利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「なぜ選ばれているのか」を、もう一段深く掘り下げてみる

「なぜ選ばれているのか」を、もう一段深く掘り下げてみる

お客様の「本当の理由」に、あと一歩近づく質問の仕方

多くの経営者の方とお話をしていると、こんな場面によく出会います。
「御社は、お客様からどんな理由で選ばれているとお考えですか」とお尋ねすると、最初はすらすらと答えが返ってきます。
「価格が手頃だから」「対応が早いから」「近所だから」といった具合です。
ところが、「では、なぜ価格の手頃さが、そのお客様にとってそれほど大切なのでしょうか」と、もう一歩踏み込んでお聞きすると、多くの方が一瞬、言葉に詰まってしまわれます。

これは決して珍しいことではありません。
むしろ、自社が選ばれている本当の理由を、経営者ご自身が正確に言葉にできていないケースのほうが多いのではないかと感じています。
そしてこの「理由の掘り下げ方」には、実はちょっとしたコツがあります。
今日は、そのコツについて、なるべく分かりやすくお話ししてみたいと思います。

表面的な理由と、あまりに大きすぎる理由

お客様が自社を選んでくださる理由を考えるとき、経営者が陥りやすい落とし穴が二つあります。
一つは「理由が浅すぎる」こと、もう一つは「理由が深すぎる」ことです。
少し不思議に聞こえるかもしれませんが、どちらも、次に打つべき手を見えなくしてしまうという意味では、同じくらい困った状態だと言えます。

まず「浅すぎる理由」から見ていきましょう。
これは、その理由を聞いたときに、「では、なぜそう思うのですか」という次の疑問がすぐに湧いてくるようなものを指します。
先ほどの「価格が手頃だから」という答えも、実はこのタイプに当てはまります。
世の中には、価格が手頃な選択肢はほかにもたくさんあるはずです。
それなのに、なぜそのお客様は、数ある「手頃な選択肢」の中から、あえて御社を選んだのでしょうか。
その問いに答えられて初めて、本当の理由に近づいたと言えるのではないでしょうか。

一方で「深すぎる理由」というのも存在します。
これは、あまりに根源的で、どんな商売にも当てはまってしまうような理由のことです。
たとえば「お客様は、安心して暮らしたいと思っているから」「豊かな人生を送りたいと思っているから」といったものです。
これらは、人間として自然な願いではありますが、あまりに大きすぎて、御社ならではの理由にはなりません。
同業他社にも、まったく異なる業種にも、そのまま当てはまってしまうからです。
これでは、明日から何を変えればよいのか、具体的な行動には結びつきにくいものです。

大切なのは、この「浅すぎる」と「深すぎる」のちょうど中間、御社という商売と、まだしっかりつながりを保っていられる、いちばん深いところを探ることではないかと思います。

なぜ、この「深さ」にこだわる意味があるのか

ここで少し、なぜこうした理由探しに時間をかける価値があるのか、立ち止まって考えてみたいと思います。

従業員10名前後の会社の場合、大企業のように広告費を潤沢にかけたり、価格そのもので勝負したりするのは、なかなか難しいものです。
そうなると、限られた体力の中で選んでいただくためには、「価格以外の理由」を、できるだけはっきりと言葉にしておくことが、遠回りに見えて実は近道になるのではないでしょうか。

理由が浅いままだと、結局は「価格」や「立地」といった、比べやすく真似されやすい部分での勝負になりがちです。
逆に理由が深すぎると、耳障りは良くても、具体的な広告の言葉にも、商品づくりにも、従業員への説明にも落とし込みにくいものです。
ちょうどよい深さの理由が見つかると、ホームページに書く言葉も、接客で意識すべきことも、これから育てるべき商品の方向性も、驚くほどはっきりしてくるものです。
これは、規模の小さな会社ほど、実は効果の大きい取り組みなのではないかと考えています。

さらに言えば、こうして見つかった理由は、一度きりの取引で終わらせず、長くお付き合いいただく関係をつくるうえでも役立ちます。
何となく続いているお付き合いを、「なぜ続いているのか」まで言葉にできていれば、そのお客様が離れてしまいそうな兆しにも、早めに気づけるようになるのではないでしょうか。

