利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「同じことをやっているのに、なぜあの会社だけ結果が違うのか」

「同じことをやっているのに、なぜあの会社だけ結果が違うのか」

会社の強さは、「何を売るか」より「どう決めているか」に表れる

同じ道具をそろえたのに、なぜ差がつくのか

新しいレジを入れた。
管理ソフトを導入した。
同業の会社がうまくいっていると聞いた方法を、そのまま自分の会社でもやってみた。

それなのに、思ったほど数字が変わらない。

こういう話を、経営者の方からよく伺います。
決して手を抜いたわけではありません。
むしろ、真面目に取り組んだ方ほど、この壁にぶつかっているように感じます。

そして多くの場合、こんな言葉が続きます。

「何が足りないのか、自分でもよく分からないんですよね」

このモヤモヤは、実は経営を考えるうえでとても大事な入り口ではないでしょうか。
足りないのは、道具でも資金でもないのかもしれません。
今日はそのことを、身近な例から一緒に考えてみたいと思います。

コンビニの店内には、答えが落ちていない

分かりやすい例として、コンビニエンスストアの話をさせてください。

大手チェーンのお店を思い浮かべてみてください。
売っているもの、店の広さ、営業時間。どのチェーンも、外から見るとあまり違いがありません。
立地も、駅前や幹線道路沿いに、似たように並んでいます。

それでも、一店舗あたりの一日の売上には、チェーンによってはっきりとした差があります。

不思議な話です。
同じような場所で、同じようなものを、同じような時間だけ売っている。
それなのに差がつく。
しかも、その差は何十年も続いています。

つまり、答えは店内にはないということです。
棚の並べ方をいくら眺めても、そこには写っていない。
差を生んでいるのは、もっと目立たない場所にありました。

それは、「明日、何をいくつ仕入れるか」を、誰が、どうやって決めているかという違いです。

「本部が決める」やり方と、「現場が決める」やり方

アメリカの大きな小売チェーンでは、本部が計算して、各店舗に「これをこれだけ仕入れなさい」と数量を示す方式が主流です。
過去の販売実績を集めて、コンピューターで最適な数をはじき出します。

この方法には、はっきりした良さがあります。
感覚に頼らず、数字の裏づけで決められる。
店の担当者に高いスキルがなくても、そこそこ適切な発注ができる。
パートやアルバイトの方が多い職場では、これはかなり大きな利点です。

一方、日本のあるチェーンは、別のやり方を選びました。

仕入れる数を決めるのは、本部ではなく店舗の担当者です。
担当者は、自分なりの予想を立てて数を決めます。

たとえば、近所の小学校で週末に運動会があると知る。
すると「いつもよりおにぎりが売れるかもしれない」と考えて、その分を多めに仕入れる。
本部から届く天気予報や売上データは、その予想を助ける材料として使われます。

そして翌日、実際の売れ行きを見て、自分の予想が当たっていたかを確かめる。
そこで気づいたことを、次の仕入れに活かす。

これを、毎日繰り返す。ただそれだけのことです。

けれども、この「ただそれだけのこと」の積み重ねが、何十年も続く差を生みました。

「自分で決めた人」だけが持てるもの

なぜ、現場が決めるやり方が強いのでしょうか。
理由は三つあると考えられます。

一つめは、決めた人の気持ちが変わることです。

自分で予想して仕入れた商品は、売れ行きが気になります。
売れ残れば「なぜだろう」と考えます。
ところが、本部から指示された数を並べただけなら、売れ残っても「本部が決めたことだから」で終わってしまう。
これを何年も続けていると、お店そのものが、街の変化に気づかなくなっていきます。

二つめは、経験と勘を活かせることです。

決められた計算式で数を出す方式では、現場の人が「今週はなんとなく客層が違う」と感じても、それを反映させる隙間がありません。
長く働いている人ほど持っている、言葉になりにくい感覚が、使われないまま眠ってしまいます。

三つめは、本部には絶対に届かない情報が使えることです。

近所の小学校の運動会。
工事で通行止めになる道。
向かいのマンションの引っ越しシーズン。
こうした話は、どんなに立派なシステムを組んでも、本社のパソコンには入ってきません。
その場に立っている人だけが知っています。

