利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「真似る」から始める経営革新—試行錯誤のしんどさが、あなたの武器になる

「真似る」から始める経営革新—試行錯誤のしんどさが、あなたの武器になる

模倣を通じて自社の力を高める

「うちには、これといった強みがない」と感じていませんか?

税理士として、長年にわたって中小企業の経営者と向き合ってきました。

決算の話をしながら、ふとした会話の中で、こんな言葉をよく耳にします。

「うちは特に、強みと言えるものがないんですよね」
「あの会社のやり方は参考にしたいんですけど、うちには無理で」
「真似ばかりでは、本物の経営じゃない気がして……」

この言葉を聞くたびに、私は「そうではないかもしれませんよ」とお伝えしたくなります。

経営者というのは、毎日が判断の連続です。
売上のこと、スタッフのこと、お客様のこと—あらゆる場面で決断を迫られながら、会社を前へ進めていく。
その忙しさの中で「じっくり考える時間がない」という方も多いのではないでしょうか。

だからこそ、今日はひとつのヒントをお伝えしたいと思います。
それは、「真似ること」の持つ、予想以上に深い力についてです。

「真似る」に対する、よくある誤解

「真似る」という言葉を聞くと、どんなイメージが浮かぶでしょうか。
「コピー」「パクリ」「オリジナリティがない」—そんな少しネガティブな言葉が思い浮かぶかもしれません。

学校教育の中で、私たちは「自分で考える」「独自のアイデアを出す」ことを大切にするよう育てられてきました。
経営の場でも同じ感覚が働いて、「真似ること」をどこかやましいことのように感じてしまう方が少なくありません。

しかし、ここに大きな誤解があります。

世の中でうまくいっている経営者の多くは、何かしら「先人のやり方」「成功している他社の仕組み」を研究し、取り入れてきています。
まったくゼロから独創的なアイデアを生み出した、という人は、実はそれほど多くありません。
「真似ること」は、成長のための、ごく自然な入り口なのです。

問題は、「どう真似るか」にあります。

「本物の真似」は、実はとてつもなく難しい

ここで、ひとつ想像してみてください。

繁盛している飲食店の「仕込みから接客までの流れ」を、自分のお店で完全に再現しようとしたとき、それはどれほど大変なことでしょうか。

外から見ていると、スムーズに見えるかもしれません。
でも実際に自分のお店でやってみようとすると、まず「どの順番で何をしているのか」さえ、なかなか分かりません。
食材の仕込みのタイミング、スタッフへの声かけの仕方、お客様が席につくまでの細かな動線—こうした積み重ねが、外からは見えない「仕組み」をつくっています。

これを自社に落とし込もうとすれば、当然ながら試行錯誤が必要になります。
やってみて、うまくいかない。
「なぜだろう」と考える。また試す。
この繰り返しの中で、少しずつ理解が深まっていきます。

本や研修で知識を頭に入れることと、実際に「やってみて失敗して考える」ことは、まったく別の次元の話です。
体を動かし、壁にぶつかることでしか手に入らない「判断力」と「応用力」がある、と私は感じています。

「本物の真似」とは、表面をなぞることではありません。
その奥にある「なぜそうするのか」を理解しようとする、とても知的な行為なのではないでしょうか。

100を真似しようとすると、200の力がつく

経営の学びの中で、とても納得できる考え方があります。

「100のノウハウを真似しようと試行錯誤を重ねていくうちに、200ぐらいの能力が蓄積されることもある」というものです。

なぜそうなるのでしょうか。

それは、試行錯誤のプロセスの中では、「目的にしていたこと」だけでなく、その周辺に広がるさまざまな気づきが生まれるからです。

たとえば、競合他社のチラシを参考にしようとした結果、「うちの地域のお客様には、この言葉よりもこちらの方が響く」という発見が生まれるかもしれません。
有名店の接客を研究しているうちに、「うちのスタッフの方が、実はお客様との距離が近い」という強みに気づくかもしれません。

試行錯誤とは、単なる「失敗の繰り返し」ではありません。
その一つひとつが、経営者としての「引き出し」を増やしていく、着実な積み上げなのです。
100を目指して試行錯誤するうちに、気づけば200の力がついている—これは、決して大げさな話ではないと感じています。

しんどさを嫌うと、成長は止まる

正直なところ、これは楽な道ではありません。

他社の仕組みを解析しようとすれば、時間もかかります。
何度試してもうまくいかず、「やっぱりうちには無理なのか」と感じる夜もあるでしょう。

しかし、ここに逆説的な真実があります。

その「しんどさ」こそが、成功への鍵なのです。

楽な道だけを選んでいると、試行錯誤が生まれません。
試行錯誤がなければ、能力は蓄積されません。
能力が蓄積されなければ、独自のやり方は生まれない。

この連鎖を知っていると、「うまくいかない時期」の見え方が変わってきます。
「まだできていない」のではなく、「今、力をため込んでいる」と感じることができるのではないでしょうか。

