利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「問題」と「課題」、実はまったく違うものだとご存じでしょうか

「問題」と「課題」、実はまったく違うものだとご存じでしょうか

「問題」を見つけただけでは、会社は動かない

経営者の方とお話ししていると、こんな言葉をよく耳にします。

「うちの問題は、売上が伸びないことなんです」
「人手不足が問題で、なかなか前に進めなくて」

たしかに、そのお気持ちはよく分かります。
日々の忙しさの中で、頭を悩ませている事柄を「問題」とひとくくりにしてしまうのは、自然なことだと思います。

けれども、私は税理士として長年、中小企業の経営者の方々とお話をしてきた中で、あることに気づきました。
それは、「問題」を見つけただけでは、会社はなかなか前に進まないということです。
本当に会社を動かす力になるのは、「問題」ではなく、その先にある「課題」だと考えられます。

今日は、この「問題」と「課題」の違いについて、できるだけ身近な言葉でお話ししてみたいと思います。
難しい理論の話ではなく、明日からの経営に活かせる視点として、少しお付き合いいただければと思います。

税理士という仕事柄、私は決算書や資金繰りの数字を通して、会社の状態を拝見する機会が多くあります。
数字そのものは、良いも悪いも語りません。
しかし、その数字を経営者の方と一緒に眺めていると、「なぜこの数字になっているのか」「これから、どこを目指したいのか」という会話が、自然と生まれてきます。
この会話の中にこそ、「問題」と「課題」を分けて考えるヒントが隠れているように、私は感じています。

「問題」とは、目指す姿とのあいだにある「差」のこと

まず、「問題」とは何かを整理してみましょう。

「問題」とは、こうなりたいという理想の姿と、いま実際に置かれている状態とのあいだに生まれている「差」のことです。
たとえば、月商300万円を目指しているのに、実際は220万円しかない。この80万円の差が「問題」にあたります。

大切なのは、問題というものは、あくまでも「いまの状態の中」にあるという点です。
理想の姿そのものが問題なのではなく、理想と現実のあいだに生まれた食い違いこそが問題なのです。
この食い違いは、放っておくと会社にとって良くない影響を及ぼします。
だからこそ、向き合って解消していく必要があるわけです。

ここまでは、多くの経営者の方が、感覚的に理解されている部分だと思います。
「うちは売上が足りない」「お客様が定着しない」「若手が育たない」。
こうした言葉は、まさに理想と現実の差、つまり「問題」を言い表しているのではないでしょうか。

たとえるなら、「問題」とは、地図の上に立てた目的地と、いま自分が立っている場所とのあいだの距離のようなものです。
目的地までの距離が分かって初めて、「では、どの道を通ろうか」と考えることができます。
距離そのものは、あくまで現在地から見えている事実であって、それ自体を「歩く」ことはできません。
距離を縮めるためには、実際に足を動かす、つまり道を選んで歩き出す必要があります。
この「道を選んで歩き出す」部分こそが、次にお話しする「課題」にあたります。

「課題」とは、その差を埋めるために「やる」と決めたこと

ここからが、今日いちばんお伝えしたいところです。

「課題」とは、理想の姿と現実の差を埋めるために、「これをやろう」と決めたことを指します。
英語で言えば「What to do」、つまり「何をするか」という、行動そのものにあたる言葉です。

たとえば、先ほどの「月商が80万円足りない」という問題があったとします。
この問題に対して、「新しいお客様を増やすために、紹介をいただいた方への特典を用意しよう」と決めたとしたら、それが課題です。
あるいは、「既存のお客様への提案回数を月1回増やそう」と決めたなら、それもまた課題になります。

つまり、問題は「気づくもの」であり、課題は「決めるもの」だと言い換えることもできそうです。
問題は現状の中にじっと存在していますが、課題は経営者が自らの意志で選び取り、これから先に向けて動かしていくものなのです。

この違いを聞くと、「なるほど、たしかに違う」と感じていただけるのではないかと思います。
ただ、実際の経営の現場では、この二つがしばしば混同されてしまいます。
次は、その理由について考えてみたいと思います。