ここで大事なのは、優れた道具を持っていたことではなく、その道具を毎日どう使うかという「仕事の癖」が育っていたことです。
仕組みは買えますが、癖は買えません。

10人の会社では、社長が「本部」になっている

さて、ここからが本題です。

この話は、大企業だけのものではありません。
むしろ、従業員が10人前後の会社にこそ、そのまま当てはまるように思います。

小さな会社では、社長が「本部」です。
そして、スタッフが「店舗」です。

何を仕入れるか、いくらで受けるか、どの順番で進めるか。
社長が決めれば、話は早い。
判断も、たいてい社長がいちばん正確です。
何より、その方が社長自身も安心できます。

けれども、その状態が何年も続くと、静かに起きることがあります。

社長が現場に出られなかった日、誰も新しいことを決めないまま、その一日が終わってしまう。

決められないのではなく、決める習慣がない。
スタッフは真面目に、いつも通りの作業をこなします。
ただ、「今日はこうしてみよう」という判断だけが、その日、会社の中から消えているのです。

これは、スタッフの能力の問題ではありません。
決める役割を、長いあいだ渡してこなかっただけのことではないでしょうか。

事例:パン屋の中村さんが変えた、たった一枚の紙

ここで、架空の例をひとつご紹介します。
実在の会社ではありませんが、似たような場面には何度も立ち会ってきました。

中村さん(仮名)は40代の男性で、駅前と住宅街に2店舗のパン屋を営んでいます。
従業員はパートの方を含めて9名です。

中村さんの朝は早い。
毎日、その日に焼く数を、すべて自分で決めていました。
売れ残りが出た日は、翌日その分を減らす。
昼に売り切れた日は、翌日少し増やす。
ノートに数字を書きためて、精度を上げようと努力していました。

それでも、廃棄はなくならない。
夕方の品切れもなくならない。

「自分の読みが甘いのかな」と、中村さんは思っていました。

転機は、ある雨の日でした。
閉店後、パートの佐藤さん(仮名)がぽつりと言ったそうです。

「今日は雨だったので、夕方の食パンは少なめでもよかったかもしれませんね」

中村さんは驚きました。
佐藤さんは、そんなことを毎日考えていたのか、と。
そして、これまで一度も聞いたことがなかった、と。

翌週から、中村さんは小さなことを始めました。

紙を一枚だけ用意して、3種類のパンについて、「明日いくつ売れそうか」をスタッフに書いてもらうことにしたのです。
数字の横に、理由をひとこと添えてもらう。それだけです。

そして翌日、閉店後に15分。
予想と実際の数を並べて眺める時間をつくりました。

目的は、当てることではありませんでした。
理由を口に出してもらうことでした。

最初の1か月は、うまくいきませんでした。
「社長が決めてください」と言われることもありました。
外れた日は、書いた人が申し訳なさそうにしていました。

そこで中村さんは、ひとつだけ自分に約束をしました。
外れても絶対に責めない、と。
代わりに「なるほど、そう考えたんですね」とだけ言うことにしたそうです。

3か月ほど経つと、理由の欄が変わってきました。

「隣のマンションで内覧会があるみたいです」
「近くの小学校が振替休日です」
「今週は工事の方が毎朝5人来ています」

どれも、中村さんが知らない話でした。

半年後、廃棄はかなり減りました。
夕方の品切れも減りました。
けれど中村さんが本当に嬉しかったのは、別のことだったそうです。

朝の会話が、変わったのです。

以前は「社長、今日はどうしますか」でした。
今は「今日はこうしてみませんか」に変わった。

帳簿には映らないものを、現場は毎日見ている

ここで、少しだけ税理士としての話をさせてください。

中村さんのお店で、廃棄されたパンは、月次の資料のどこにも独立した形では出てきません。
仕入れた材料の金額の中に、静かに溶け込んでいます。
私の目に映るのは、「先月より材料費の割合が少し上がっていますね」という一行だけです。