しんどさを「失敗のサイン」ではなく、「成長のサイン」として受け取れるようになったとき、経営者としての幅が大きく広がると思います。

ある小さな印刷会社の話—真似から生まれた「自分たちの流儀」

ここで、ある小さな印刷会社のエピソードをご紹介します。
細部はぼかしていますが、本質は実際の出来事に基づいています。

社長の山本さん(仮名)は、40代前半で父親から会社を引き継ぎました。
従業員は8名ほど。
チラシや名刺、パンフレットを手がける地域密着の印刷会社で、売上はそれなりに安定していましたが、近年はネット印刷サービスの台頭で価格競争が激しくなり、「このままでいいのか」という不安を感じていました。

そんなとき、山本さんが参考にしたのは、同じ地方都市で急成長していたデザイン事務所でした。
そこは「印刷だけでなく、ブランディングまで一緒に考える」というスタイルで、地元の飲食店や小売店から厚い支持を集めていました。

山本さんはその会社のホームページを何度も読み込み、お客様事例を分析し、「うちでもこういう提案ができないか」と考え始めました。
試しに、既存のお客様に「印刷物だけでなく、お店のコンセプトから一緒に考えましょう」と声をかけてみました。

ところが、うまくいきません。
「プロのデザイナーがいるわけでもないのに、何ができるの?」と思われてしまったのです。

「なぜだろう」と山本さんは考え続けました。
そしてあるとき、長年の取引先の社長から、こんな一言をもらいます。
「山本さんとこって、急ぎの仕事でも絶対に断らないし、ちょっとした修正も嫌な顔しないよね。それって、すごいことだよ」

そこで山本さんははっとしました。
自分たちの本当の強みは、「デザインのセンス」でも「最新機器」でもなく、「どんな無茶なお願いにも誠実に向き合う、対応力と信頼感」だったのです。

それからは方向性が変わりました。
「困ったときの山本印刷」というポジションを意識し、小ロットで急ぎの案件に特化したサービスを打ち出しました。
今では「急ぎのときだけは絶対に山本さんに頼む」という固定客が増え、ネット印刷との価格競争からも一歩引いた経営が実現しています。

山本さんは後にこう話してくれました。
「あのデザイン事務所を真似しようとしてなければ、自分たちの強みには気づかなかった気がします。うまくいかなかったからこそ、本当に大切なものが見えた」

これが、真似るプロセスが持つ本当の力だと、私は感じています。

「真似から学ぶ」ために、今日からできること

では、実際にどこから始めればよいでしょうか。
大げさなことは必要ありません。
まずは小さな一歩から始めてみるのも一つです。

参考にする会社を「一社だけ」決めるところから始めてみてはいかがでしょうか。
業界内でも、まったく異なる業種でも構いません。
「いいな」「参考にしたい」と感じる会社を一社に絞ることが大切です。
あれもこれもと広げると、深く学べなくなります。

次に、外から観察できるものをすべて書き出すことをおすすめします。
ホームページ、チラシ、SNS、実際のサービスを体験してみる—外から見えるものを丁寧に拾っていく作業です。
このとき、「なぜこうしているのか?」という問いを常に持ちながら観察することが、学びの深さを変えます。

そして、書き出した中からひとつだけ選んで、自社で試してみることです。
うまくいかなくて当然です。
むしろ、「なぜうまくいかなかったのか」を真剣に考えることの方が大切です。
その思考の積み重ねが、あなたの会社にしかない答えを、少しずつ育てていきます。

この三つを繰り返すだけで、気づかないうちに「自分たちらしいやり方」が生まれてくるのではないでしょうか。

まとめ—「真似る勇気」が、やがて独自性を育てる

「うちには強みがない」と感じている経営者の方に、改めてお伝えしたいことがあります。

あなたが「強みがない」と感じているのは、まだ十分な試行錯誤を重ねていないからかもしれません。
本物の強みは、何もないところから突然生まれるのではなく、「真似て、失敗して、考えて、また試す」という地道な繰り返しの中で、じっくりと育まれるものではないでしょうか。

「真似ること」は、出発点です。
ゴールではありません。
徹底的に研究し、試行錯誤を重ねることで、100のノウハウを追いかけた先に、200の力が自然と育っていきます。
そしてその力が、あなただけの、あなたの会社だけのオリジナリティを生み出していきます。

しんどさを恐れずに、まずは「一社を決めて、観察する」ところから始めてみてはいかがでしょうか。

小さな一歩が、いつか大きな変化を生み出すことを、私は多くの経営者との対話の中で実感しています。
あなたの会社にも、必ずそのような可能性があります。
それを信じて、まずは一歩踏み出してみてください。

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