利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

商談の最初の一言で、その後の関係が変わる

商談の最初の一言で、その後の関係が変わる

お客様の心を開く、シンプルな質問の力

多くの経営者の方が、営業や商談というと、まず「商品の良さをどう伝えるか」「価格をどう見せるか」を考えるのではないでしょうか。
もちろんそれも大切なことです。
ただ、実際に長くお付き合いが続くお客様との関係を振り返ってみると、最初の会話の中身が、その後の信頼関係を大きく左右していたという経験をお持ちの方も多いのではないかと思います。

私自身、これまで長年にわたり、さまざまな業種の経営者の方とお話をしてきました。
その中で感じるのは、うまくいっているお付き合いには、共通して「早い段階で相手の人となりを知ろうとした時間」があるということです。
今回は、初めてお会いするお客様との距離を、驚くほど早く縮める「ある問いかけ」についてお話ししたいと思います。
特別な話術ではありません。
誰でも、今日から使える、とてもシンプルな考え方です。

なぜ、人は「知っている人」から買いたくなるのか

私たちは、初めて会う人からモノやサービスを買うとき、多かれ少なかれ不安を感じるものです。
この人は信頼できるのだろうか、無理な売り込みをされないだろうか、そうした警戒心を、誰もが少しは持っています。
これは決して、その人が疑い深いからではありません。
人として自然な反応だと考えられます。

一方で、長年お付き合いのある知人や、昔からの友人に何かを勧められたときは、その警戒心はぐっと下がるものです。
それは、相手の人となりを知っているからです。
どんな考え方をする人か、これまでどんな経験をしてきた人か、それを知っているからこそ、安心して話を聞けるのではないでしょうか。

これは、病院にたとえるとわかりやすいかもしれません。
初めて訪れた病院の先生よりも、子どもの頃から通っている、家族のことも知っているかかりつけの先生のほうが、なんとなく安心して相談できるという方も多いのではないでしょうか。
それは、腕の良し悪し以前に、その先生が自分のことをどれだけ知っているかによるところが大きいように思います。

つまり、商売がうまくいくかどうかの土台には、商品の説明よりも先に「この人はどんな人だろう」という相手への理解があると考えられます。
値段や機能の比較だけで選ばれるお店と、あの人から買いたいと思ってもらえるお店とでは、長い目で見たときの安定感がまったく違うのではないでしょうか。
値段の比較だけで選ばれた関係は、より条件の良い相手が現れれば、いつでも入れ替わってしまう可能性があります。
一方で、人となりを知った上で選ばれた関係は、多少の条件の違いがあっても、簡単には揺らがないものだと考えられます。
そして、この理解を短い時間で深める方法の一つが、これからお話しする問いかけです。

「なぜ、この仕事を始めたのですか」という一言に込められた力

その問いかけとは、シンプルに言えば「なぜ、この仕事、あるいはこの事業を始められたのですか」とお客様に尋ねることです。

一見すると、商談の本題とは関係のない世間話のように思えるかもしれません。
しかし、この質問には、実はとても大きな意味があります。

人が何かを始めた理由には、たいてい、その人自身の過去の経験が関わっています。
子どもの頃の思い出だったり、誰かとの出会いだったり、あるいは苦労した時期の話だったりします。
つまり、この問いかけは、相手の個人的な歴史に触れるきっかけになるのです。

そして、個人的な歴史を知っている相手というのは、私たちにとってごく親しい人に限られます。
家族でさえ知らないような話を打ち明けられるのは、心を許した友人くらいではないでしょうか。
もし、初めて会ったばかりの相手が、そうした話に静かに耳を傾けてくれたとしたら、お客様の中で、その人への心の距離は、自然と縮まっていくと考えられます。

もちろん、聞くだけで終わらせるのではなく、こちらからも自分自身のことを少しお伝えすることが大切です。
一方的に聞き出すだけでは、尋問のようになってしまいます。
お互いに少しずつ自分のことを話し、知り合っていく時間を持つことで、初めて対等な関係が生まれるのではないでしょうか。

