利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「同じ商品」なのに、なぜ値段がこんなに違うのでしょうか

「同じ商品」なのに、なぜ値段がこんなに違うのでしょうか

同じコーヒーなのに、なぜ値段が10倍違うのか?経営者が知っておきたい「価値」の話

想像してみてください。近所のコンビニで缶コーヒーを買えば、150円ほどで済みます。
ところが、少し格式のあるホテルのラウンジで、同じように一杯のコーヒーを注文すると、1,000円を超えることも珍しくありません。

同じ「コーヒー」という飲み物のはずなのに、なぜこれほど値段に差が生まれるのでしょうか。
しかも不思議なことに、ホテルでコーヒーを飲んだお客様は「高い」と不満を口にするどころか、満足そうな表情で店を後にすることが多いのです。

この違いを、なんとなく不思議に思ったことがある経営者の方は、案外多いのではないでしょうか。
考えてみれば、私たちの身の回りには、同じような不思議がいくつも転がっています。
近所の食堂で食べる定食と、少し洒落たレストランで食べる同じような品目の食事。
駅前の量販店で買う日用品と、行きつけの小さな専門店で買う同じ日用品。
値段の差は、材料そのものの差だけでは、とても説明がつきません。

実は、この素朴な疑問の中にこそ、これから自社の商売を見つめ直していくうえで、とても大切なヒントが隠れていると筆者は考えています。

なぜ経営者は、こうした疑問を見過ごしてしまうのか

日々の経営は、想像以上に忙しいものです。
仕入れの手配、従業員のシフト調整、お客様対応、資金繰りの確認——目の前の業務に追われていると、「自分たちは、そもそも何を売っているのだろう」という根本的な問いに、じっくり向き合う時間はなかなか取れません。

私は税理士として、長年にわたり中小企業の経営者の方々とお話をしてきました。
多くの方が口にされるのは、「値段のことで悩んでいる」というお話です。
「もっと安くしてほしい」と言われる、近くに安売りの競合ができた、価格を上げたら客足が遠のくのではないか—こうした悩みは、業種を問わず、本当によく耳にします。

こうした悩みが生まれる背景には、実は「自分たちが売っているもの」を、商品や作業そのものだと捉えてしまっているケースが少なくないように思います。
もちろん、それ自体は自然なことです。
日々、目の前の商品やサービスを提供し続けているのですから、それが「売っているもの」だと感じるのは無理もありません。
けれども、少し視点を変えてみると、また違った景色が見えてくることがあります。

モノを売る商売と、体験を売る商売

経営には、大きく分けて二つの売り方があると考えられます。
一つは「モノ」そのものを売る売り方、もう一つは、そのモノを通じて得られる「体験」や「安心感」を売る売り方です。
難しく聞こえるかもしれませんが、身近な例で考えると、意外とすんなり理解できるのではないでしょうか。

たとえば、スーパーやディスカウントストアに並ぶ商品の多くは、「同じような品物が、他の店にもある」という状況に置かれています。
お客様からすれば、A店で買ってもB店で買っても、味や品質にそれほど違いを感じません。
だからこそ、お客様は自然と「少しでも安いところ」を探すようになります。
お店の側も、それに応えるために原価を下げたり、大量に仕入れることでコストを圧縮したりする努力を重ねることになります。
ここでは、これを「モノを売る商売」と呼んでみます。

一方、先ほどのホテルのラウンジは、コーヒーという飲み物そのものだけを売っているわけではありません。
落ち着いた雰囲気の空間、丁寧に接してくれるスタッフ、ゆったりと流れる時間——そうした「そこでしか味わえないひととき」ごと、お客様に届けているのです。お客様が支払っているのは、コーヒー豆の原価ではなく、その場で得られる心地よさそのものだと考えられます。
これを「体験を売る商売」と呼ぶことにします。

大切なのは、どちらが優れているという話ではないということです。
ただ、多くの中小企業や個人事業の経営者にとって、実は「モノを売る商売」という土俵で戦い続けることは、想像以上に厳しい道のりになりやすいという現実があります。

