利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

良い商品なのに、なぜ売れないのか?―ビアードパパに学ぶ「お客様が買いたくなる仕組み」のつくり方

良い商品なのに、なぜ売れないのか?―ビアードパパに学ぶ「お客様が買いたくなる仕組み」のつくり方

広告も値下げも、その前に。お客様に一人だけ話を聞いてみませんか―ビアードパパに学ぶ、従業員10人の会社の第一歩

商品には自信がある。それなのに、お客様が増えない

「うちの商品は、決して悪くないと思うんです」

税理士として中小企業の経営者の方々とお話ししていると、こうした言葉を耳にすることがあります。

長年かけて技術を磨いてきた製造業の社長。材料にこだわっている飲食店の店主。
丁寧な仕事を心がけている建設会社の経営者。
どの会社にも、その会社なりの強みがあります。

ところが、その強みがそのまま売上につながっているとは限りません。

一生懸命に仕事をしているのに、新しいお客様が増えない。
何年も営業しているのに、会社の名前を覚えてもらえない。
価格の話になると、すぐに他社と比べられてしまう。

そうなると、広告を増やすべきか、値下げをするべきか、新しい商品を開発するべきかと悩むことになります。

しかし、その前に一度考えてみたいことがあります。

お客様は、そもそも自社の商品やサービスの良さを知っているのでしょうか。

社長が商品の良さを知っていることと、お客様がその良さを感じていることは、別の話です。

この違いを考えるうえで参考になるのが、シュークリーム専門店の「ビアードパパ」です。

買う予定がなかったのに、足を止めてしまう

商業施設や駅の近くを歩いていると、ふと甘い香りが漂ってくることがあります。

香りのする方を見ると、店の中でシュークリームを作っています。
焼き上がったシュー生地が並び、店員さんが注文を受けてからクリームを詰めています。

その様子を眺めているうちに、なんとなく食べたくなってくる。
もともと買う予定はなかったのに、お店の前で足を止めてしまう。

こんな経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。

ビアードパパは、店内でシュー生地を焼き上げ、注文を受けてからクリームを詰めるという売り方を、1999年の1号店開業以来続けてきました。
そして2026年6月30日には、国内の店舗数が300店舗を突破したと発表しています。

もちろん、店舗が増えた理由を店頭での実演販売だけで説明することはできません。
立地や商品開発、出店の戦略など、さまざまな要因が関係しているはずです。

ただ、この会社の売り方には、従業員10人前後の会社でも参考にできる大切な考え方が含まれているように思います。

それは、商品の良さを「説明する」だけでなく、お客様自身に「感じてもらう」場面をつくっているということです。

作る様子そのものが、お客様への語りかけになっている

ビアードパパでは、商品を作る工程そのものが、お客様への働きかけになっています。

香りがする。作業が見える。できたての商品が並んでいる。

こうした体験があると、商品名と価格だけが書かれた看板を見る場合とは、受け取る情報の量がまったく違ってきます。

しかも、お客様は難しい説明を聞かなくても、「サクサクしていそうだ」「できたてでおいしそうだ」と、その商品の魅力を自分で想像できます。

ここが大切なところです。
人は、他人から説明されたことよりも、自分で気づいたことの方を信じやすい傾向があるのではないでしょうか。

売れない原因は、品質ではなく「伝わっていないこと」かもしれない

例えば、同じようにおいしいパンを作っている2軒のパン屋があったとします。

一方のお店では、パンが棚に並び、商品名と価格だけが書かれています。

もう一方のお店では、焼き上がる時間が案内され、店員さんが焼きたてのパンを並べています。
商品の横には、おすすめの食べ方も書かれています。

仮に味も価格も同じだとしても、お客様が感じる魅力には差が出るのではないでしょうか。

これは、最初のお店のパンがおいしくないという話ではありません。
おいしさを知ってもらう機会に違いがある、ということです。

この考え方は、お客様に選ばれるための仕組みづくり、いわゆるマーケティングの基本にもつながります。

お客様は、商品そのものだけを求めているわけではありません。
その商品を買うことで、自分にどんな良いことがあるのかを考えています。

例えば、外壁塗装を依頼するお客様は、塗料が欲しいわけではありません。
雨漏りや傷みの心配を減らしたい。
家を長持ちさせたい。
安心して暮らしたい。
そうした願いがあるはずです。

