利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「言いにくい本音」の奥にこそ、会社の未来のヒントがある

「言いにくい本音」の奥にこそ、会社の未来のヒントがある

ライバルへの羨ましさが教えてくれる、自社の「本当はこうしたい」

中小企業の経営者にとって、日々の仕事の中で愚痴や嫉妬心を抱くことは、決して珍しいことではありません。
「あの同業者はうまくいっているのに、うちはどうしてこうなんだろう」「業界のこのやり方、正直好きになれない」—そんな気持ちが胸の奥に湧いてくることは、誰にでもあるのではないでしょうか。

私は税理士として、長年にわたり多くの中小企業の経営者の方々とお話をしてきました。
決算のご相談だけでなく、経営についての悩みを打ち明けていただく機会も少なくありません。
そうした中で、あることに気づきました。
それは、経営者が思わずこぼす愚痴や、ライバル企業への羨ましさの中にこそ、実はその方が心の底で本当に望んでいることが隠れている場合が多い、ということです。

業種は違っても、この構図はよく似た形で表れます。
飲食店であれば「あのお店はいつも行列ができていて羨ましい」、小売店であれば「あのチェーン店には価格でとても敵わない」、サービス業であれば「あの会社は採用がうまくいっていて羨ましい」—こうした声を、筆者はこれまで数え切れないほど耳にしてきました。
業種は違っても、その奥に流れているものには、共通点があるように感じられます。

なぜ、私たちは本音を隠してしまうのか

経営者という立場にあると、弱音や不満を口にすることに、ためらいを感じる方が多いようです。
「経営者たるもの、いつも前向きでなければならない」「愚痴をこぼすのは格好悪い」—そうした思いから、心の中に湧いた本音に、そっと蓋(ふた)をしてしまうのではないでしょうか。

同業他社への嫉妬心についても、同じことがいえます。
「そんなことを考えるのは恥ずかしい」と感じて、誰にも話さないまま、自分の中だけにしまい込んでしまう方も多いように思います。
従業員に弱みを見せてはいけない、というプレッシャーを感じている経営者の方も、少なくありません。

加えて、経営者という仕事は、日々どうしても他社と自社を比べる機会が多いものです。
比較そのものは自然なことですが、比較を続けているうちに、いつの間にか「自社には価値がない」というところまで、思考が飛躍してしまうことがあります。
本来は「あの会社のこういうやり方が羨ましい」という限定的な感情だったはずが、「うちの会社は、そもそもダメなのではないか」という、より大きな自己否定に変わってしまうのです。
こうなると、経営者はますます本音を口にしづらくなり、判断そのものが止まってしまうという悪循環に陥りやすくなります。

ここで、少し立ち止まって考えてみたいことがあります。
それは、経営者の判断が止まってしまうのは、多くの場合「情報が足りないから」ではなく、「気持ちの整理がついていないから」ではないか、ということです。
頭では「こうした方がよい」とわかっていても、心の中では「本当にそれでよいのだろうか」「周りにどう思われるだろうか」という迷いが渦巻いていて、その迷いに蓋をしたまま前に進もうとするために、かえって足が止まってしまうのではないでしょうか。
愚痴や嫉妬心は、実はその迷いの入り口にある感情であり、そこにきちんと向き合わないまま先へ進もうとすることが、判断が止まる大きな原因の一つになっているように思われます。

さらに、真面目な経営者の方ほど、「完璧に整理できてから人に話そう」と考えてしまう傾向があるようです。
しかし、気持ちというものは、頭の中だけで整理しようとしても、なかなかまとまらないものです。
むしろ、多少乱雑であっても、いったん言葉にして外に出してみることで、初めて自分の本心が見えてくることも多いのではないでしょうか。

けれども、こうした感情を無理に抑え込んでしまうと、かえって自社の進む方向を見失ってしまうことにもなりかねません。
なぜなら、愚痴や羨ましさという感情は、実は「自分が本当はどうありたいか」を映し出す、いわば心の鏡のようなものだからです。
表に出すことを恥ずかしいと感じて隠してしまうと、その鏡に映っているはずの、大切な願いにも気づけなくなってしまうのではないでしょうか。