経営の言葉で言えば、「体験を売る商売」は、他社とはっきり区別される特徴、いわゆる差別化(他社との違いをはっきりさせることです)ができている状態だと言えます。
そしてこの差別化は、必ずしも大掛かりな設備投資や、目新しい技術を必要とするわけではありません。
日々の接し方や、ちょっとした心配りの積み重ねからでも、十分に生まれてくるものだと筆者は考えています。

価格競争に巻き込まれやすい会社、巻き込まれにくい会社

「モノを売る商売」で本当に強さを発揮できるのは、実はその業界の中でもごく一部の会社に限られると考えられます。
それは、圧倒的な規模を持ち、大量に仕入れることで原価そのものを下げられるような、いわば「業界の顔」と呼べるような会社です。
こうした会社は、価格を下げても十分な利益を確保できる体力がありますから、価格競争そのものを強みに変えることができます。

しかし、従業員10名前後の会社や個人事業主が、規模の大きな会社と同じ土俵で価格だけを比べられてしまうと、どうしても分が悪くなります。
仕入れ値にも、広告にかけられる予算にも、体力の差が出てしまうからです。
値段を下げれば下げるほど、利益は削られ、従業員に無理をさせることにもつながりかねません。

ここで大切なのは、「価格で比べられてしまう」ということ自体が、実はお客様の側から見て「他の店との違いがよくわからない」というサインでもある、という点です。
裏を返せば、お客様が「この会社だからこそ頼みたい」と感じてくださる部分をつくることができれば、価格だけで比べられる土俵から、少しずつ抜け出していけるのではないでしょうか。

これは、特別な会社だけができる話ではないと、私は考えています。
むしろ、日々お客様と直接顔を合わせている中小企業や個人事業だからこそ、大きな会社には真似のしにくい「その場ならでは、その人ならではの価値」をつくりやすい面もあるはずです。

大きな会社は、効率を優先するあまり、どうしても対応が画一的になりがちです。
マニュアル通りの対応が悪いわけではありませんが、そこには「あなただから」という特別感が生まれにくいものです。
反対に、規模が小さいからこそ、お客様一人ひとりの名前や事情を覚え、その方に合わせた対応ができる。
これは、大企業にはなかなか真似のできない、中小企業ならではの強みではないでしょうか。

なぜ「値段を下げる」以外の道に踏み出しにくいのか

とはいえ、頭ではそう理解できても、実際に一歩踏み出すのは簡単ではありません。
多くの経営者が、ここで足踏みをしてしまいます。その理由の一つは、「値段を上げたら、お客様が離れてしまうのではないか」という不安ではないでしょうか。

長年付き合ってきたお客様の顔が浮かぶと、値上げの相談を切り出すことに、どうしても気が引けてしまうものです。
また、「うちには特別な強みなんてない」と、ご自身の会社の価値を控えめに捉えてしまう経営者の方も、決して少なくありません。

さらに言えば、日々同じ仕事を続けていると、自分たちの仕事の中にある価値そのものが「当たり前」に感じられてしまうことも、判断が止まる大きな理由の一つではないでしょうか。
長年やってきたことだからこそ、その価値の大きさに、当の本人だけが気づきにくいのです。
これは、決して珍しいことではありません。

けれども、実際にお客様の声を丁寧に聞いてみると、経営者自身が気づいていなかった魅力が見えてくることは、珍しくないのです。
次にご紹介する事例も、まさにそうした気づきから始まった話です。

ある美容室オーナーが気づいたこと

ここで、一つの事例をご紹介したいと思います。
ある地方都市で小さな美容室を営む佐藤さんの話です。

佐藤さんの店の近くに、数年前、いわゆる低価格カット専門店ができました。
カットだけであれば短時間で、しかも従来の半額近い料金で済ませられる店です。
オープン直後は、佐藤さんの店からも何人かのお客様が、そちらに流れてしまったといいます。

