失敗してもたいしたことはない、と思えると見える景色が変わります
経営者として日々を過ごしていると、「本当はやってみたいこと」を後回しにしてしまうことはないでしょうか。
地域の集まりで自社の取り組みを話してほしいと頼まれても、忙しさを理由に断ってしまう。
新しいことに挑戦してみたいと思いながらも、失敗したらどうしようと足が止まってしまう。
経営という立場には、こうした迷いがつきまとうものです。
毎日、現場の判断や資金繰り、社員のことに追われていると、自分自身が「人前に立つ」「新しいことを始める」といった一歩を踏み出す余裕は、どうしても後回しになりがちです。
しかし、その一歩を踏み出した経験があるかどうかは、経営者自身の生き方だけでなく、会社全体の空気にも、静かに影響を与えていくことがあるのではないでしょうか。
今回は、自ら行動し、人前に立つという経験が、経営にどうつながっていくのかを考えてみたいと思います。
社長の姿勢は、思っている以上に会社に伝わっている
多くの経営者と話をしていると、社長自身が日々どんな姿勢で過ごしているかが、知らず知らずのうちに社員やお客様に伝わっているのだと感じることがあります。
社員は、社長が何を語っているかだけでなく、社長がどう行動しているかをよく見ています。
社長が新しいことに挑戦する姿を見せれば、社員も「この会社は変化を恐れなくていいのだ」と感じやすくなります。
反対に、社長が常に慎重で守りの姿勢を崩さないでいると、社員もまた、必要以上に慎重になってしまうことがあります。
これは、社長が毎日大きな挑戦をすべきだという話ではありません。
ただ、もし「やってみたいけれど、なんとなく避けてきたこと」があるなら、そこに一歩踏み出してみることが、社長自身の自信を取り戻すだけでなく、会社全体の空気を少しずつ前向きに変えていくきっかけになることがあるのではないでしょうか。
特に、従業員が数名から十名前後の会社では、社長と社員の距離が近いぶん、社長の表情や言動の変化が、会社全体に伝わるまでの時間が短いという特徴があります。
大きな会社であれば、社長の姿勢が末端の社員にまで届くには時間がかかりますが、小さな会社では、社長が前向きな一歩を踏み出した翌週には、もう社内の空気が変わり始めていることも珍しくありません。
だからこそ、小さな会社の社長が一歩踏み出すことには、規模以上の影響力があるのではないでしょうか。
失敗を「たいしたことはない」と思えるようになる強さ
人前に立つ経験を重ねた人には、共通して見られる変化があります。
それは、失敗そのものへの向き合い方です。
一歩を踏み出す前は、失敗したらどうしよう、うまく話せなかったらどうしようという不安のほうが大きく感じられるものです。
しかし、実際に経験してみると、たとえ思うようにいかなかったとしても、それほど大きな問題にはならないことのほうが多いと気づくことがあります。
経営の判断においても、これは大切な感覚です。
新しい商品やサービスを試してみる、これまでとは違うお客様の層に声をかけてみる、今までやったことのない取り組みを始めてみる。
こうした判断は、失敗を過度に恐れてしまうと、なかなか一歩を踏み出せなくなってしまいます。
社長自身が「失敗してもやり直せる」という感覚を持てているかどうかは、会社全体が新しいことに挑戦できるかどうかにも、少なからず関わっているのではないでしょうか。
数字の面から見ても、この感覚は無関係ではありません。
新しい取り組みには、多かれ少なかれ初期費用や時間がかかります。
それを「失った」と捉えてしまうと、次の挑戦に踏み出しにくくなります。
一方で、「試してみたことそのものに意味があった」と捉えられる社長は、たとえ結果が思わしくなくても、そこから得た気づきを次の判断に活かしていくことができます。
この違いは、長い目で見ると、会社の成長の速度にも表れてくるのではないでしょうか。
自分らしく行動する姿が、周囲によい影響を与えていく
自分らしく行動することは、社長一人だけの問題にとどまりません。
社長が自分の考えや想いを率直に語る姿は、社員に安心感を与えることがあります。
社員は、社長が何を大切にしているのかを、言葉だけでなく日々の行動から感じ取っているものです。
社長の考えがはっきり見えると、社員も自分の仕事の意味を見出しやすくなり、日々の判断に迷いが少なくなっていきます。
また、お客様や取引先にとっても、経営者自身が自分らしく行動している会社は、信頼を持ちやすいものです。
誰かの真似ではなく、自分たちの考えにもとづいて動いている会社には、自然と独自の魅力が生まれやすいからです。
社長が一歩踏み出す姿は、会社を、誰かに似せたものではなく、自分たちらしいものへと育てていく原動力になるのではないでしょうか。
なぜ、一歩を踏み出すことが難しく感じられるのか
ここまで読んで、「言われていることはわかるけれど、実際には難しい」と感じる方も多いのではないでしょうか。
それは決して、経営者としての姿勢が足りないからではありません。
むしろ、日々の忙しさの中では、見えにくくなりやすいだけなのだと思います。
たとえば、現場の仕事や資金繰りに追われていると、新しいことに挑戦する時間を確保すること自体が難しく感じられます。
