ライバルの真似をするほど、なぜか勝てなくなる理由
はじめに ― ライバルの真似をしても、なぜかうまくいかない
経営をしていると、こんな場面に出会うことがあるのではないでしょうか。
同業のあの会社が「安さ」で評判になっている。
うちも安さを前面に出せば、お客様は振り向いてくれるはずだ―そう考えて価格を下げてみたものの、思ったほど反応がない。
それどころか、体力のある相手の評判が、ますます固まっていくように感じる。
こうした経験をお持ちの経営者は、決して少なくないはずです。
実はこれは、頑張り方が足りなかったわけでも、運が悪かったわけでもないと考えられます。
お客様の心の中の仕組みそのものに、理由があるのではないでしょうか。
今日は、「お客様の心の中に、すでに誰かが陣取っている場所」に、後から同じ旗を立てようとしても、なかなかうまくいかないという話をしてみたいと思います。
そして、そこから抜け出すために、中小企業の経営者に何ができるのかを、一緒に考えてみたいと思います。
お客様の心は、小さなノートのようなもの
少し想像してみてください。
お客様一人ひとりの頭の中には、業種ごとに小さなノートが一冊ずつあるとします。
そのノートの「安心して頼めるところ」というページには、もうすでに一行、ある会社の名前が書き込まれています。
次に別の会社が「うちも安心です」と伝えても、お客様は同じページに二行目を書き足そうとはしません。
人の記憶は、そこまで几帳面にはできていないからです。
一度書き込まれた一行を消して、別の名前に書き換えてもらうのは、実はとても骨の折れることです。
お客様にとっては、わざわざ書き換える理由がないからです。
今のままで困っていないのなら、なおさらのことでしょう。
これは冷たい話のようですが、裏を返せば希望でもあります。
「安心」のページがもう埋まっているなら、無理にそこを取りにいく必要はありません。
まだ何も書かれていない、別の白紙のページを探せばよいのです。
同じ土俵で戦うと、かえって相手を強くしてしまう
ここで気をつけたいのは、ライバル会社が使っている言葉を、そのまま真似して使ってしまうことです。
たとえば、ある地域に、長年「仕上がりの早さ」で知られてきたクリーニング店があるとします。
ここに新しく開業したクリーニング店が、「当店はもっと速いです」と広告を出したとしたらどうなるでしょうか。
お客様は、その広告を見て「そうか、クリーニングは早さが大事なんだな」とあらためて感じます。
ところが、頭に思い浮かぶのは、すでに「早さ」のページに書き込まれている、あの老舗の名前のほうです。
新しいお店は、宣伝費をかければかけるほど、皮肉なことに相手の評判を後押ししてしまうことになりかねません。
これは、意地悪な話でも珍しい話でもなく、人の心の仕組みからいって、起こるべくして起こることだと考えられます。
競う相手が強ければ強いほど、この傾向は顕著になるのではないでしょうか。
なぜ、そこまで「一番乗り」が強いのか
もう少し、この仕組みを考えてみたいと思います。
人は毎日、非常に多くの情報にさらされています。
すべてを覚えていては頭がいくつあっても足りませんから、私たちは無意識のうちに、多くの情報を整理し、削ぎ落としながら暮らしています。
そのため、ある分野について、心の中に一番早く、一番はっきりと入り込んだ会社は、とても有利な位置を得ることになります。
あとから来た会社がどれほど優れた商品を用意しても、お客様の頭の中の「順番」を入れ替えるのは簡単ではありません。
これは、実力がないからではなく、単純に「先に席についていたかどうか」の違いによるところが大きいのではないでしょうか。
だからこそ、経営者にとって大切なのは、相手と同じ椅子を取り合うことよりも、まだ誰も座っていない椅子を見つけることだと考えられます。
価格で追いかけると、利益まで苦しくなる
もう一つ、見落とされがちな点があります。
それは、すでに「安さ」の席についている相手を、価格で追いかけようとすると、利益まで苦しくなっていくということです。
先に「安さ」を打ち出している会社は、たいてい、それだけの規模やしくみを持っています。
大量に仕入れる力があったり、店舗の運営を効率化するノウハウを積み重ねていたりするものです。
あとから同じ土俵に乗った会社が、同じだけ値段を下げようとすると、利益はどんどん削られていきます。
決算のご相談を受けていると、値下げ競争に巻き込まれた結果、売上はそれなりにあるのに、手元にお金がほとんど残らない、というお悩みをうかがうことがあります。
忙しく働いているのに、なぜか楽にならない。
その背景に、実はこうした「同じ言葉での競争」が隠れていることも、少なくないように感じます。
