利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

なぜ「良い商品」なのに売れないのか—経営者が見落としがちな視点

なぜ「良い商品」なのに売れないのか—経営者が見落としがちな視点

うちの商品、なぜ埋もれてしまうのか—考えてみたい三つのこと

一生懸命に品質を磨いたはずなのに、思うように売上が伸びない。
そんな経験をお持ちの経営者は、少なくないのではないでしょうか。

「もっと良いものを作れば、お客様はきっと分かってくれる」。
そう信じて改良を重ねてきた方ほど、この壁にぶつかりやすいように思います。
実は、これは決して珍しい話ではありません。
むしろ、真面目にものづくりや仕事に取り組んできた経営者ほど、陥りやすい落とし穴だと考えられます。

今日は、この「良いものを作っているのに売れない」という悩みの正体について、身近な例を交えながら考えてみたいと思います。

後を追う会社がはまりやすい思い込み

すでに市場で評判を得ている先行の会社に対して、後から似た商品やサービスで挑もうとするとき、多くの経営者はこう考えます。

「相手より少しでも質を高めれば、いずれお客様は乗り換えてくれるはずだ」

この考え方自体は、決して間違いではありません。
ものづくりに真摯に向き合う姿勢として、とても大切な発想です。
しかし現実には、質を上げることだけに力を注いでも、思うような結果にはつながりにくいことが多いのです。

たとえば、マラソンを思い浮かべてみてください。
走り方のフォームをどれだけ美しく整えても、スタートが大きく遅れてしまえば、順位を挽回するのは簡単ではありません。
フォームの美しさは大切ですが、それだけでは勝敗は決まらないのです。

ビジネスの世界でも、これと似たことが起きているのではないでしょうか。

大切なのは「質の高さ」よりも「機会をつかむ早さ」

先行する会社に挑むうえで本当に重要なのは、相手より優れたものを作ることそのものではなく、お客様の心の中で「この分野といえばこの会社」という位置が固まってしまう前に、動き出すことだと考えられます。

人気の飲食店を思い浮かべると、分かりやすいかもしれません。
評判の良い店の席は、どれだけ料理の腕を磨いた新しい店であっても、すでに予約でいっぱいになっていることがあります。
席を取れるのは、料理の腕前が一番の店ではなく、先に予約の電話をかけた人です。

お客様の頭の中も、これと似たところがあるように思います。
一度「この分野ならこの会社」というイメージができあがると、そのあとに多少優れたものが出てきても、なかなか順位は入れ替わりません。
だからこそ、質を高めることと同じくらい、機会を逃さず動くことが欠かせないのではないでしょうか。

そしてもう一つ大切なのが、動き出すときの「見せ方」です。
どれだけ良いタイミングで打って出ても、その存在をお客様に知っていただけなければ、始まってすらいないのと同じことになってしまいます。
相応の宣伝活動を行うこと、そして覚えてもらいやすい名前をつけること。
この二つが、機会をつかむ早さと並んで欠かせない要素だと考えられます。

事例:ある製麺所の挑戦

ある地方都市に、二十年以上続く老舗の製麺所Aがありました。
数年前、健康志向の高まりを受けて、糖質を抑えた新しいうどんを開発し、思い切って新しい屋号とパッケージで売り出しました。
開発期間は三か月ほど。
決して完成度が飛び抜けて高かったわけではありませんが、地元紙への広告出稿やSNSでの発信に力を入れ、「あっさり麺」というシンプルで覚えやすい名前をつけました。

その様子を見ていた同業のBは、こう考えました。
「うちも同じような商品を出せば対抗できる。ただし、味ではAに負けたくない」。
Bは半年をかけて試作を重ね、Aよりもコシがあり、味わい深い糖質控えめうどんを完成させました。
しかし発売にあたっては、これまでの屋号のまま棚に並べ、宣伝費もほとんどかけませんでした。
新しい名前を考える時間も、正直なところ惜しんでしまったのです。

結果はどうなったでしょうか。
味の評価だけを見れば、Bの商品のほうが高いという声も少なくありませんでした。
それでも、地元のお客様の頭の中には、すでに「糖質控えめのうどんといえばA」というイメージができあがっていました。
Bの商品は「Aの後追い」という位置づけで見られてしまい、期待したほどの動きにはつながらなかったのです。

