リーダーシップとは、指示することではなく、前に立つことかもしれません
会社を引っ張っていく立場になると、「自分はリーダーとしてふさわしいのだろうか」と感じる瞬間が、誰にでもあるのではないでしょうか。
指示を出しているつもりでも、社員の反応がいまひとつ薄い。
会議で方針を伝えても、なんとなく他人事のような空気が流れる。
そんなとき、「もっと強く言うべきなのか」「もっと細かく管理すべきなのか」と、つい考えてしまうかもしれません。
ですが、社員がついてくるかどうかは、指示の強さや管理の細かさだけで決まるものではないように思います。
むしろ大切なのは、社長自身が「自分は何をしたいのか」をどれだけはっきり持っているか、そして、それをどれだけ自分の行動で示しているか、という部分かもしれません。
今日は、この「前に立つ」という考え方について、一緒に整理してみたいと思います。
リーダーとは、上に立つ人ではなく、前に立つ人
経営者の悩みを聞いていると、「リーダーシップ」という言葉を、なんとなく「人を管理する力」「指示を徹底させる力」として捉えている方が多いように感じます。
ですが、リーダーという存在の本質は、立場の高さではなく、行動の順番にあるのではないでしょうか。
誰よりも先に動く人、誰よりも先に手を汚す人。そうした人のまわりに、自然と人が集まってくる。
これは、規模の大きい会社に限った話ではありません。
むしろ、社員数十名前後の会社のほうが、社長の動き方ひとつで空気が変わりやすいとも言えます。
実際、従業員10名前後の会社では、社長自身が今でも現場に立っていることが少なくありません。
営業も自分でやり、納品も自分で確認し、お客様からの電話にも自分で出る。
つまり、すでに「前に立つ」状態は、多くの社長にとって決して特別なことではないはずです。
問題は、その「前に立つ姿」が、社員にとって何のための行動なのかが伝わっていないことにあるのかもしれません。
忙しく動いている社長の姿は見えていても、その奥にある「何のためにここまでやっているのか」という思いまでは、案外伝わっていないものです。
「やりたいこと」を持っている人には、不思議と物事が動き出す
世の中でおもしろい仕事をしている人たちを見ていると、共通点があるように感じます。
それは、最初から立派な計画があったわけではなく、「自分はこういうものを作りたい」「こういう形でお客様に喜んでもらいたい」という、ごく個人的な思いから始まっているという点です。
その思いを大切に育てている人のところには、不思議と人や機会が集まってきます。
協力してくれる人が現れたり、思わぬところから声がかかったり。
これは特別な才能というよりも、「やりたい」という気持ちをはっきり持ち続け、実際に一歩を踏み出しているかどうかの差なのかもしれません。
経営でも同じことが言えるように思います。
会社の数字を一緒に見ていると、業績が伸び悩んでいる会社ほど、社長自身の「こうしたい」という思いが、いつの間にか日々の業務の中に埋もれてしまっていることがあります。
忙しさに追われているうちに、最初に持っていた思いを言葉にする機会そのものがなくなってしまうのです。
仲間は、強さではなく、共感でついてくる
社員が思うように動いてくれないと感じるとき、私たちはつい「もっと厳しく言うべきか」「もっとルールを増やすべきか」と考えがちです。
ですが、人がついていきたいと思うのは、強く命令する相手にではなく、自分も目指したいと思えるような明日を見せてくれる相手に対してではないでしょうか。
社長が向かおうとしている方向に、社員自身も少しワクワクできるかどうか。
そこに共感が生まれたとき、初めてチームは自然に動き出すのだと思います。
逆に言えば、社員がついてこないように見えるとき、それは社員の意欲の問題というより、「ついていきたくなるような姿」を、まだ十分に見せられていないだけ、ということもあるのかもしれません。
具体例
ある小さな金属加工の会社の話です。
先代から会社を継いだ社長は、もともと取引先からの注文をこなす仕事を中心に、8人の従業員と一緒に堅実に会社を続けてきました。
仕事は途切れることなくありましたが、社長自身は、どこか「言われたものを、言われた通りに作る毎日」に物足りなさを感じていました。
ある日、決算の数字を一緒に確認している中で、社長がぽつりとこう漏らしたことがありました。
「本当は、うちの技術を使って、自分たちのオリジナル商品を作ってみたいんですよね」。
それは、何年も前から心の中にあった思いだったそうです。
ただ、日々の受注をこなすことで精一杯で、その思いを誰かに話したことすらなかったといいます。
その後、社長は思い切って、業務時間の一部を使い、自らオリジナル商品の試作に取り組み始めました。
最初は一人での作業でしたが、試作品を見た若手社員が「自分もやってみたいです」と声をかけてきたことをきっかけに、少しずつ協力する社員が増えていきました。
社長が誰かに指示を出して始まったプロジェクトではありません。
社長自身が、まず自分の手を動かして見せたことから、すべてが動き出したのです。
今では、その商品は会社の新しい柱のひとつになりつつあります。
このように、社員を動かそうとする前に、社長自身が「自分は何をしたいのか」を一度言葉にし、実際に小さく動いてみること。
それが、結果として会社全体の空気を変えるきっかけになることがあります。
経営者がつまずきやすいポイント
日々の業務に追われていると、次のようなことが見えにくくなりやすいものです。
・自分が本当はどうしたいのか、立ち止まって考える時間がない
・経営理念を社員に伝えているつもりでも、抽象的すぎて、日々の行動とつながっていない
・立場上、つい「指示を出す」スタイルに偏ってしまい、自ら動いて見せる機会が減っている
・社員がついてこないと感じるとき、原因を社員側にばかり探してしまう
どれも、能力や意欲が足りないからではなく、忙しい毎日の中で、自然と見えにくくなってしまうことです。自分を責める必要はありません。
今日からできる小さな行動
大きな改革を始める必要はありません。まずは、次のようなことから始めてみてはいかがでしょうか。
・「自分は本当はどうしたいのか」を、紙に一行だけ書き出してみる
・最近、自分から率先して動いた場面をひとつ思い出してみる
・社員に対して、自分の「やりたいこと」をほんの一言だけでも話してみる
・指示するのではなく、自分が実際に手を動かして見せる場面をひとつ作ってみる
・仕事の中で一番ワクワクした出来事を、社員と共有してみる
どれも、今日の終業前にできるくらいの、小さな一歩で構いません。

まとめ
経営者が迷うのは、会社の未来を真剣に考えているからこそです。
社員がついてこないように感じるときも、それは能力や努力の問題ではなく、「ついていきたくなる姿」を見せる機会が、まだ十分になかっただけかもしれません。
リーダーとは、誰かの上に立って指示をする人ではなく、誰よりも先に、自分の思いに向かって一歩を踏み出す人なのだと思います。
すでに現場で動き続けている社長であれば、その一歩は、決して遠いものではないはずです。
まずは、自分が本当はどうしたいのかを、今日一行だけ書き出してみることから始めてみてはいかがでしょうか。
小さな気づきが、次の判断を助けてくれることがあります。