ところが、会社の説明が塗料の種類や施工技術の話ばかりだったら、どうでしょうか。
専門家には魅力が伝わっても、一般のお客様には違いがわかりにくいかもしれません。

製造業でも同じです。
最新の機械を入れたことや加工技術の高さを説明するだけでは、取引先に価値が十分に伝わらない場合があります。
取引先が本当に知りたいのは、不良品の心配が減るのか、納期が安定するのか、自社の仕事が楽になるのか、といったことかもしれません。

売る側が伝えたいことと、買う側が知りたいことは、必ずしも同じではないのです。

ですから、最初に考えたいのは広告を増やすことではなく、お客様が価値を理解できるようにすることだと考えられます。

商品を変える前に、見せ方を変えてみる

では、小さな会社には何ができるでしょうか。

ビアードパパのような店舗をつくる必要はありません。
高価な設備を入れたり、動画の制作を外部に頼んだりする必要もありません。

今ある商品やサービスの魅力を、これまでと違う形で伝えるだけでも、試してみる価値は十分にあります。

製造業であれば、完成品の写真だけでなく、加工の途中や品質検査の様子を見せてみる方法があります。
工程をすべて公開する必要はありません。
取引先との守秘義務や技術上の問題がない範囲で、品質を保つために何をしているのかを示すのです。

建設業なら、完成した住宅の写真だけでなく、完成後には見えなくなる下地工事や防水処理を紹介する方法があります。
お客様から見えにくい部分にこそ、その会社の丁寧さが表れているのではないでしょうか。

清掃業なら、お客様の許可を得たうえで作業前と作業後の写真を撮り、どんな困りごとを解決したのかを伝えられます。
飲食店なら料理を作る工程や材料の選び方を、美容室なら仕上がりだけでなく、髪の悩みに合わせて何を工夫したのかを紹介できるでしょう。

ここで、ひとつ架空の例をご紹介します。

従業員8人の金属加工会社を営む山本さん(仮名)は、長年「うちは品質には自信がある」と話していました。
けれども、新しい取引先はなかなか増えません。

あるとき山本さんは、社員さんが毎日欠かさず行っている寸法の確認作業を写真に撮り、その作業の意味を短い文章で添えて、営業資料とホームページに載せてみました。社内では当たり前すぎて、誰も「強み」だと思っていなかった作業です。

すると、問い合わせの電話で「検査の写真を見て安心しました」と言われることが増えてきました。
商品は何も変えていません。
変えたのは、見せ方だけです。

こうした取り組みに共通しているのは、新しい商品を作っていないことです。
すでに行っている仕事の中から、お客様に見せる価値のある部分を探しているのです。

社長や社員さんが当たり前だと思っている仕事が、お客様から見ると大きな魅力である場合は少なくありません。
長年続けてきた品質の確認。毎回欠かさない仕上げの作業。
お客様が困らないように工夫している小さな気配り。
まずは、そうした仕事に目を向けてみてはいかがでしょうか。

「今、買ってみよう」と思う理由をつくる

ビアードパパから学べることは、実演販売だけではありません。
もうひとつ注目したいのが、期間限定商品の活用です。

同社は定番商品を販売しながら、季節に合わせた商品や、他社との共同企画商品なども展開しています。

報道によると、販売数量のうち通常は定番商品が約7割、期間限定商品が約3割を占め、時期によっては限定商品が半分を超えることもあるそうです。
限定商品をきっかけに、それまであまり来店していなかった年代のお客様が訪れた例も紹介されていました。