なぜ、この二つは混同されやすいのでしょうか

私がこれまでお会いしてきた経営者の方々を思い返すと、真面目で責任感の強い方ほど、「問題」を見つけた瞬間に、それをそのまま「やるべきこと」だと思い込んでしまう傾向があるように感じます。

たとえば、「売上が足りない」という問題に気づいたとき、「とにかく売上を上げなければ」という気持ちだけが先走ってしまう。
けれども、「売上を上げる」という言葉自体は、実はまだ課題にはなっていません。
なぜなら、「何をするか」が具体的に決まっていないからです。

これは、たとえるなら、体調が思わしくないときに、「早く元気にならなければ」とだけ考えて、実際には何科の病院に行くのか、どんな検査を受けるのかを決めていない状態に似ています。
「元気になりたい」という気持ちは強くても、それだけでは体調は良くなりません。
「まずは近くの内科を受診してみよう」と、具体的な一歩を決めて初めて、状況は動き出すのではないでしょうか。

経営も同じで、「問題」に気づいた段階で立ち止まってしまうと、焦りばかりが募り、行動に結びつきにくくなります。
逆に、問題をきちんと見極めたうえで、「では何をするか」という課題にまで落とし込むことができれば、驚くほど気持ちが軽くなり、動きやすくなるものです。

もう一つ、混同が起きやすい理由があります。
それは、小さな会社ほど、いくつもの問題が同時に目の前に広がっているという事情です。
売上のこと、人材のこと、資金繰りのこと、設備のこと。
どれも気になりますし、どれも放っておけません。すると、頭の中はいくつもの問題でいっぱいになり、「結局、何から手をつければいいのか」が分からなくなってしまいます。

これは、机の上に書類が山積みになっている状態に似ているかもしれません。
どの書類も大事に見えると、かえってどれから手をつけていいか分からなくなるものです。
けれども、いったん山を崩して、一枚ずつ「これは今日中に片付ける」「これは来週でよい」と仕分けしていくと、不思議と手が動き始めます。
問題も同じで、いくつも抱えているときほど、まずは一つを選び、その一つについて「理想と現実の差は何か」「では何をするか」と、丁寧に順を追って考えてみることが、道を開く助けになるのではないでしょうか。

ある家具工房の物語

ここで、一つの物語をご紹介したいと思います。

従業員7名で小さな家具工房を営む田中さん(仮名)は、ここ数年、悩みを抱えていました。
「うちは、注文が思うように増えない」というのが、田中さんの口癖でした。
展示会に出展したり、チラシを配ったりと、できることはやっているつもりでしたが、状況はあまり変わりません。

あるとき、田中さんとじっくりお話しする機会がありました。
「注文が増えない」という言葉を、もう少し掘り下げてみることにしたのです。
理想の姿を尋ねてみると、田中さんは「月に5件、新規のお客様から注文をいただきたい」とおっしゃいました。
では、実際はどうかと聞くと、月に2件ほどとのことでした。
ここで初めて、「3件分の差」という、具体的な問題の姿が見えてきたのです。

さらに話を聞いていくと、面白いことが分かりました。
田中さんの工房を訪れたお客様の多くは、実際に工房を見学した方からの紹介だったのです。
つまり、工房の雰囲気や職人の手仕事を「見て」もらえたお客様は、高い確率で注文につながっていました。
一方で、チラシやホームページだけを見たお客様は、なかなか一歩を踏み出せずにいたのです。

ここまで分かると、「注文を増やす」という漠然とした思いが、「工房見学の機会を、もっと多くの見込みのお客様に届けよう」という、具体的な課題へと姿を変えました。
田中さんは、月に一度、工房を開放する見学会を始めることに決めました。
これは、単なる思いつきではなく、理想と現実の差をきちんと見極めたうえで選び取った、一つの課題だったのです。

半年後、田中さんの工房には、見学会をきっかけに注文をいただくお客様が着実に増えていきました。
見学会に来られた方は、職人が木を削る音や、木くずの香りを実際に感じることで、写真や文章だけでは伝わらない安心感を持ち帰ってくださったようです。
田中さん自身も、「何から手をつけていいか分からない状態から抜け出せた」と話してくださったことを、よく覚えています。