ちょうどいい深さは、こうして見つかる

言葉で説明されてもピンとこないかもしれませんので、ある学習塾の例でお話ししてみます。

個人で小さな学習塾を営む中村さん(仮名)は、ある時、保護者の方々に「なぜこの塾を選んでくださったのですか」と尋ねてみたことがあるそうです。
最初に返ってきたのは、「先生が優しく丁寧に教えてくださるから」という答えでした。
これは、先ほどの分類でいえば、まだ浅い理由です。
世の中には、優しく丁寧な先生のいる塾は、ほかにもいくらでもあるはずだからです。

そこで中村さんは、思い切ってもう一歩踏み込んでみました。
「優しく丁寧に教えてもらえることが、お子さんにとって、具体的にどう良いのでしょうか」と。
すると、ある保護者の方はしばらく考えたあとで、こんなふうに話してくれたそうです。
「うちの子、テストの点数はそんなに変わっていないんです。でも、家で『今日、自分で解けたよ』って、前より嬉しそうに話すようになったんです」と。

もしここで中村さんが、「それはつまり、お子さんに幸せになってほしいということですね」とまとめてしまっていたら、それは深すぎる理由になってしまいます。
子どもに幸せになってほしいと願わない親御さんは、まずいないでしょう。
それでは、学習塾ならではの理由にはならないのです。

そうではなく、中村さんが見つけたのは、「テストの点数そのものよりも、我が子が『自分の力でできた』と実感し、それを誰かに話したくなる瞬間を、家庭に届けてくれること」への感謝でした。
これは、あまりに大きすぎる願いでもなく、かといって「先生が優しいから」という表面的な理由でもない、ちょうどよい深さの理由だったのではないでしょうか。
そしてこの理由が見えてからは、中村さんは授業の中で、子どもが自分の力で解けた瞬間を見逃さず、その場でしっかり言葉にして伝えるよう心がけるようになったそうです。
そしてこの理由は、他の学習塾との違いを言葉にするうえでも、これから何を大切にしていけばよいかを考えるうえでも、はっきりとした手がかりになってくれます。

もう一つの例で確かめてみる

同じ考え方が、まったく違う業種でも通用するのか、心配になる方もいらっしゃるかもしれません。
もう一つ、小さな工務店の例をご紹介します。

住宅のリフォームを手がける小規模な工務店の田村さん(仮名)は、ある時、契約してくださったお客様に理由を尋ねたところ、「見積もりが丁寧で、質問にもすぐ答えてくれたから」という答えを受け取りました。
これも、まだ浅い理由です。
丁寧な見積もりを出す工務店は、探せばほかにもあるはずだからです。

そこで田村さんが「見積もりが丁寧だと、どんな気持ちになれたのですか」と尋ねてみると、お客様は「これまでリフォームなんて経験がなくて、何を聞いていいかも分からなかったんです。
でも田村さんは、こちらが何も知らない前提で、一つひとつ図で説明してくれた。だから、任せても大丈夫だと思えました」と答えてくれたそうです。

ここで「安心して暮らしたいという気持ちですね」とまとめてしまえば、それは深すぎる理由になってしまいます。誰もが安心して暮らしたいと願うのは当然のことで、工務店ならではの理由にはならないからです。
田村さんが見つけたちょうどよい深さの理由は、「知識のなさを恥じずに質問できる相手だと感じられたこと」でした。この気づきをきっかけに、田村さんは初回の打ち合わせで専門用語を一切使わず、図解を中心に説明する時間を、意識してこれまで以上に長く取るようになったそうです。
業種が違っても、探し方の道すじは変わらないことが、お分かりいただけるのではないでしょうか。

二つの事例を並べてみると、共通点が見えてきます。
どちらの場合も、最初に返ってきた答え(「優しいから」「丁寧だから」)は、行動そのものについての説明にとどまっていました。
しかし、もう一歩「それによってお客様がどう感じられたか」を尋ねたことで、行動の奥にある気持ちにたどり着けています。
業種やお客様が変わっても、「行動」を聞いたら、その先の「気持ち」まで尋ねてみる、という順番自体は、どんな商売にも応用できるのではないかと思います。