そうして、お互いの人となりを知り合う時間を十分に取った上で、はじめて本題である商品やサービスの話に入っていく。
この順番を大切にすることが、遠回りのようで、実は一番の近道になると考えられます。

なぜ、多くの経営者がこの質問をためらってしまうのか

ここまで読んで、頭では理解できても、実際にお客様の前でこうした質問をするのは気が引けるという方も多いのではないかと思います。

その理由として、まず「初対面なのに立ち入った話をして、失礼にならないだろうか」という不安があるように思います。
プライベートなことを尋ねるのは、相手との関係ができてからにすべきだと考えるのは、ごく自然な感覚です。
もう一つは、「早く本題に入らないと、時間を無駄にしていると思われるのではないか」という焦りではないでしょうか。
特に忙しい中で商談の時間をいただいている場合、雑談に時間を使うことに罪悪感を覚える経営者の方も少なくありません。

判断が止まってしまうのは、たいていこの二つの不安が重なったときだと考えられます。
しかし、実際にお客様の立場に立ってみると、自分の話に興味を持って耳を傾けてくれる相手を、失礼だと感じることはほとんどないのではないでしょうか。
むしろ、自分のことを知ろうとしてくれたと、好意的に受け止められることのほうが多いように思います。
大切なのは、質問の内容そのものよりも、聞く側の姿勢が、興味と敬意に満ちているかどうかなのだと考えられます。

事例:庭づくりの会社が大切にした最初の質問

ここで、ある造園会社、つまり庭木の手入れや庭のリフォームを手がける会社の話をご紹介したいと思います。
この会社の経営者は佐藤さんです。

佐藤さんの会社は、以前は新規のお客様と初めて顔を合わせると、すぐに庭の状態を確認し、工事の見積もりの話に入っていました。
効率よく仕事を進めるためには、それが当然だと考えていたそうです。
しかし、なかなか契約に至らないことも多く、他社との価格比較で終わってしまうケースが目立っていました。

あるとき佐藤さんは、長年の付き合いがある取引先の紹介で契約してくれたお客様との商談を振り返り、あることに気づきました。
そのお客様とは、雑談の中で「なぜ今のタイミングで庭を直そうと思われたのですか」という話になり、そこから、亡くなったお父様が大切にしていた庭を残したいという思いを聞かせてもらっていたのです。
その話を聞いてから、佐藤さんは自然と、価格だけでなく、その庭にどんな思いを込めて手を入れるかを一緒に考えるようになっていました。

この経験から、佐藤さんは初回の打ち合わせの最初に、必ず一つ質問をするようにしました。
「なぜ、このタイミングで庭のことを考えられたのですか」という問いです。
最初のうちは、これで本当に商談として成り立つのだろうかと、少し不安もあったそうです。

すると、多くのお客様が、単に古くなったからというだけでなく、家族との思い出や、これからの暮らし方への願いを話してくれるようになりました。
子どもが独立して庭を眺める時間が増えたという話や、これから孫を庭で遊ばせたいという話など、一つひとつのお客様の背景は、それぞれ違っていたそうです。そうした話を丁寧に受け止めた上で提案をすると、見積書の金額だけで比較されることが減り、契約に至る割合も少しずつ高まっていったといいます。
しばらくすると、契約してくれたお客様が、近所の方を紹介してくれることも増えたそうです。
価格だけで選ばれたお客様は、より安い会社が現れれば離れていきますが、思いを受け止めてもらったお客様は、簡単には離れないのかもしれません。

佐藤さんはこう振り返っています。
「以前は、早く本題に入ることが誠実さだと思っていました。でも本当は、相手のことを知ろうとする時間こそが、一番の誠実さだったのかもしれません」