愚痴の奥に眠っている、切実な願い

たとえば、「あの会社はいつもお客様に喜ばれていて羨ましい」という気持ちの奥には、「本当は自分たちも、もっとお客様に喜んでいただける仕事がしたい」という願いが眠っているのかもしれません。

また、「業界のこのやり方には納得がいかない」という不満の奥には、「本当はもっと違うやり方で、お客様や働く仲間を大切にしたい」という思いが隠れていることも考えられます。
「うちの会社は、これといった強みがない」という自社への不満についても、その裏側には「本当はもっと、これが自分たちの強みだと胸を張れる仕事をしたい」という願いが潜んでいるのではないでしょうか。

あるいは、「うちは人手が足りず、いつも後手に回ってしまう」という悩みの奥にも、「本当はもっと、一人ひとりの社員が余裕を持って、丁寧に仕事に向き合える職場にしたい」という願いが隠れていることがあるのではないでしょうか。
こうして見ていくと、愚痴の種類は違っても、その奥にある願いは、驚くほど前向きなものであることが多いように思われます。

つまり、愚痴やライバルへの羨ましさは、決してマイナスの感情だけではなく、その人が心の底に持っている、大切な願いの裏返しである場合が多いのではないでしょうか。
この願いこそが、やがて会社の理念(会社が大切にしている考え方)や、将来こうありたいという姿—いわゆるビジョン—をつくり上げていく、大きな力になっていくと考えられます。

不思議なことに、今こぼしている愚痴が、この先どのような形で会社の理念やビジョンに結びついていくのか、その時点ではまだ誰にもわかりません。
先が見えないことに、少し不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。
ですが、その不安の裏側では、経営者ご自身や、一緒に働く仲間の心の中に、「本当は、こんな仕事がしたいんだ」という静かなエネルギーが、少しずつ湧き上がりつつあるのかもしれません。

事例:ある工務店経営者の気づき

ここで、ある工務店を営む経営者の方のお話をご紹介します。中村さんです。

中村さんは、従業員9名の小さな工務店を営んでいました。
大手の住宅メーカーが次々と地域に進出してくる中で、「うちのような小さな会社では、とても太刀打ちできない」という焦りを、長年抱えていたそうです。
表向きは平静を装いながらも、心の中では大手への羨ましさや、自社への不甲斐なさを、ずっと抱え続けていました。
決算のご相談でお会いするたびに、中村さんは「うちは特に代わり映えのしない工務店ですから」と、少し寂しそうに笑っておられたのを覚えています。

そんな中村さんが、あるとき「このままでは、いずれ立ち行かなくなるかもしれない」という危機感から、社員の皆さんと一緒に、会社の今後について話し合う機会を持つことになりました。
最初は、当たり障りのない話しか出てきませんでしたが、中村さんが思い切って「正直、大手のやり方を見ていて、羨ましいと思うことはあるか」と社員に尋ねてみたところ、堰(せき)を切ったように、さまざまな本音が飛び出してきたそうです。

「大手は広告にお金をかけられていて羨ましいです」「うちは何でも屋になってしまって、専門性がないのが悔しいです」「お客様に、安さだけで比べられてしまうのがつらいです」—次々と出てくる本音を、中村さんは最初、戸惑いながら聞いていたといいます。
しかし、その中に、ある若手社員のひと言がありました。「本当は、この地域の古い家をもっと大切に直して、長く住み継いでもらえるような仕事がしたいんです」。

その場にいた全員が、一瞬、静かになったそうです。
実はその若手社員自身も、それまで自分がそんな思いを持っていることに、はっきりとは気づいていなかったといいます。
けれども、その言葉が出た瞬間、他の社員からも「実は自分も、同じようなことを感じていた」という声が続き、話し合いの空気が大きく変わっていったそうです。