「なぜ」を重ねていく、簡単な質問の仕方

では、この「ちょうどいい深さ」は、どうすれば見つけられるのでしょうか。
特別な調査会社に依頼しなくても、日々のちょっとした会話の中で、少しずつ近づいていくことができるのではないかと思います。

コツは、お客様から最初にいただいた答えを、そのまま鵜呑みにしないことです。
「なるほど、価格が手頃だからなのですね」で会話を終えてしまうのではなく、「その手頃さが、どんな場面でありがたいと感じられますか」「もし少し値段が高くても、それでも選んでくださる理由があるとしたら、何だと思われますか」といったように、もう一段だけ質問を重ねてみるのです。
たとえば「対応が早いから助かっています」と言われたら、「早いことで、具体的にはどんな場面で助かっていますか」と返してみる。それだけで、会話の深さはずいぶん変わってくるはずです。

このとき大切なのは、一度に完璧な答えを求めすぎないことではないでしょうか。
一回の会話で核心にたどり着けなくても構いません。何人かのお客様と、少しずつこうした会話を重ねていくうちに、共通して浮かび上がってくる言葉や場面があるはずです。
それこそが、御社にとっての「ちょうどいい深さの理由」に近いものだと考えられます。

また、逆に理由が抽象的になりすぎてきたと感じたら、「それは具体的には、どんな場面で感じられることですか」と、今度は具体に引き戻す質問を挟んでみるのも一つです。
深く掘りすぎて、御社の商売との接点を見失ってしまわないよう、行き来しながら、ちょうどよい地点を探っていくイメージを持っていただくとよいかもしれません。

仮説は、まず立ててから確かめる

ここで一つ、覚えておいていただきたいことがあります。
それは、こうした「理由」は、いきなりお客様に聞いて正解を教えてもらうというより、まずは経営者ご自身の中で、ある程度の仮の答え、いわば「仮説」を立ててみることから始まるということです。

何も手がかりのないまま「なぜ選んでくださったのですか」とだけ尋ねても、お客様のほうも、すぐには言葉にしづらいものです。
それよりも、「もしかしたら、こういうことなのではないか」という仮説を、日頃の観察や会話の中からいくつか紙に書き出しておき、それを実際に数名のお客様との会話の中で確かめたり、修正したりしていくほうが、実際には近道になることが多いのではないかと思います。
仮説と実際の答えがずれていたときこそ、新しい発見が得られる瞬間でもあります。

仮説がまったくの見当違いだったとしても、それは失敗ではありません。
むしろ、「そうではなく、実はこういうことなんです」というお客様の言葉によって、より正確な理由に近づく手がかりを得られたと考えれば、決して無駄にはならないはずです。

まとめ ― もう一歩だけ、深く尋ねてみる

御社が選ばれている本当の理由を、正確な言葉で言い表せるようになると、良いことがいくつも生まれてきます。
広告やホームページで伝えるべき言葉が変わってきますし、日々の接客や商品づくりで大切にすべき場面も、これまでよりはっきり見えてくるはずです。
さらに、従業員の方々にも「うちは、こういう理由でお客様に選んでいただいているのだ」という誇りを持って働いてもらえるようになりますし、新しく人を採用するときにも、その理由を軸にして会社の魅力を語れるようになるかもしれません。

とはいえ、これは一度に完成させる必要のあるものではありません。
まずは、次にお客様とお話しする機会があったときに、いつもより一歩だけ、「なぜ、そう思われるのですか」ともう一度尋ねてみることから始めてみるのも一つではないでしょうか。
その小さな積み重ねの先に、御社ならではの、ちょうどよい深さの答えが、きっと見えてくるはずです。

長年、さまざまな業種の経営者の方々とお話をしてきましたが、こうした「理由の掘り下げ」を続けてこられた会社ほど、迷ったときに立ち返る軸をしっかりお持ちであるように感じています。
難しく考えすぎず、まずは身近な会話から、少しずつ試してみていただければ幸いです。

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