利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「向かう場所」を共有したとき、チームは自ら動き始める―目標の三つの層が組織を変える

「向かう場所」を共有したとき、チームは自ら動き始める―目標の三つの層が組織を変える

目標の三層構造で組織を動かす

「ちゃんと働いてくれているのに、なぜ会社が伸びないのか」

税理士として、これまで多くの中小企業の経営者と長い時間をともにしてきました。
その中で、くり返し聞かれる悩みがあります。

「スタッフはそれなりに頑張ってくれている。でも、自分から動いてくれる人がなかなか育たない」
「指示したことはやってくれるけれど、それ以上は動いてくれない」
「危機的な場面でも、みんなが静観してしまう」

こういった言葉を、多くの経営者が口にします。
そして多くの場合、「やる気の問題だろうか」「給与が低いのだろうか」と、原因を探して悩み続けていらっしゃいます。

でも、私が長年の対話を通じて感じてきたのは、これらの悩みの根っこには、別の問題が潜んでいることが多い、ということです。
それは、「向かうべき場所が、チームで共有されていない」ということではないでしょうか。

なぜ人は「与えられた仕事だけ」をしてしまうのか

人が組織の中で受け身になってしまうのは、意欲がないからではないことが多いです。

たとえば、「売上を伸ばそう」という言葉が社内に掲げられていたとします。
でも、スタッフ一人ひとりの日常は、見積もりの作成であったり、電話対応であったり、納品の管理であったりします。
その積み重ねが「売上アップ」にどうつながっているのか、自分の目には見えにくい。

そういう状況では、「自分に割り当てられた仕事を丁寧にこなすことが、自分の責任だ」という意識になってしまいます。
責任感の裏返しとも言えますが、それは同時に「それ以上を考える必要はない」という意識にもつながりやすいのです。

チームが停滞するのは、スタッフの問題ではなく、「なぜここにいるのか」「何を目指しているのか」が腹落ちしていないからではないでしょうか。
そしてそれは、多くの場合、経営者にとっても、言語化できていない部分かもしれません。

「向かう場所」が変わったとき、チームは変わる

ここで、あるスポーツチームのエピソードをご紹介したいと思います。

以前、日本のサッカー代表チームが、国際的な大きな大会に向けて強化を進めていた時期のことです。
当時のチームは、技術は持っていながらも、苦しい場面で選手が積極的に動こうとしなかったり、自分の役割さえ果たせばよいという雰囲気が広がっていたりしました。
当然、そういうチームは大事な試合で結果を出すことができませんでした。

監督がまず取り組んだのは、叱咤激励でも戦術の見直しでもありませんでした。
「このチームが存在する意味」を問い直すことから始めたのです。
日本のサッカーが、それまでの歴史で一度も成し遂げたことのない高みを目指すという「大きな意義」を掲げ、その上で具体的な「到達目標」を設定しました。そして、それを実現するための「日々の行動の指針」を、チームとして言葉にしました。

しかし、ここで終わらなかったことが重要です。

監督は全員に一枚の紙を配り、「チームの目標」を書かせた上で、「そのためにどんなチームであるべきか」「チームの中で自分はどんな役割を担うか」「一年後の自分はどうなっていなければならないか」「では今日、何をするか」という問いを順番に書き出させました。
大きな目標が、自分の今日の行動にまで落とし込まれた瞬間です。

すると、チームの中の日常的な会話が変わり始めました。
「今のプレーは目標に近づくものだったか」「そのひと言が、チームの目指す姿にふさわしいか」という問いが、自然とやりとりの中に現れるようになったのです。

結果として、チームは見違えるほど変わりました。
選手同士が自ら声をかけ合い、自主的に話し合いの場をつくり、数点差の劣勢という厳しい状況からでも盛り返せるほどの粘り強さを見せるようになりました。
掲げた目標そのものには届きませんでしたが、それまでの常識では考えられなかった成果を、チームは手にすることができました。

目標には「三つの層」がある

このエピソードから経営に活かせることとして、目標には重なり合う三つの層があるのではないかと考えられます。

一つ目は「意義の目標」です。
なぜこの会社が存在するのか、この仕事を通じて何を実現したいのか、という問いへの答えです。
「利益を出すため」も大切ですが、それだけでは人の気持ちはなかなか動きません。
「この地域の○○で困っている人の力になりたい」「この業界に新しい当たり前をつくりたい」という言葉があると、仕事に意味が生まれます。