価格以外の一言で選ばれるようになれば、無理な値下げをせずに済み、結果として、利益も残りやすくなります。
差別化は、単に「目立つため」だけでなく、会社の財務を守るためのものでもある、と言えるのではないでしょうか。
自分の言葉を見つけるための三つの問い
とはいえ、「まだ誰も座っていない席」を、いきなり見つけるのは簡単ではありません。
そこで、手がかりとして、次の三つの問いを紹介したいと思います。
一つ目は、「お客様が、うちを選んだ理由として口にする言葉は何か」という問いです。
何気ない雑談や、お礼の言葉の中に、経営者自身も気づいていない強みが隠れていることがあります。
二つ目は、「同業他社が、まだ強く打ち出していない部分はどこか」という問いです。
価格や品ぞろえといった分かりやすい部分だけでなく、対応の丁寧さや、専門分野の絞り込み方など、地味に見える部分にこそ、空いている席が残っていることが多いように思います。
三つ目は、「その一言を、これから何年も言い続けられるか」という問いです。
一時の思いつきではなく、自社の実態やこだわりに根ざした一言であれば、時間をかけて育てていくことができます。
無理に作り上げた言葉は、長く続けるうちに、どこか嘘っぽくなってしまうものです。
この三つを、社員の方や、身近な専門家と一緒に話し合ってみることから、始めてみるのも一つではないでしょうか。
アンケートを鵜呑みにする怖さ
もう一つ、気をつけたい落とし穴があります。
それは、「お客様の声」を集めるアンケート調査です。
たとえば、飲食店を営む経営者が、お客様に「お店に何を求めますか」とアンケートを取ったとします。
返ってくる答えの多くは、「料理が早く出てくること」だったとしましょう。
この結果だけを見て、「早さ」を看板に掲げたくなるのは、自然な流れです。
しかし、ここで立ち止まって考えたいのは、「その地域で、すでに『早さ』と結びついているお店はないか」という点です。
もし、行列がすぐさばけることで知られる別の店がすでにあるなら、同じ土俵で「早さ」を訴えても、お客様の心の中では、やはりその店の名前が先に浮かんでしまいます。
アンケートは、お客様が何を大切に思っているかを教えてくれる、とても貴重な資料です。
ただし、「その言葉を、すでに誰が使っているか」までは教えてくれません。
数字やお客様の声を大切にしながらも、最後にどの言葉を選ぶかを決めるのは、経営者自身の目である、と言えるのではないでしょうか。
「同じ言葉」ではなく「自分の言葉」を探す
では、後発の会社や、規模の小さな会社は、どうすればよいのでしょうか。
一つの考え方は、正面から同じ言葉を奪いにいくのではなく、まだ誰も座っていない席を探すことです。
先ほどのクリーニング店の例で言えば、「早さ」の席がすでに埋まっているのなら、たとえば「シミ抜きの丁寧さ」や「着物専門」、「早朝に預けられる」といった、まだ誰も強く打ち出していない一言を探してみる、という道があります。
小さな会社ほど、あれもこれもと欲張らずに、たった一つの一言に絞り込む勇気を持てるのではないでしょうか。
大きな会社は、いろいろな強みを同時に伝えようとしがちですが、それではお客様の記憶には残りにくいものです。
むしろ、資源が限られている中小企業だからこそ、一点に絞った言葉を選びやすい、という見方もできると思います。
事例から考えてみる ― ある工務店の場合
ここで、一つの話を紹介してみたいと思います。
ある地方都市に、従業員八名ほどの工務店がありました。
この地域には、何十年も「価格の安さ」で知られてきた大手の工務店があります。
新聞の折込チラシを見れば必ず名前が載っており、住宅展示場でも一番目立つ場所に構えている会社です。
地域の人に「安く家を建てるなら」と尋ねれば、誰もが真っ先にこの大手の名前を挙げる、というほどの評判でした。
この工務店も、開業した当初は、同じように「低価格」を看板にしていました。
しかし、大手ほどの仕入れ力や広告費はありません。
値引きのチラシを配っても、問い合わせはほとんど増えず、むしろ値引きを重ねるほど、利益だけが目減りしていきました。
社長は「同じ言葉で戦っている限り、うちに勝ち目はないのではないか」と、次第に気づき始めたといいます。
そこで、これまで家を建ててくれたお客様十数件に、あらためて話を聞いて回ることにしました。
「なぜ、うちで建てようと思ったのですか」という、単純な問いです。
すると、値段の話をするお客様は、意外なほど少なかったそうです。
かわりに多く出てきたのが、「木の香りが気に入って」「地元の山の木だと聞いて、なんとなく安心できた」という言葉でした。
実は、この工務店は、もともと地元の木材を中心に家を建てていました。