ここから考えられるのは、お客様には「商品を欲しいと思う理由」だけでなく、「今、そのお店に行く理由」も必要だということです。

いつでも同じ商品が買えるお店だと、お客様は急いで行く必要を感じにくいかもしれません。
季節に合わせた商品や、その時期ならではの提案があれば、お店を思い出してもらうきっかけになります。

ただし、小さな会社が毎月新しい商品を開発する必要はありません。
それでは社長も社員さんも疲れてしまいます。

大切なのは、限定商品を作ること自体ではなく、お客様がもう一度自社を思い出す理由をつくることです。

洋菓子店なら、季節の果物を使った商品を少しだけ販売する。
飲食店なら、普段の人気メニューを旬の食材と組み合わせる。
建設会社なら梅雨の前に雨漏り点検を案内し、空調設備の会社なら夏が来る前にエアコンの点検を提案する。
製造業なら、新商品を作らなくても、今ある加工技術を特定の用途に絞って提案することができます。

どれも、お客様が必要性を感じやすい時期を考えた取り組みです。

一つ注意したいのは、実際にはいつでも提供できるものを、無理に「限定」と見せないことです。
お客様の信頼を損ねかねないからです。
お客様に必要な提案を、必要な時期に届ける。
それだけでも、立派な売れる仕組みづくりになります。

新しい商品で呼び込み、普段の仕事で信頼をつくる

期間限定商品には、お客様の関心を集める働きが期待できます。
しかし、限定商品ばかりに力を入れることには危うさもあります。

次々に新しい商品を考えると、材料の種類が増え、作業の手順が複雑になり、社員さんの負担が重くなります。
さらに、限定商品だけを目当てに来たお客様が、次も買ってくれるとは限りません。

ビアードパパの事例で興味深いのは、話題になる商品を展開しながらも、シュークリーム本来のおいしさを大切にしていることです。

これは、小さな会社ほど意識したい点です。
新しい取り組みは、お客様との出会いを増やすためのもの。
その関係を続けていく力になるのは、普段の商品や仕事の質です。

例えば、ある飲食店の季節限定メニューが評判になり、新しいお客様が来店したとします。
しかし、普段の料理や接客に満足してもらえなければ、次の来店にはつながりにくいでしょう。
反対に、限定メニューをきっかけに来たお客様が、お店の雰囲気や定番料理を気に入れば、普段から通ってもらえるかもしれません。

製造業でも、小さな試作の依頼から取引が始まり、その後の対応や品質が評価されて、継続的な取引につながることがあります。

最初の注文をいただくことと、長く選ばれ続けることは、別の課題です。
新しいお客様を増やす工夫と、今のお客様との関係を深める工夫。
この2つを組み合わせることで、売上は安定に近づいていくのではないでしょうか。

お客様を知るには、一人の話をじっくり聞く

では、何から始めればよいのでしょうか。

私は、新商品を考えるよりも先に、お客様の話を聞くことをおすすめしています。

大がかりな調査は必要ありません。
普段から利用してくださっているお客様の中から一人を選び、話を聞いてみるのです。
例えば、次のようなことを尋ねます。

「最初に、どうして当社を選んでいただいたのですか」
「ご依頼いただく前に、何か心配なことはありましたか」
「実際にご利用いただいて、特に良かったと感じたことは何ですか」

この3つだけでも、想像していなかった答えが返ってくるかもしれません。

技術力が評価されたと思っていたら、実は説明のわかりやすさが決め手だった。
価格の安さで選ばれたと思っていたら、担当者の対応の早さが理由だった。
そうした発見があれば、ホームページや営業資料で伝える内容を見直すことができます。

ただし、一人の答えが、すべてのお客様に当てはまるわけではありません。
一人の話から「こうではないか」という仮説を立て、別のお客様にも確かめていくことが必要です。

従業員10人前後の会社では、社長がお客様と直接話す機会が多いはずです。
これは、大企業にはなかなかまねのできない強みです。
日々の会話の中から、お客様が自社を選んだ本当の理由を探してみてください。