Bの経営者は、後になってこう振り返ったそうです。
「味には自信があった。でも、動き出すタイミングと、名前と、知らせる努力が足りなかったのだと思う」。

似たような経験に心当たりのある方も、いらっしゃるのではないでしょうか。

なぜ経営者は「改良」に時間を使いすぎてしまうのか

ここで少し立ち止まって、なぜ多くの経営者が改良に時間をかけすぎてしまうのか、その背景を考えてみたいと思います。

一つには、ものづくりや仕事に対する誠実さがあります。
中途半端な状態でお客様の前に出すことに、抵抗を感じるのは自然なことです。
「まだ直したいところがある」という気持ちは、良い仕事をしようとする証でもあります。

もう一つには、失敗への不安があります。
不完全な状態で世に出して評価が下がってしまったら、取り返しがつかないのではないか。
そう感じて、なかなか一歩を踏み出せない経営者は多いように思います。

ただ、ここで考えていただきたいのは、質を高めることと、機会を逃さないことは、本来どちらか一方を選ぶものではないという点です。
完璧を目指して時間をかけすぎてしまうと、気づいたときには、すでにお客様の心の中の「一番手」の位置が、他の誰かに決まってしまっている。
そうした事態を避けるためにも、「どこまで仕上げたら世に出すか」という基準を、あらかじめ決めておくことが助けになるのではないでしょうか。

屋号・伝え方・タイミングという三つの持ち物

先ほどの事例からも見えてくるように、後から挑む立場の会社が意識したいことは、大きく三つに整理できるように思います。

一つ目は、覚えやすい名前をつけることです。
既存の屋号にそのまま新商品をぶら下げると、社内では管理しやすいのですが、お客様の記憶には残りにくいことがあります。
新しい取り組みには、思い切って新しい名前を用意することも、一つの方法です。

二つ目は、身の丈に合った形で、きちんと知らせる努力をすることです。
大きな広告費をかけられない中小企業であっても、SNSでの発信や、常連のお客様への声かけ、地域のつながりを生かした口コミなど、できることは意外とたくさんあります。
大切なのは金額の大小よりも、続けること、そして狙うお客様に的を絞ることではないでしょうか。

三つ目は、動き出すタイミングです。
完璧に仕上がるのを待つのではなく、「ここまでできたら、まずは試してみよう」という区切りを自分の中に持つことが助けになります。
世に出してからお客様の声を聞き、そこから磨き上げていくという順番も、十分にあり得る選択肢だと考えられます。

今日からできる小さな一歩

ここまで読んでいただいて、「うちの場合はどうだろう」と考え始めた方もいらっしゃるかもしれません。
大きく構える必要はありません。まずは次のようなことから始めてみるのも一つです。

今取り組んでいる新しい商品やサービスについて、「どこまで仕上がったら世に出すか」という基準を、紙に書き出してみる。
それだけでも、頭の中の迷いが少し整理されるのではないでしょうか。

また、既存の屋号にそのまま乗せようとしていないか、一度見直してみることもおすすめです。
新しい取り組みには、新しい呼び名がふさわしい場合もあります。

そして、宣伝や告知にかけられる時間やお金を、大まかにでも書き出してみることです。
金額は少なくても構いません。
「誰に、どうやって知らせるか」を具体的に思い描くことが、次の一歩につながります。

おわりに——完璧を目指すより、勇気を出して一歩前に

品質にこだわる姿勢は、経営者として何より大切な財産です。
その気持ちを手放す必要は、まったくありません。

ただ、その財産を最大限に生かすためには、磨き続けることと同じくらい、機会を逃さず動くことにも目を向けていただきたいと思います。
完璧に仕上げてから世に出すのではなく、「今のお客様に届けられる形」で、勇気を持って一歩を踏み出す。
そうした選択が、結果として大きな実りにつながることも少なくないのではないでしょうか。

長年、中小企業の経営者の皆様と向き合ってきた中で、迷いながらも一歩を踏み出した方の姿を、何度も見てきました。
その一歩は、決して完璧である必要はありません。
今日お伝えしたことが、皆様の次の一歩を後押しするきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。

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