ただ、それを特別なことだとは考えておらず、あえて前面に出してはいなかったのです。
社長は、この聞き取りをきっかけに、「地元の木材だけを使う」という一言を、正面から打ち出してみることにしました。
とはいえ、最初から手応えがあったわけではありません。
見学会を開いても人はまばらで、しばらくは反応の薄い日々が続いたそうです。
それでも社長は、ホームページや見学会で、木にまつわる話を根気強く発信し続けました。
すると半年ほど経った頃から、「木にこだわるなら、あの工務店」という評判が、少しずつお客様の口から聞かれるようになっていきました。
今では、価格だけでは比較されない、独自の立ち位置を得ているといいます。
もうひとつの事例 ―― 小さなパン屋の場合
似たような話は、飲食の世界にもあります。
ある商店街に、開業して間もない小さなパン屋がありました。
近くには、何十年も続く老舗のパン屋があり、「安くて美味しい」という評判で、毎朝、開店前から行列ができるほどの人気です。
長年かけて磨いてきた効率のよい仕込みのおかげで、安さと美味しさを両立させており、地域で「パン屋といえば」と聞けば、誰もがまずこの店の名前を挙げるほどでした。
新しいパン屋の店主も、最初は「うちも安くて美味しい」ことを伝えようとしていました。
値段を工夫し、品数も増やしてみましたが、なかなかお客様が定着しません。
老舗と同じ値段で張り合おうとすればするほど、仕込みの手間ばかりが増え、利益は残りにくくなっていきました。
転機になったのは、何度か通ってくれるようになった一人のお客様の、何気ない一言だったそうです。
「ここのパン、他のお店と生地の香りが違いますね」。
店主にとっては当たり前に使っていた天然酵母が、実はお客様の目には、はっきりとした違いとして映っていたのです。
そこで店主は、思い切って「毎朝、天然酵母だけで焼いています」という一点を、店頭に大きく掲げることにしました。
値段では、どうしても老舗にかないません。
それでも、値段以外の理由で選んでもらえる道を選んだのです。
最初のうちは、気づいてもらえないまま素通りされる日も多かったといいます。
それでも発信を続けるうちに、少しずつ「天然酵母のパンなら、あの店」という認識が近隣に広がっていきました。
今では、遠方からもわざわざ買いに来るお客様がいるといいます。
二つの事例に共通しているのは、相手がすでに強く占めている言葉に気づいたうえで、そこを正面から争うのではなく、お客様の声の中から、自分たちだけの一言を見つけ出したという点ではないでしょうか。
実は、採用の場面でも同じことが起きている
この考え方は、商品やサービスだけでなく、人を採用する場面にも当てはまるように思います。
近隣の会社が「アットホームな職場です」という言葉ですでに知られているなら、同じ言葉を求人票に並べても、応募する方の心には、先に知られているあの会社のほうが浮かびやすいものです。
むしろ、「経験の浅い方をじっくり育てる会社」や「週三日から働ける会社」といった、まだ誰も強く打ち出していない一言のほうが、記憶に残りやすいのではないでしょうか。
商品づくりだけでなく、人を集める場面でも、「まだ空いている席はどこか」という視点を持っておくと、限られた予算の中でも、印象に残る発信ができるようになるはずです。
まずは、自社の「席」を確かめることから
ここまでの話をふまえて、まず試していただきたいのは、次のような問いかけです。
「うちの会社は、お客様の頭の中で、どの言葉と結びついているだろうか」
もし、その言葉がまだぼんやりしているようであれば、それは決して悪いことではありません。
むしろ、これから自由に席を選べる、という意味でもあります。
まずは、同業他社がそれぞれどの言葉を占めているのかを、あらためて紙に書き出してみることから、始めてみるのも一つです。
そのうえで、「まだ誰も座っていない席はどこか」を考えてみる。すぐに答えが出なくても構いません。
日々お客様と接する中で感じる、ちょっとした違和感や、お客様からよくいただく言葉の中に、そのヒントが隠れていることが多いように思います。

おわりに
大きな会社と同じ土俵で、同じ言葉を使って戦おうとすると、資源の少ない中小企業ほど、苦しい戦いになりがちです。
しかし、視点を変えて、まだ誰も強く打ち出していない一言を見つけることができれば、たとえ規模は小さくても、お客様の心の中に、しっかりとした自分だけの居場所を築くことができるのではないでしょうか。
今日から、自社が大切にしている一言は何かを、あらためて考えてみてはいかがでしょうか。
その一言こそが、これからの経営を支える、大きな財産になっていくはずです。
