利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「なにを売るか」より「なぜ存在するか」─これからのビジネスに必要な、たった一つの問い

「なにを売るか」より「なぜ存在するか」─これからのビジネスに必要な、たった一つの問い

「なぜ買うか」が問われる時代の経営戦略

かつての時代─「選ぶこと」が当たり前だった頃

かつて、20代といえば結婚し、車を持ち、家を構えるのが「人生の流れ」でした。
その頃、人々が頭を悩ませていたのはシンプルなことでした。
「どんな相手と結婚するか」「どのブランドの車にするか」「どのエリアに家を買うか」—つまり、迷うのはあくまで「どれを選ぶか」という話であって、「そもそも選ぶべきかどうか」を疑う人はほとんどいませんでした。

このような時代のビジネスは、今から振り返ると、ある意味で分かりやすいものでした。
なぜなら、お客さんの側に「これは買うものだ」という共通認識があったからです。
企業どうしの競い合いは、「うちの方が性能が高い」「見た目が洗練されている」「値段がお得」といった、いわば「どこが優れているか」の勝負でした。

全員が同じルールのゲームに参加し、「うちはここが違います」と声を上げる。
その「違い」をひと言でまとめたものが、「コンセプト」と呼ばれていたわけです。

現代は違う─「そもそも必要なのか」という問いの時代

しかし今、その前提が根底から揺らいでいます。

結婚は、人生に欠かせないものではなくなりました。
「結婚しないという選択」も、今では広く受け入れられています。
車は「買うもの」から「必要なときに借りるもの」へと変わりつつあり、カーシェアリングやタクシーアプリの普及がその変化を後押ししています。
住まいについても、一つの場所に根を張るのではなく、住む場所を自由に変えながら暮らすスタイルが、じわじわと注目を集めています。

旅行業界では、連休があっても「どこかへ行く」ことをあえて選ばず、自宅でゆったり過ごすことに価値を見出す「ステイケーション」という過ごし方が広まっています。
旅行に行かないことが「妥協」ではなく、「自分らしい選択」として受け入れられるようになってきました。
外食の世界でも、レストランへ行くかわりに自分で食材を選び、丁寧に料理をする「内食」への回帰が注目されています。
忙しい日常の中でも「わざわざ外に出なくていい」という感覚が、ごく自然なものとして広がっているのです。

こうした変化が私たちに教えてくれることは、シンプルです。

人はいま、「なにを買うか」を考える前に、「そもそも、なぜ買うのか」を自分に問いかけるようになった。

その問いに対して、納得できる答えが見つからなければ、いくら良い商品でも手は伸びません。
「必要かどうか」を吟味する目が、以前とは比べものにならないほど厳しくなっているのです。

だからこそビジネスも、「うちの商品はこういうものです(WHAT)」と説明するだけでは、もはや不十分です。
「この事業は、いったい何のために存在しているのか(WHY)」—その問いへの答えを持つことが、これからの時代に求められています。

事例─「コピー機を売る印刷屋」から「想いを届ける会社」へ

あるデザイン印刷会社の話をご紹介します。

その会社は従業員8名の小さな印刷屋でした。
チラシやパンフレットを印刷するのが仕事で、「早い・安い・きれい」を武器に長年やってきました。
しかし、ネット印刷サービスが普及し、価格競争は激化する一方。
「安さ」では大手ネット業者にかなわず、売上は年々じわじわと下がっていきました。

社長はある日、お客さんとの会話の中で、ふとこんな言葉を聞きました。
「先代から付き合っているんだけどね、ここに頼むとなぜかお客さんの反応が違うんだよ」。

その一言が、社長の頭に引っかかりました。
「そういえば、うちはただ印刷しているんじゃなくて、お客さんの話をよく聞いて、どうすれば伝わるかを一緒に考えていたな」と。

それ以来、会社のコンセプトをこう変えました。

「地域の小さな会社の『想い』を、お客さんに届けるお手伝いをする」

チラシ1枚作るにしても、「このお店はどんな気持ちでお客さんと向き合っているのか」から聞き出し、それをデザインや文章に落とし込むプロセスを大切にしました。
価格は安くはありません。
でも、「ここに頼むと何かが違う」と感じるお客さんが増え、口コミで紹介が広がっていきました。

競合はネット印刷。
でも、この会社が戦っているフィールドは「印刷の速さや価格」ではなく、「小さな会社の想いを形にする」という意味の世界—そこには競合がいませんでした。

これがまさに、「WHAT(なにを売るか)」から「WHY(なんのために存在するか)」への転換です。

まとめ─あなたのビジネスの「WHY」は何ですか?

今日の消費者は賢く、情報にあふれた環境の中で生きています。
「安い」「便利」「高機能」だけでは選ばれない時代です。
人々は商品やサービスの裏側にある意味や背景に共感して、はじめて財布を開くようになりました。

そしてこれは、大企業よりもむしろ、地域に根ざした中小企業や個人事業者にとって、大きなチャンスでもあります。
なぜなら、大企業は「なぜ存在するか」を語ることが難しい反面、小さな会社は経営者自身の想いや背景がダイレクトにビジネスに反映されているからです。

あなたが今の仕事を始めた理由は何でしたか?
お客さんにどんな変化を起こしたくて、この仕事をしているのでしょうか?

その答えこそが、あなたのビジネスの「WHY」です。
それを言葉にして、お客さんに届けることができたとき、競合との価格競争から一歩抜け出すことができます。

「なにを売るか」は後からついてくる。
まずは「なんのために存在するか」を、ぜひ一度、じっくり考えてみてください。
それが、これからの時代を生き抜くビジネスの、最初の一歩です。

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