その「当たり前」、実はあなただけの強みかもしれません
「あなた自身の強みは何ですか」
そう聞かれて、すぐに答えられる方は、実はそれほど多くありません。
会社の強みや、扱っている商品の強みなら、いくらでも語れる経営者の方でも、いざ「社長であるあなた個人の強みは」と聞かれると、言葉に詰まってしまうことがよくあります。
「経営を良くしたいけれど、何から手をつけたらよいかわからない」―そんなふうに感じている方にこそ、実は今回の話題を考えてみることをおすすめしたいと思います。
会社の強みではなく、経営者ご自身の強みです。
この問いに向き合うことは、遠回りのように見えて、実は事業を前に進めるための、意外と見落とされがちな出発点になっているのではないでしょうか。
なぜ自分の強みは、自分では見えにくいのか
不思議なことに、私たちは自分の強みに、案外気づいていません。
それはなぜでしょうか。
理由は単純です。
自分にとって「当たり前にできること」は、強みだと感じにくいからです。
たとえば、魚は水の中で泳いでいることを、特別なことだとは思っていません。
水の中にいるのが当たり前だからです。
同じように、あなたが自然にできてしまうこと、苦労せずにやれてしまうことは、あなた自身にとっては「当たり前」であり、わざわざ意識することがありません。
ところが、その「当たり前」は、他の人から見ると、まったく当たり前ではないことが少なくありません。
むしろ「どうしてそんなことが、涼しい顔でできるのだろう」と、うらやましく思われていることさえあるのです。
たとえば、初めてのお客様ともすぐに打ち解けて話せること。
細かい数字の管理を、面倒がらずにこつこつ続けられること。
急な問題が起きても、慌てずに一つずつ対処できること。
こうしたことは、日々の忙しさのなかでは「当然やるべきこと」として通り過ぎてしまいがちですが、実は誰にでもできることではないのです。
つまり、強みというのは、自分の内側だけを見つめていても、なかなか見つからないものだと考えられます。
強みは、他の人との違いのなかに、初めて姿を現すものだからです。
もう一つ、自分の強みが見えにくくなる理由があります。
それは、経営者という立場が、常に「足りないところ」に目を向けがちだからです。売上が伸び悩んでいるところ、人手が足りていないところ、資金繰りが厳しいところ――日々の経営のなかでは、どうしても課題や弱点のほうに意識が向きやすいものです。
それ自体は、経営者として当然の姿勢とも言えます。
しかし、そのぶん「自分にできていること」「自分だからこそうまくいっていること」には、意外と目が向きにくくなってしまいます。
弱点を探す癖がついているぶん、強みを見つける習慣は、意識してつくらないと身につきにくいのではないでしょうか。
ある工務店の社長の話
こんな例があります。
ある地方で工務店を営む社長がいました。
仮にKさんとしましょう。
Kさんは若いころから大工の修業を積み、家づくりの技術には人一倍の自信を持っていました。
ご本人も、自分の強みは「正確で美しい仕事ができること」だと、長い間そう思っていたそうです。
ところがあるとき、付き合いのある取引先や、長年勤めてくれている職人さんたち、それにお客様にも、それとなく「Kさんの強みって何だと思いますか」と聞いて回る機会がありました。
返ってきた答えは、Kさんの予想とはだいぶ違うものでした。
「Kさんは、お客様がどんなに細かい要望を言っても、嫌な顔ひとつせず、根気強く聞いてくれる」「専門的な話を、素人にもわかるように、身近なたとえ話を使って説明してくれる」「工事の途中で問題が起きても、まず状況を落ち着いて説明してから、対応策を提案してくれるので安心できる」―そういった声が、次々と集まったのです。
技術の正確さは、もちろん大切な力です。
しかし、まわりの人たちが本当に価値を感じていたのは、技術そのものよりも、Kさんの「聞く姿勢」や「わかりやすく伝える力」、そして「落ち着いて対応する姿勢」だったのです。
Kさん自身は、それを特別な力だとは思っていませんでした。
ただの性格だと思っていたのです。
だからこそ、長い間、自分の本当の強みに気づけずにいたのです。
この話は、決して特別な例ではないと思います。
多くの経営者の方が、同じように、自分の本当の強みを見過ごしているのではないでしょうか。
興味深いのは、Kさんがこの話を聞いたあとの変化です。
それまでKさんは、営業の場面でも「うちの工事は精度が高いです」という説明を中心にしていました。
しかし、まわりの声を聞いてからは、初回の打ち合わせで、まずお客様の話にじっくり耳を傾けることを、意識して大切にするようになったそうです。
すると、契約に至る割合が以前より高まったといいます。
もちろん技術力を軽視したわけではありませんが、お客様が本当に安心を感じていたのは、Kさんの「聞く姿勢」のほうだったのかもしれません。
自分の強みを正しく知ったことで、伝え方そのものが変わった、という例だと思います。
強みは、比べてはじめて見えてくるもの
もう少し掘り下げて考えてみましょう。
強みというのは、絶対的なものではなく、相対的なものだと考えられます。
つまり、誰かと比べたときに、はじめて「強み」として姿を現すのです。
同じ業界で働く人たちの多くが、専門的な知識や技術を身につけています。
それ自体は、珍しいことではありません。
しかし、その知識や技術を「わかりやすく人に伝えられるかどうか」「相手の立場に立って対応できるかどうか」は、人によって大きな差があります。
難しいことを難しいまま話す人もいれば、易しい言葉に置き換えて、相手の腑に落ちるように伝えられる人もいます。
この違いこそが、強みと呼べるものではないでしょうか。
強みは、知識や技術そのものというよりも、その人がまわりの人と比べて「自然にできてしまうこと」のなかに宿っている、と言えるかもしれません。
そして厄介なことに、その「自然にできてしまうこと」は、当の本人にはなかなか見えないのです。