けれども、そのパンを毎晩袋に詰めていた佐藤さんは、その量をだいたい把握していました。
金額では言えなくても、「今日は多かった」「昨日は少なかった」は、はっきり分かっていたのです。

数字を見ている人と、現物を見ている人が違う。

多くの会社で起きているのは、たぶんこういうことです。
そして、この二つがつながった瞬間に、会社は急に賢くなります。
中村さんがしたことは、要するにその橋を一本かけただけでした。

続けた会社が、真似されにくい理由

こうして育った「仕事の癖」は、他社から簡単には真似されません。
理由は三つあります。

一つめは、外から見えないこと。

毎日の何気ないやりとりに埋め込まれているので、見学に来ても写真には写りません。
同じ紙を配ることはできても、外れたときにどんな顔をするかまでは、真似のしようがありません。

二つめは、時間がかかること。

こうした習慣は、うまくいったり失敗したりを繰り返しながら、少しずつ形になります。
他社が形だけ導入しても、その回り道の分がまるごと抜けています。

これは裏を返せば、希望のある話ではないでしょうか。
あなたの会社がこれまで地道に続けてきたことも、外からは見えにくく、真似しにくい財産になっているかもしれません。

三つめは、止まらないこと。

続けている会社は、その間もさらに上手になっていきます。
あとから追いかけても、相手は先に進んでいる。

先ほどのコンビニの話にも、続きがあります。
この業態をいちばん最初に始めたのは、実はアメリカの会社でした。
けれどもその会社は、長い年月のあいだ、やり方をほとんど変えませんでした。
結果として、あとから磨き続けた側に追い越されてしまいます。

先に始めたかどうかより、続けて磨いたかどうか。
そちらのほうが効いてくる、ということなのだと思います。

小さい会社のほうが、実は有利です

ここまで読んで、「うちは規模が小さいから無理だ」と感じた方がいらっしゃるかもしれません。

でも、私はむしろ逆だと考えています。

大きな会社が同じことをしようとすれば、会議を開き、資料を作り、承認を取る必要があります。
半年はかかるでしょう。

従業員10名前後の会社なら、社長が「明日からこうしよう」と言えば、明日から変わります。
試した結果も、翌日には目の前に出ます。
人数が少ないぶん、誰が何を考えているかも見えやすい。

小回りが利くことは、小さな会社の弱点ではなく、いちばんの武器ではないでしょうか。

まずは、ここから始めてみるのも一つです

最後に、明日からできそうなことを挙げておきます。
全部やる必要はありません。
ひとつ選べば十分です。

任せるのは、まず「一つだけ」

全部を渡す必要はありません。
判断の一部、たとえば数量や順番など、失敗しても取り返せることを一つ選ぶ。
ここから始めるのが安全です。

「どう思う?」を口ぐせにする

正解を求めないのがコツです。
答えが返ってこなくても構いません。
聞かれ続けるうちに、人は考えるようになります。

結果を一緒に見る時間を、短くつくる

15分で十分です。
予想と結果を並べて眺める。
責めない。
これだけで、経験が知識に変わっていきます。

外れたときの態度を、先に決めておく

ここがいちばん大事かもしれません。
一度でも強く叱ってしまうと、次から誰も予想を口にしなくなります。
逆に、外れを歓迎できる会社は、驚くほど早く育ちます。

社長が「知らないこと」を隠さない

「それは知らなかった、教えてくれてありがとう」。
この一言が言える会社では、現場の情報が自然と上がってくるようになります。

おわりに

経営のモヤモヤの正体は、「何を売るか」ではなく、「どうやって決めているか」にあることが少なくありません。

そしてそこは、外からのアドバイスではなかなか変えられない場所です。
社長ご自身が、ほんの少し手を離すことでしか動き出さない部分だからです。

けれども、その一歩は、決して大きなものである必要はありません。

紙一枚。15分。「どう思う?」のひとこと。

その積み重ねが、何年か経ったとき、誰にも真似できない会社の強さになっている。
中村さんのお店で起きたのは、たぶんそういうことなのだと思います。

明日の朝、いつもの判断をひとつだけ、誰かに渡してみる。

次の一手は、案外そこから始まるのかもしれません。

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