利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

ターゲットは「絞る」より「くっきりさせる」が正解

ターゲットは「絞る」より「くっきりさせる」が正解

ターゲティングの本質は絞り込みではなく輪郭の明確さ

「誰にでも売れる商品」は、誰にも刺さらない

「うちのサービスは、誰でも使えます」「幅広い方にご利用いただけます」—こんな言葉を、ご自身のチラシや名刺に書いたことはありませんか?

気持ちはよくわかります。
せっかくのお客さまを取りこぼしたくない。
間口を広くしておけば、いろんな人が来てくれるはずだ。
そう思うのは、経営者として当然の感覚です。

でも、少し想像してみてください。
あなたが旅行先で夕食のお店を探しているとします。
目の前に二軒あります。
一軒は「和食・洋食・中華・何でもございます」という看板。
もう一軒は「地元の漁師が今朝とれた魚だけを使った定食屋」という看板。
さあ、どちらに入りたいと思いますか?

多くの人は、後者に引き寄せられます。
「何でもある」は、裏を返せば「何も特徴がない」とも受け取られてしまうからです。

これが、ターゲティングの核心です。
ターゲティングのよし悪しは、広さや狭さではなく、輪郭がはっきりしているかどうかにかかっています。

「誰向けか」が見えると、お客さまは安心する

ターゲティングとは、「このサービスは、こういう人のためのものです」と輪郭を描く作業です。

よくある誤解は、「ターゲットを絞る=お客さまを減らす」というものです。
でも実際はその逆です。
輪郭がはっきりすればするほど、「あ、これは私のことだ」と感じてくれる人が増えます。
人は、自分ごとだと感じた情報にしか反応しません。
ぼんやりしたメッセージは、たとえ1万人の目に触れても、誰の心にも届かないまま流れていきます。

あるマーケティングの研究でも、「全員に向けたメッセージは、誰にも届かない」という結果が繰り返し示されています。
逆に、特定の人に向けた言葉は、その人に強く刺さるだけでなく、似た境遇の人にも「もしかして私も?」と興味を持ってもらいやすくなります。

輪郭がはっきりしているということは、「何をしない会社か」が見えているということでもあります。
それは強みの裏返しです。

事例:学習塾から「夜型大人の英会話教室」へ

ある地方都市で、10年近く個人の英会話教室を営んでいた鈴木さん(仮名)の話をご紹介します。

鈴木さんの教室は、子どもから社会人まで幅広く受け入れていました。
週末の午前中は子どもたちに英語の発音を教え、平日の夕方は受験生、夜は仕事帰りの大人—そんなスケジュールで毎日フル稼働していたにもかかわらず、売上は伸び悩んでいました。
問い合わせの電話があっても、「どんな教室ですか?」と聞かれると、うまく説明できなかったといいます。
「何でもできます」と言えば言うほど、相手の反応は薄くなっていきました。

転機は、知人の経営者から一言もらったことでした。
「あなたの教室、夜に来る社会人の人たちって、すごく熱心だよね。なんであそこに絞らないの?」

その一言で、鈴木さんは教室の方向性を変えることにしました。
子どもや受験生のクラスは少しずつ整理し、平日の夜と週末の夜だけ、「仕事帰りの30〜50代が通う英会話教室」として再スタートを切ったのです。

チラシのキャッチコピーも変わりました。
「英会話ならお任せください」から「残業後でも通える、仕事に使える英語教室」へ。
地域の駅前や職場の掲示板にチラシを貼り直すと、問い合わせの数が増えただけでなく、「このチラシを見て、自分のことだと思った」という声が届くようになりました。

半年後、生徒数は以前とさほど変わっていないにもかかわらず、売上は1.4倍になっていました。
夜のクラスに特化したことで、一人あたりの授業料をやや高く設定できたこと、そして「仕事帰りに通える」という価値が明確になったことで、体験レッスンからの入会率が上がったからです。

鈴木さんが「減らした」のは、対象の幅だけです。
でも「増やせた」のは、届くべき人に届く言葉と、その人たちが感じてくれる安心感でした。

ターゲットの輪郭を描くための、シンプルな問いかけ

では、どうすれば輪郭がはっきりしたターゲット像を描けるのでしょうか。
難しく考える必要はありません。
次の三つの問いに答えるだけで、かなりクリアになってきます。

「今いるお客さまの中で、誰が一番喜んでくれているか?」

ターゲットは、ゼロから作るものではありません。
今すでにいるお客さまの中に、ヒントがあります。
特に熱心に通ってくれる人、口コミで友人を連れてきてくれる人—そんな人たちを観察してみてください。
年齢、職業、生活スタイル、どんな悩みを持っているか。
その共通点が、あなたのターゲット像の輪郭になります。

「その人はどんな言葉で悩みを語るか?」

ターゲットが定まったら、その人が「日常の言葉」でどう悩みを表現するかを考えます。
「英語力を向上させたい」ではなく、「会議で外国人の話についていけなくて恥ずかしかった」というような、リアルな声です。
その言葉をそのままチラシやSNSに使うと、一気に親近感が増します。

「その人にとって、うちを選ぶ理由は何か?」

これは差別化の問いでもあります。
「なぜ他の店ではなく、うちなのか」が答えられるなら、ターゲットへのメッセージが自然と生まれてきます。

まとめ:輪郭が「選ばれる理由」になる

ターゲティングは、お客さまを選り好みすることではありません。
「自分がいちばん力になれる人」に、「あなたのための場所があります」と伝えるための作業です。

広い網を張れば誰かに引っかかるかもしれません。
でも、輪郭のはっきりした旗を立てれば、その旗を探していた人が自ら歩み寄ってきます。

小さな会社だからこそ、大手には真似できない「誰かのための専門店」になることができます。
全員に届けようとするより、一人の心を動かす言葉を探す方が、長い目で見れば確実に結果につながります。

ターゲットを「絞る」のではなく、「くっきりさせる」。
その視点を少し持つだけで、あなたのビジネスの見え方が変わってくるはずです。

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