また、長年同じやり方を続けてきた会社ほど、これまでと違う行動を取ることに、社員やお客様がどう反応するか不安を感じやすいものです。
さらに、経営者という立場上、自分の失敗が会社全体に影響すると考えると、慎重にならざるを得ない場面も多いはずです。
こうした事情を抱えながらも、何か新しいことを始めてみたい、人前で自分の考えを伝えてみたいという気持ちを持っている経営者は、決して少なくありません。大切なのは、それを「いつかやるべきこと」として先延ばしにし続けるのではなく、小さな形からでも、一歩を踏み出してみることではないでしょうか。
一歩踏み出す姿は、会社の未来にもつながっている
社長が自分らしく行動する姿は、目の前の社員やお客様だけでなく、これから会社に関わる人たちにも影響を与えていきます。
たとえば、採用の場面を考えてみると、応募してくる人が見ているのは、求人票に書かれた条件だけではありません。
社長がどんな考えを持ち、どんな姿勢で会社を運営しているのかという部分にも、人は意外と敏感に反応するものです。
社長が地域の集まりで自分の言葉で会社の取り組みを語っている、新しいことに挑戦している、そうした姿は、目に見えない形で会社の魅力として伝わっていくことがあります。
また、将来的に事業を誰かに引き継ぐことを考えている経営者にとっても、この点は無関係ではありません。
社長自身が「やってみたいこと」に踏み出してきた姿は、後継者や次世代の社員にとって、一つの判断のお手本になります。
失敗を恐れすぎず、自分の考えで動いてきた社長の背中は、言葉で教える以上に、多くのことを伝えているのではないでしょうか。
このように考えると、人前に立つ、新しいことを始めるという一つひとつの経験は、今この瞬間の会社の空気だけでなく、何年か先の会社の姿にもつながっているのだと感じられます。
具体例
ここで、一つ例を挙げてみます。
ある地方都市で、家族経営の小さな建設会社を営む二代目社長がいました。
先代から会社を継いでからは、現場に出て黙々と仕事をこなす日々が続いていました。
人前で話すことには慣れておらず、地域の経営者団体から、若手経営者向けの勉強会で自社の取り組みを話してほしいと依頼されたときも、最初は「自分には荷が重い」と断ろうとしていました。
うまく話せなかったら恥ずかしい、という気持ちが強かったからです。
しかし、ある社員から「社長が頑張っている姿を、もっと知ってもらえたら嬉しいです」と声をかけられたことをきっかけに、思い切って依頼を引き受けることにしました。準備の過程では何度も不安になりましたが、当日は自社の取り組みを、自分の言葉で精一杯伝えることができました。
その経験を通じて、社長自身に小さな変化が生まれました。
それまで控えめだった社内でのコミュニケーションが少しずつ増え、自分の考えを社員に伝える機会も増えていったといいます。
社員からも、「社長が何を考えているのかが、以前よりわかりやすくなった」という声が聞かれるようになりました。
一度の経験がすべてを変えたわけではありませんが、社長が一歩踏み出したことが、会社の空気に静かな変化をもたらしたのではないでしょうか。
今日からできる小さな行動
大きな挑戦を、いきなり始める必要はありません。
たとえば、今まで断っていた地域の集まりやイベントへの参加を、一度だけ引き受けてみることから始めてもよいかもしれません。
あるいは、社員に向けて、自分が大切にしている考えを一度きちんと言葉にして伝えてみることも、一つの踏み出し方です。
また、今までやってみたいと思いながら先延ばしにしてきたことを、紙に一つだけ書き出してみるのもよい方法です。
書き出してみることで、自分が何を躊躇しているのか、何が不安なのかが、少し見えやすくなります。
完璧な準備ができてから動こうとするのではなく、小さく試してみることが、次の一歩につながっていくのではないでしょうか。
もし、人前で話すこと自体に大きな抵抗があるなら、いきなり大勢の前に立つ必要はありません。
まずは社内の小さな会議で、いつもより少しだけ自分の考えを長く話してみる。
それだけでも、十分に一つの踏み出し方になります。
一歩の大きさよりも、踏み出したという経験そのものが、次の一歩を軽くしてくれるのではないでしょうか。

まとめ
経営者が人前に立つことや、新しいことに挑戦することをためらうのは、決して弱さではありません。
会社や社員、お客様への責任を感じているからこそ、慎重になるのだと思います。
しかし、その責任感と同じくらい、自分らしく一歩踏み出してみる勇気も、経営には必要なのではないでしょうか。
失敗してもたいしたことはない、と少しだけ思えるようになると、見える景色が変わっていきます。
社長自身の小さな一歩が、社員やお客様、そして会社全体によい影響を与え、会社を前向きな方向に導く原動力になることがあります。
完璧な一歩である必要はありません。
むしろ、不格好でもかまわないので、まずは動いてみることに意味があるのだと思います。
まずは、今まで躊躇していたことを一つだけ、思い切って引き受けてみることから始めてみてはいかがでしょうか。
その小さな一歩が、半年後、一年後の会社の姿を、少しずつ形づくっていくのかもしれません。