質問を準備しておくことの意味

とはいえ、初めて会うお客様に対して、その場で気の利いた質問を思いつくのは、簡単なことではありません。
だからこそ、あらかじめいくつか、個人的な背景を尋ねる質問を用意しておくことが助けになると考えられます。

「なぜこのお仕事を始められたのですか」という問いのほかにも、「今のお住まいを選ばれた理由」や「この地域で長く続けてこられた理由」、「今回、このタイミングでご相談しようと思われたきっかけ」など、相手の歴史や背景に触れられる質問はいくつも考えられます。
業種やお客様の状況に合わせて、自分なりの質問を三つほど手元に持っておくと、いざというときに落ち着いて使えるのではないでしょうか。

大切なのは、質問そのものよりも、その答えを本当に興味を持って聞く姿勢だと思います。
台本通りに質問するだけでは、相手にもその気持ちが伝わってしまうものです。
答えを聞いたら、そこに軽く相づちを打つだけでなく、もう一歩踏み込んで「それは、どんなきっかけだったのですか」と重ねて尋ねてみるのも良いのではないでしょうか。

一歩を踏み出すための小さな工夫

いきなり大きく商談のやり方を変える必要はないと思います。
まずは、次の一件だけ、この質問を試してみるつもりで臨んでみるのも一つの方法ではないでしょうか。
頭の中で考えているだけでは、なかなか実行に移せないものです。
手帳やメモに、使ってみたい質問を一つ書き出しておくだけでも、当日の心構えが変わってくるように思います。

また、質問をする前に、自分自身のことも少し話しておくと、相手も答えやすくなるように思います。
たとえば「実は私も、この仕事を始めたきっかけは家族の一言だったんです」といった具合に、先に自分の話を差し出すことで、相手も自然に心を開きやすくなると考えられます。

うまく答えが引き出せなかったとしても、気にしすぎる必要はありません。
すべてのお客様が、初対面ですぐに深い話をしてくれるわけではないからです。
それでも、関心を持って尋ねてくれたという事実だけで、印象に残ることは十分にあると考えられます。
焦らず、一つずつ試していくくらいの気持ちで、ちょうど良いのではないでしょうか。

営業の場面だけではない、この考え方の広がり

ここまで、新しいお客様との商談を例にお話ししてきましたが、この考え方は、営業の場面に限られたものではないと感じています。

たとえば、社内で新しく入ったスタッフとの関係づくりにも、同じことが言えるのではないでしょうか。
仕事の指示を出す前に、その人がなぜこの会社を選んでくれたのか、これまでどんな経験をしてきたのかを聞く時間を持つことで、指示の伝わり方も変わってくるように思います。
何を任せれば力を発揮してもらえるかも、見えてくるかもしれません。

また、取引先や紹介者との関係でも、業務連絡だけで終わらせず、相手の歩んできた道のりに関心を持つことは、長く続く信頼関係の土台になると考えられます。地域の集まりや異業種の交流の場でも、名刺交換のあとにこうした一言を添えるだけで、その後のお付き合いの深まり方が変わってくるのではないでしょうか。

長年、経営者の方々とお付き合いをさせていただく中で感じるのは、事業がうまく続いている会社ほど、こうした「人を知ろうとする姿勢」を、どこかで自然に持っているということです。
それは特別な才能ではなく、日々の小さな心がけの積み重ねなのだと思います。

まとめ:まずは一つ、聞いてみることから

商品やサービスの価値を伝えることはもちろん大切です。
ただ、その前に、相手がどんな人で、なぜ今、目の前にいるのかを知ろうとする時間を持つことも、同じくらい大切なのではないでしょうか。

明日からすべてを変える必要はないと思います。
まずは、次に新しいお客様とお会いする際に、一つだけ、相手の背景に触れる質問を用意してみる。
そこから始めてみるのも一つの方法ではないかと思います。

小さな質問が、思いがけず深い信頼関係につながることもあります。
ぜひ、日々の商談や打ち合わせの中で、試してみていただければと思います。

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