佐藤さんは最初、「うちも値段を下げるべきなのだろうか」と真剣に悩みました。
けれども、値段を下げれば下げるほど、一人あたりにかけられる時間や手間は削られていきます。
それでは、これまで大切にしてきた接客の質そのものが失われてしまうと感じ、値下げには踏み切りませんでした。

そこで佐藤さんは、少し発想を変えてみることにしました。
「うちは髪を切る店ではなく、お客様が自分らしさを取り戻す時間を提供する店なのではないか」と考えたのです。
カット前のカウンセリング(お客様の希望や悩みをじっくり聞き取る時間のことです)に、これまで以上に時間をかけるようにしました。
仕上がりだけでなく、日々の髪の手入れ方法や、その方の骨格や雰囲気に合った提案も、丁寧に行うようにしたのです。

最初のうちは、「時間をかけすぎて、かえって効率が悪いのではないか」と不安になることもあったそうです。
それでも続けているうちに、少しずつ変化が現れ始めました。
「相談に乗ってもらえるのが嬉しい」「ここに来ると気持ちが軽くなる」という声が増え、価格を多少上げても離れていくお客様は少なく、むしろ新しいお客様が紹介で訪れるようになったといいます。

佐藤さんが変えたのは、技術そのものではありません。
「髪を切るという作業」を売るのではなく、「安心して任せられる時間」を売るという意識に切り替えたことが、結果として価格競争から距離を置くことにつながったのではないでしょうか。

自分の会社は何を売っているのか、考えてみる

この話は、美容室に限った話ではないはずです。
飲食店であれば、料理そのものだけでなく、店主やスタッフとの会話、店に流れる空気感が「その店らしさ」をつくっているかもしれません。
製造業であれば、製品そのものだけでなく、納期の相談に柔軟に応じてくれる安心感や、困ったときにすぐ駆けつけてくれる関係性が、価値の一部になっていることもあるでしょう。
小売業であれば、商品知識の豊富な店員が、その人に合った一品を選んでくれることそのものが、大きな価値になっているかもしれません。
士業や専門サービス業であれば、複雑な手続きそのものよりも、「この人に相談すれば安心だ」という信頼感こそが、選ばれる一番の理由になっていることも多いのではないでしょうか。

もし今、価格のことで悩んでいらっしゃるようであれば、一度「自社が本当に売っているものは何か」を、あらためて考えてみるのも一つの方法かもしれません。
商品そのものの機能や性能はもちろん大切ですが、それに加えて、お客様が最終的にどのような気持ちや安心感を得て帰っていくのか、という視点を持ってみるのです。

まずは小さな一歩から

いきなり大きく事業のやり方を変える必要はありません。
まずは、今いるお客様に「うちのどんなところが良くて、ずっと頼んでくださっているのですか」と、素直に尋ねてみることから始めてみるのも一つです。
経営者自身が気づいていなかった「うちならではの価値」が、お客様の言葉の中に隠れていることは、決して珍しくありません。

また、長く続けてくださっているお客様と、一度きりで離れてしまったお客様を比べてみるのもよいかもしれません。
両者を分けている理由の中に、価格以外の何かが見えてくることがあります。
それは接客の丁寧さかもしれませんし、相談のしやすさかもしれませんし、ちょっとした一言の心配りかもしれません。

小さな気づきを一つずつ積み重ねていくことが、価格競争から距離を置くための、確かな一歩になっていくのではないでしょうか。

おわりに

価格で比べられてしまうのは、決して経営者の努力が足りないからではありません。
ただ、同じ商品やサービスであっても、その先にある「時間」や「安心感」、「その人らしさ」まで含めてお客様に届けようとする姿勢が、結果として価格以外のところで選ばれる理由になっていくのだと考えられます。

日々忙しく経営に向き合っている中で、こうした視点をじっくり意識する余裕がないと感じることもあるかもしれません。
けれども、ほんの少し立ち止まって「自分たちは、お客様に何を届けているのだろう」と考えてみるだけでも、これからの商売のヒントが見えてくるのではないでしょうか。

皆様の会社ならではの価値は、きっと、すでにお客様の中にあります。
そう思いながら、日々の仕事に向き合っていただけたら幸いです。

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