だからこそ、自分の強みを知りたいときは、自分の内側を掘り下げるよりも、まわりの人に尋ねてみるほうが、近道になることが多いのではないでしょうか。
ここで一つ、誤解しやすい点にも触れておきたいと思います。
強みとは、必ずしも「人よりも優れた能力」である必要はない、ということです。
Kさんの例で言えば、「話をじっくり聞く」ということ自体は、特別な資格や技術が必要なものではありません。
むしろ、誰にでもできそうに思えることです。
しかし、それを面倒がらずに、毎回きちんと実行できる人は、実はそれほど多くありません。
特別な才能というよりも、「無理なく続けられること」「苦にならずにやり続けられること」のなかに、強みが隠れていることも多いのではないでしょうか。
強みを知ることは、経営にどうつながるのか
「自分の強みを知って、それが何の役に立つのか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、これは決して自己満足のための話ではありません。
まず、自分の強みがはっきりすると、日々の判断に迷いが少なくなります。
何かを任せるとき、何を自分でやり、何を人に任せるべきかの線引きがしやすくなるからです。
Kさんの例で言えば、「聞く力」や「伝える力」が自分の強みだとわかれば、お客様との打ち合わせは自分が担い、細かな図面の作成は得意な職人に任せる、といった役割分担が、自然と見えてくるのではないでしょうか。
次に、商品や仕事の伝え方にも活きてきます。
自分の強みを言葉にできれば、それはそのまま、お客様に選んでいただくための理由にもなります。
「技術力があります」というだけでは、同業他社との違いが伝わりにくいものですが、「どんな細かい要望も丁寧に聞き、わかりやすくご説明します」という言葉には、Kさんならではの個性が表れています。
さらに、採用や人材育成の場面でも役立ちます。
経営者自身の強みがはっきりしていれば、「自分にはない力を持つ人」を意識して採用することができますし、従業員に対しても、それぞれの強みを見つけて伸ばすという視点を持ちやすくなるのではないでしょうか。
加えて、経営者ご自身の心の負担を軽くするという意味でも、強みを知ることには価値があると思います。
多くの経営者の方は、「もっとできるようにならなければ」「弱点を克服しなければ」と、無理に自分を追い込んでしまいがちです。
けれども、すでに持っている強みに目を向けることができれば、「これ以上何かを新しく身につけなくても、今ある力を活かすだけで、まだできることがある」という気づきにつながります。
足りないものを埋める努力と同じくらい、すでにある力を伸ばす視点を持つことも、経営を続けていくうえでは大切なのではないでしょうか。
今日からできる、3つの手順
では、実際にどうすれば、自分の強みに気づくことができるのでしょうか。
難しく考える必要はありません。
まずは、次の三つの手順から始めてみるのも一つです。
一つ目は、書き出してみることです。
「自分の強みは何だろう」と、思いつくままに紙に書き出してみてください。
うまくまとまらなくてもかまいません。
三つでも五つでも、思いついた順に書いてみましょう。
大切なのは、まず自分なりの仮説を持つことです。
二つ目は、身近な人に聞いてみることです。
信頼できる従業員の方、長い付き合いのある取引先、あるいはご家族でもかまいません。
「私の強みって、何だと思いますか」と、率直に尋ねてみてください。
できれば、一人だけでなく、立場の違う三人ほどに聞いてみると、より確かな答えに近づきます。
最初は照れくさく感じるかもしれませんが、思いがけない答えが返ってくることが多いものです。
三つ目は、集まった答えの共通点を探すことです。
一人だけの意見では、たまたまかもしれません。
しかし、複数の人から同じような言葉が返ってきたなら、それはかなり信頼できる「あなたの強み」だと考えられます。
自分が書き出した答えと、まわりの人からの答えが重なる部分にこそ、本当の強みが隠れていることが多いようです。
もし、自分の予想とまったく違う答えが返ってきても、驚く必要はありません。
むしろそれは、自分では気づけなかった、新しい発見だと受け止めていただければと思います。
聞き方に迷う場合は、いきなり「強みは何か」と尋ねるよりも、少し具体的な質問にしてみると、答えやすくなることがあります。
「私と一緒に仕事をしていて、助かったと感じるのはどんな場面ですか」「私のどんなところが、他の経営者と違うと感じますか」といった聞き方であれば、相手も答えを思い浮かべやすくなるはずです。
すぐに答えが返ってこなくても、焦る必要はありません。
数日後に、ふと思い出したように教えてくれることもあります。

まとめ:強みは、探すものではなく、教えてもらうもの
自分自身の強みというのは、内側にこもって考え続けても、なかなか見つからないものです。
むしろ、まわりの人たちとの対話のなかにこそ、見つけるための手がかりが隠れていると考えられます。
経営者という立場は、日々多くの判断を求められる、孤独な仕事でもあります。
だからこそ、ときには立ち止まり、まわりの人に率直に尋ねてみる時間を持つことも、大切なのではないでしょうか。
あなたが当たり前だと思っていることのなかに、実は誰にも真似できない、あなただけの強みが眠っているかもしれません。
まずは身近な一人に、「私の強みって何だと思う」と、聞いてみることから始めてみてはいかがでしょうか。
そうして見えてきた強みは、これからの事業の方向性を考えるときにも、きっと力になってくれるはずです。
何を続け、何を人に任せ、何を新しく始めるか―その判断の軸になるのは、弱点をなくすことだけではなく、すでにある強みをどう活かすかという視点でもあるのではないでしょうか。
小さな一歩かもしれませんが、まわりの人に尋ねてみることが、経営を見つめ直す、大きなきっかけになるはずです。