もし田中さんが、「注文を増やさなければ」という焦りのまま、闇雲にチラシの枚数を増やしたり、値段を下げたりしていたら、どうなっていたでしょうか。
おそらく、労力のわりに効果は薄く、疲れだけが残っていたかもしれません。
理想と現実の差を丁寧に見つめ、そこから生まれた事実にもとづいて課題を選んだからこそ、小さな見学会という一歩が、着実な成果につながったのだと思います。

「問題」から「課題」へ、進めていくための小さな一歩

田中さんの物語からも分かるように、「問題」を「課題」に変えていくためには、いくつかの手がかりがあるように思います。

一つ目は、理想の姿を、できるだけ具体的な言葉にしてみることです。

「もっと良くしたい」ではなく、「何を、どれくらい」実現したいのかを、数字や状態で表してみる。
ここが曖昧なままだと、差そのものが見えにくくなってしまいます。

二つ目は、いまの状態を、感覚ではなく事実として捉え直してみることです。

田中さんの場合、「注文が増えない」という感覚だけでなく、「月2件」という事実に目を向けたことで、差の大きさがはっきりしました。

三つ目は、見えてきた差に対して、「では、何をするか」を一つだけ決めてみることです。

あれもこれもと欲張らず、まずは一つで構いません。
「まずは工房見学会から始めてみる」というように、小さくても具体的な一歩を選ぶことが、次の行動につながっていくのではないかと思います。

四つ目として、決めた課題には、必ず期限を添えてみることをおすすめしたいと思います。

「工房見学会を始める」だけでは、いつまでも明日から明日からと先延ばしになりがちです。
「来月の第一土曜日に、一回目を開こう」というように、日付を決めてしまうと、気持ちの上でも動き出しやすくなります。

そして、実際に動き出したあとは、一定の期間が経ったところで、一度立ち止まって振り返ってみることも大切です。
田中さんの場合も、見学会を始めてすぐに結果が出たわけではありませんでした。
一回目、二回目と重ねる中で、案内の仕方や開催時間を少しずつ見直しながら、半年という時間をかけて成果につなげていったのです。
課題は、決めて終わりではなく、動かしながら育てていくものだと考えると、少し気持ちが楽になるのではないでしょうか。

こうして考えてみると、「問題」と「課題」を分けて捉えることは、決して難しい理論ではなく、日々の経営判断を少し整理するための、身近な道具のようなものだと感じていただけるのではないでしょうか。

最後に:小さな会社にこそ、この視点が力になる

従業員数名から十数名ほどの会社では、経営者お一人が、営業も、現場も、資金繰りも、すべてを見なければならないことが少なくありません。
そうした中で、「問題」ばかりが目につき、「何から手をつければいいのか分からない」と感じてしまうのは、決して珍しいことではないと思います。

ですが、問題を丁寧に見つめ直し、「では、何をするか」という課題にまで落とし込むことができれば、その一歩は、思っているよりずっと軽やかに踏み出せるものです。
大きな改革である必要はありません。
田中さんが始めた月一度の見学会のように、小さな一歩で十分なのです。

もし今、頭の中に「問題」がいくつも浮かんでいるとしたら、その一つを選び、理想の姿と現実の差を、紙に書き出してみるところから始めてみるのも一つです。差がはっきり見えたとき、次にやるべきことは、案外シンプルに見えてくるかもしれません。

経営という長い道のりの中で、立ち止まってしまう瞬間は、誰にでもあります。
そんなときこそ、「問題」と「課題」を分けて考えるという、この小さな視点が、次の一歩を後押ししてくれるのではないかと、私は感じています。

私自身、日々の面談の中で、経営者の方が「なんとなくモヤモヤしていたことが、話しているうちにすっきりした」とおっしゃる瞬間に、何度も立ち会ってきました。
多くの場合、それは新しい知識が増えたからではなく、頭の中にあった「問題」と「課題」が、きちんと分かれて見えるようになっただけなのです。
難しいことをする必要はありません。理想の姿を思い描き、今の状態と見比べ、そこから一つだけ「やる」と決める。
この積み重ねが、会社を少しずつ、しかし確実に、理想の姿へと近づけていくのではないかと思います。

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