二つ目は「成果の目標」です。
意義を実現するために、具体的に何を達成するのか。数字でも言葉でも構いません。
「何年後にどういう状態になっているか」を、チームで共有できる形にしたものです。

三つ目は「行動の目標」です。
成果を達成するために、今日・今週・今月、どう動くか。
これが最も大切で、最も見落とされやすいところです。
どんなに美しいビジョンも、今日の行動につながらなければ、絵に描いた餅になってしまいます。

この三層がつながったとき、スタッフは「自分が何のためにここにいるのか」を感じながら動けるようになるのではないでしょうか。

実際に変わった、ある小さな会社の話

少し具体的なイメージを持っていただくために、私が見聞きした事例をもとにお話しします(実際の会社とは異なる形で再構成しています)。

従業員が八名の小さな清掃会社のケースです。
もともと地域で長く続いてきた会社でしたが、大手の参入で競争が厳しくなり、スタッフの表情も暗くなっていました。
社長は「もっと積極的に動いてほしい」と感じながら、どう伝えればいいかわからず、悩んでいたといいます。

あるとき、社長は自分たちの仕事を改めて言葉にしてみました。
「建物をきれいにすること」が仕事の定義ではなく、「そこで働く人や暮らす人が、気持ちよく毎日を始められる環境を届けること」が自分たちの使命だと。

そこから「三年後には、この地域でもう一度頼みたいと言われる清掃会社になる」という目標を、全員で共有しました。
そしてスタッフ一人ひとりに、「自分はそのために何ができるか」を考えてもらう時間をとりました。

「作業が終わった後に一声かけよう」「気になった箇所は報告するようにしよう」「お客さんの顔を覚えて、名前で声をかけよう」―スタッフ自身の言葉から生まれた行動が、少しずつ日常に根付いていきました。

半年ほど経つと、紹介での依頼が増え、リピート率も上がってきました。
スタッフからも「こんなことをやってみたい」という提案が出るようになりました。
社長は「怒ったわけでも、仕組みを変えたわけでもない。
みんなで目指す場所を確認しただけなのに、こんなに変わるとは思わなかった」と振り返っていました。

まず一枚の紙から始めてみてください

「うちでも試してみたい」と感じていただけたとしたら、難しく考える必要はありません。
まずは一枚の紙から始めてみることをおすすめしたいと思います。

紙の一番上に、「三年後、自分の会社にどうなっていてほしいか」を書いてみてください。
数字でも、お客さんに言われたい言葉でも、スタッフの様子でも構いません。

次に「そのためにはどんな会社でなければならないか」を書きます。
どんな雰囲気で、どんな強みを持つ会社なのか。

そして「では今日、自分は何をするか」まで落とし込んでみてください。

最初はひとりで書いてみて、それをスタッフと共有する場をつくることが、次のステップになるのではないでしょうか。
目標は「壁に貼っておくもの」ではなく、「毎日の判断の基準になるもの」です。
「このやり方は、私たちの目指す姿に合っているだろうか」という問いが、日々の会話の中に自然と出てくるようになれば、チームは確実に育ってきているサインではないかと思います。

おわりに―目標は「管理のための数字」ではなく「仲間をつなぐ言葉」

目標と聞くと、「数字で管理するもの」「達成できなかったときに責任を問うもの」というイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。
でも、本来の目標の役割はそこにはないと、私は感じています。

目標とは、「一緒に向かう場所を確かめ合うための言葉」ではないでしょうか。

向かう場所が見えたとき、人は自然と考え始めます。
仲間のことが気になり、声をかけるようになります。
困難な局面でも、あきらめずに手を動かし続けられるようになります。

「この仕事には意味がある」「このチームで働いてよかった」と思える職場は、仕組みが整っているからだけでなく、向かう方向が共有されているからこそ生まれるものだと思います。

経営者であるあなたが、まず自分自身の言葉で「向かう場所」を描くことが、すべての出発点になるのではないでしょうか。

一枚の紙に、思いを書き出してみるところから始めてみてはいかがでしょうか。
きっと、そこから何かが動き始めるはずです。

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