も撮り直さないと、納得のいく一枚が撮れない」
・「撮り直すのが面倒で、結局そのまま諦めてしまう」
このまま並べても、「じゃあどんな改善をすればいいか」はわかりません。
ここで大切なのは、これらの気持ちを全部つなぎ合わせる「核」を見つけることです。
試しに「何枚も撮り直さないと納得のいく一枚が撮れない」という気持ちを核に据えてみます。すると、
・撮り直すからシャッターのタイミングを何度も狙わなければならない
・何度も試すから時間がかかり、諦めにもつながる
・そもそも一枚目から「ちゃんと撮れる」という自信がないから、撮り直しが前提になっている
というように、他の不満が自然につながってきます。
「撮り直し前提」という感覚が、すべての不満の根っこにあったのです。
一方で「シャッターが遅い」を核にすると、「じゃあ高速連写すればいい」という話になり、「暗い」「納得できない」という別の不満とはうまくつながりません。
「明るく撮れる」を核にすると、「でも肝心の瞬間は逃している」という矛盾が残ります。
このようにいくつかの候補を試しながら、最もうまく全体がつながる「核」を探すのが、インサイト仮説をつくる考え方です。
正解を一発で見つけようとするのではなく、いくつも試して絞り込んでいく。
この試行錯誤のプロセスが重要です。
身近な事例:地元の美容室の場合
少し身近な例で考えてみましょう。
ある地方の小さな美容室のオーナーが、お客さんの声を集めてみました。
出てきたのはこんな声です。
・「予約が取りにくい」
・「待ち時間が長い」
・「仕上がりのイメージが担当者に伝わらない」
・「毎回、担当者が変わってしまう」
・「カットのあと、自分でうまくスタイリングできない」
最初はバラバラに見えますが、「毎回、担当者が変わってしまう」を核に据えてみます。
すると、
・担当者が変わるから、毎回イメージを一から説明しなければならない
・担当者が変わるから、自分の髪質や癖を理解してもらえていない
・だからこそ、「伝わらない」「仕上がりがイメージと違う」という不満が生まれる
さらに、「自宅でうまくスタイリングできない」のも、担当者が変わるたびにスタイリングのアドバイスが変わるせいかもしれない……という仮説が生まれてきます。
つまり、「毎回同じ担当者に担当してもらえない不安」がすべての不満をつなぐ核ではないか、という仮説です。
この仮説をもとに、そのオーナーは「指名制の強化」と「担当者ごとのカルテ管理」を徹底しました。
お客さんの髪質・好み・過去のスタイルをデジタルで記録し、指名がしやすい予約システムも整えました。
結果、リピート率が上がり、「ここに来ると自分のことをわかってもらえる」という口コミが広がりました。
他の業界のヒントを自分のビジネスに活かす
インサイトを探すとき、自分のビジネスの中だけを見ていると行き詰まることがあります。
そこで効果的なのが、他の業種・業界のヒット事例から「同じような消費者の気持ち」を借りてくるという発想です。
具体的には、次の3つの視点で考えてみましょう。
さまざまなトレンドの底にある「共通の気持ち」を探す
たとえば近年、サブスクリプション(定額制)サービスが多くの業種で広がっています。
音楽・動画・食材・洋服……。
業種は違いますが、底にある消費者の気持ちは「いちいち選ぶのが面倒。使いたいときにすぐ使えればいい」という感覚に共通しています。
この気持ちは、自分のビジネスにも応用できないでしょうか?
他業種のヒット商品がとらえた「気持ち」を自分のビジネスに当てはめる
コンビニのセルフレジが広がったのは「早く済ませたい」というニーズからです。
この気持ちを、たとえば自分の修理店や食堂に当てはめると、「注文・支払い・受け取りをなるべくスムーズにする」工夫につながるかもしれません。
自分の仮説が正しいかを、別の業種で確認する
「担当者との信頼関係がリピートを生む」という仮説を持ったとき、同じような気持ちがほかの業種でも確認できれば、仮説の確かさが増します。
かかりつけ医、担当制の銀行窓口、専属の保険外交員―どれも「この人にまかせたい」という気持ちが根っこにあります。

まとめ:仮説を立てることが、答えへの近道
お客さんの本音(インサイト)を見つけるために大切なのは、集めた情報をバラバラのまま放置しないことです。
「どの気持ちが、他のすべての気持ちとつながるか」という視点で核を探し、仮説を立てる。
一つに決め込まず、いくつかの候補を試してみる。
そして他の業種・業界のヒントも借りながら、仮説を磨いていく。
このプロセスは、大企業のマーケターだけのものではありません。
むしろ、お客さんと距離が近い中小企業・個人事業の経営者こそ、日々の会話や観察からヒントを拾いやすい立場にあります。
「なぜ、このお客さんはリピートしてくれているのか」「なぜ、あのお客さんは来なくなったのか」―そんな小さな疑問を核にして、仮説を立ててみてください。
その一歩が、「なんとなく」から「確かな手応え」への転換点になります。
まず一つ、身近なお客さんの声を書き出してみましょう。
そこから「核になる気持ち」を探す作業が、あなたのビジネスの次の一手を見えやすくしてくれるはずです。