その言葉をきっかけに、中村さんの中で、それまでぼんやりとしていた思いが、はっきりとした形を持ち始めたそうです。
以来、中村さんの工務店は「新築を数多く手がけるよりも、この土地に根づいた家を守り、次の世代へつなぐ工務店でありたい」という考え方を掲げるようになりました。
実際に、古い家の修繕事例をお客様に紹介する小さな冊子を作ったり、地域の古民家を見学できる会を開いたりと、できることから少しずつ形にしていったそうです。

もちろん、こうした取り組みがすぐに大きな成果に結びついたわけではありません。
それでも、中村さん自身の表情が、以前よりずっと明るくなったことが印象的でした。
「大手と同じ土俵で戦わなくてもいいんだと、気づけたことが大きかったです」と、中村さんは話してくださいました。
その姿勢が少しずつお客様にも伝わり、地域の中で深い信頼を得られるようになっていったといいます。

一年ほど経った頃、中村さんから「実は、最近ありがたいことがありまして」というご連絡をいただきました。
冊子を見たお客様から、「うちの実家も、古い家なのだけれど直せますか」というお問い合わせが、少しずつ増えているとのことでした。
件数としてはまだ小さなものだったそうですが、「金額の安さで選ばれたのではなく、考え方に共感して選んでいただけた、はじめてのお客様でした」と、中村さんはうれしそうに話してくださいました。

明日からできる、小さな一歩

中村さんの例からもわかるように、愚痴や嫉妬心は、決して隠すべきものではなく、むしろ会社の進む方向を見つけるための、大切な手がかりになるのではないでしょうか。

とはいえ、いきなり社員全員で本音を語り合う場を設けるのは、少しハードルが高いと感じる方もいらっしゃるかもしれません。
そんなときは、まずはご自身の中にある本音を、静かに紙に書き出してみることから始めてみるのも一つです。
「あの会社の、どんなところが羨ましいのか」「業界のどんなところに、納得がいかないのか」「自社のどこが物足りないと感じているのか」—そうした気持ちを、誰かに見せる前提ではなく、自分自身のために、正直に書き出してみるのです。

書き出す際には、きれいな文章にしようとせず、思いついた順に、単語だけでも構わないので並べてみることをお勧めします。
整った文章にしようとすると、かえって本音が薄まってしまうことがあるからです。
書き出したものを後から読み返すと、その奥にある「本当はこうしたい」という願いが、少しずつ言葉になって見えてくることがあります。

もし信頼できる社員の方がいらっしゃるなら、そのタイミングで、ごく少人数からで構いませんので、本音を語り合ってみるのもよいかもしれません。
あるいは、日頃から相談に乗ってもらっている顧問税理士や、外部の専門家に、率直な気持ちを聞いてもらうことから始めてみるのも一つの方法です。
社内の人には話しにくいことでも、少し距離のある相手になら、案外話しやすいということもあるのではないでしょうか。

大切なのは、出てきた一つひとつの言葉そのものよりも、その奥に流れている、素直な気持ちに目を向けることです。
愚痴を愚痴のまま終わらせず、「では、自分は本当はどうしたいのか」という一歩先の問いにつなげていくことが、判断を前に進める鍵になるのではないでしょうか。

まとめ:本音は、未来への羅針盤になる

今、目の前にある愚痴や羨ましさが、この先どのように会社の理念やビジョンへとつながっていくのか、それは今の時点では、誰にもわからないことです。
先の見えないことに、不安を感じる方もいらっしゃるでしょう。

けれども、そうした本音の中にこそ、経営者ご自身や社員の皆さんが心の底に持っている、子どもの頃のような素直な思いが眠っていると考えられます。
その思いは、やがて一つのビジョンとなって、これまで「当たり前」だと思い込んでいた枠を、静かに超えさせてくれるのではないでしょうか。
そして、まだ見ぬ景色へと、会社を少しずつ連れて行ってくれるように思います。

まずは小さな一歩として、ご自身の本音に耳を傾けてみることから、始めてみてはいかがでしょうか。
その先に、きっと今よりも前向きな景色が広がっているはずです。

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