利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「やらないこと」を決めると、会社は強くなる ─ トレードオフという経営の知恵

「やらないこと」を決めると、会社は強くなる ─ トレードオフという経営の知恵

経営戦略としての「やらないこと」の決定

はじめに─「全部やる」が招く落とし穴

「売上を伸ばしたい」「新しいお客様を取り込みたい」「競合に負けたくない」─。
経営者なら誰もが抱えるこうした気持ちは、時に「あれもこれもやってみよう」という行動につながりがちです。

しかし、これが意外と危ない。
限られた人・お金・時間を少しずつあちこちに投じていると、どこにいっても「ほどほど」の会社になってしまいます。
お客様の記憶にも残りにくく、「あの会社といえばコレ!」という強みが育ちません。

経営学では、明確な「違い」を持った会社が長期にわたって安定した利益を生むことが知られています。
そして、その「違い」を作る秘訣は、「何をやるか」ではなく、「何をやらないか」を決めることにある─これが、今回お伝えしたいポイントです。

背景─「トレードオフ」とは何か

専門的な言葉で「戦略的ポジショニング(SP)」と呼ばれる考え方があります。
簡単に言えば、「市場の中で自社が占める独自のポジション(立ち位置)を明確にする」戦略です。

この戦略の土台になっているのが、「トレードオフ」という概念です。
「あちらを立てれば、こちらが立たぬ」という昔からある言葉がまさにピッタリです。

たとえば、レストランで考えてみましょう。
「低価格でスピーディに提供するファストフード路線」と「じっくり時間をかけて食材を吟味する高級路線」は、同時に追いかけることができません。
素材にこだわれば価格は上がる。
価格を下げようとすれば素材や手間を削らざるを得ない。
これがトレードオフです。

だからこそ、「どちらの路線に集中するか」を決め、そこに人もお金も知恵も全部注ぎ込んだ会社だけが、本当の意味での「強さ」を手に入れられます。
逆に「どちらも取ろう」とすると、中途半端な位置に留まるリスクが高まります。

また、「もっと頑張ろう」というだけでは差別化はできません。
ライバルも同じように頑張っているからです。
大切なのは、「頑張る方向(北か南か)」をはっきり決めること。
北に向かうと決めた瞬間、南には行かない、という選択が自動的に生まれます。
これがトレードオフの本質です。

事例─地方の小さな工務店が見つけた「やらない」という武器

静岡県内のある小規模工務店(従業員8名)の話をご紹介します。

創業当初、この工務店は「なんでもやります」スタイルでした。
新築住宅、リフォーム、外構工事、店舗の内装……依頼があれば断らずに受ける。
それでも仕事は回っていましたが、利益は薄く、スタッフは常に疲弊気味。
「この仕事は本当に得意なのか?」と社長自身も感じ始めていたそうです。

転機は、あるお客様からの一言でした。
「御社に頼んだのは、断熱に詳しいと聞いたから」─しかし実際には、断熱工事は数ある仕事のひとつに過ぎず、特別な専門性があるわけではなかったのです。

そこで社長は思い切った決断をしました。
「高断熱・高気密住宅の新築と、断熱リノベーションだけに絞ろう」。
店舗工事も、外構も、一般的なリフォームも、基本的には受けない。
一見すると「仕事を減らす」選択に見えます。

ところが、結果は逆でした。
断熱性能の高い家に特化したことで、技術力が急速に高まり、施工事例が積み上がり、口コミが広がりました。
「断熱住宅のことなら、あの工務店」という評判が地域に根付いていきました。

大手ハウスメーカーは、全国規模でさまざまな住宅スタイルに対応しなければならないため、特定の地域で「断熱特化」のポジションをとることが難しい。
つまり、大手が同じことをやろうとすると、これまで積み上げてきた営業網や標準仕様との矛盾(=トレードオフ)が生まれてしまうのです。

小さな工務店だからこそ、「やらないこと」を決めることで、大手が入り込みにくい「自分だけの場所」を確保できた。
これが、トレードオフを活かした戦略の力です。

「やらないこと」を決めるための考え方

では、自分の会社では何を「やらない」と決めればいいのか。
そのヒントとなる問いを3つご紹介します。

自社が一番得意なことは何か?

すべてのサービスや商品を振り返り、「お客様から特に喜ばれる」「他社よりも明らかにうまくできる」領域を探しましょう。
そこが「やること」の核心です。

「やめる」と何が良くなるか?

「やらないこと」を決めると、人・時間・お金が集中し、クオリティが上がります。
「やめたら困るか?」と考えがちですが、「やめると何が良くなるか?」の視点で考えてみてください。

ライバルが「真似しにくい」組み合わせになっているか?

「やること」と「やらないこと」の組み合わせが、他社に簡単に模倣されない仕組みを作ります。
すぐ真似できるものは、いずれ差が縮まります。
「真似したくてもできない理由」があるかどうかが、長続きする強みの鍵です。

まとめ─「絞ること」は、怖いことじゃない

「やらないことを決める」と聞くと、何か可能性を閉じるような、怖い感じがするかもしれません。
でも実際は逆です。
やることを絞れば絞るほど、そこに集中できる力が増し、「あの会社といえばコレ」という存在感が育っていきます。

小さな会社には、大手のように豊富な資金も人員もありません。
だからこそ、「全部やる」ではなく「これだけは誰にも負けない」を目指すほうが、はるかに賢い戦い方です。

今日から、自社の「やらないリスト」を作ってみてはいかがでしょうか。
意外と、そのリストの中に、あなたの会社の「本当の強み」が隠れているかもしれません。

ひとつひとつ丁寧に積み上げてきた「やること」に、誇りを持って集中していきましょう。
その先に、ライバルには真似できない、あなただけのポジションがきっと待っています。

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