まずは1週間、社長と社員さん1人で始めてみる

ここからは、具体的な進め方を考えてみましょう。

想定するのは、売り方を専門に考える担当者がいない会社です。
担当するのは社長と、現場の社員さん1人。
初期費用は、印刷物や少量の見本などに使う0〜3,000円程度を目安とします。
これは一般的な相場ではなく、新たな設備投資をせずに小さく試すための予算の一例です。

最初の1週間は、合計2時間ほどから始めます。

まず社長が30分ほどかけて、自社の商品やサービスの中から、最も自信のあるものを一つ選びます。
売上が一番大きい商品でも、お客様からよく褒められるサービスでも構いません。

次に、社長か社員さんが、お客様5人ほどに短い質問をします。
一人3分程度で十分です。
選んだ理由や、利用して良かったことを聞きます。

集まった答えをもとに、社員さんと30分ほど話し合います。
中心に置く問いは、「この商品の何を見せたら、お客様に良さが伝わるだろうか」です。

作業工程の写真を3枚撮る。商品の使い方を30秒の動画にする。
店頭に手書きの説明を置く。
何か一つ決まれば十分です。

残りの時間で写真や案内を準備し、実際のお客様に見てもらいます。

ここで大事なのは、最初から完璧を目指さないことです。
見た目のきれいさよりも、お客様に伝わるかどうかを優先しましょう。

1か月後は、売上だけでなくお客様の反応を見る

最初の1週間で試したことを、その後も続けてみます。

店頭で商品の説明を始めたのであれば、同じ曜日や時間帯で、実施した日としなかった日を比べてみます。
その際は、天候や客数、ほかの販促の影響にも気をつける必要があります。
製造業であれば、工程の写真を見せる前と後で、問い合わせの内容が変わったかを確認できます。

見る数字は、最初は少なくて構いません。
新しく問い合わせをくれた人の数。
商品の説明を聞いた人の数。実際に購入した人の数。
そして、その販売でどのくらいの利益が残ったのか。

できれば、お客様の言葉も書き留めておいてください。

「こんな工程があるとは知らなかった」
「これなら安心してお願いできそうです」

こうした声が聞こえてきたら、商品の価値が伝わり始めている可能性があります。

反応は良いのに購入につながらない場合は、価格や注文の方法、あるいは商品そのものが、お客様の希望と合っていないのかもしれません。
反対に、くわしく説明しなくても買ってもらえるなら、説明はもっと簡単にしてもよいでしょう。

数字とお客様の反応、その両方を合わせて考えることが大切です。

3か月後には「また選んでもらえたか」を確かめる

最初の1か月で手応えがあったら、次は再購入や継続取引に目を向けます。

期間限定の商品を買ったお客様が、次に定番商品を買ってくれたか。
初めて相談に来た方が、実際のご依頼につながったか。
小さな試作を頼んでくれた取引先が、その後も注文してくれたか。

小売業や飲食店なら、30日から90日ほどの間に再び来てくれたかどうかを一つの目安にできます。
一方、建設業や製造業のように、購入や発注までの期間が長い業種では、3か月では再注文の結果が出ないこともあります。
その場合は、再度の相談や見積もりの依頼、次の商談につながったかを確認するとよいでしょう。

3か月の取り組みを通じて、反応の良かった方法は残し、負担の大きい方法はやめる。
この繰り返しによって、自社に合った売り方が少しずつ見えてくるはずです。

売上が増えても、利益が減っては意味がない

ここで、税理士として特にお伝えしておきたいことがあります。
それは利益のことです。

ビアードパパについての報道でも、売上が伸びる一方で、原材料費や人件費の上昇によって利益が減った時期があったと紹介されていました。

売上が増えることと、利益が増えることは同じではありません。
少人数の会社にとって、これはとても重要な点です。

例えば、ある飲食店が新しい売り方を試したとします。
ここからの金額は、考え方を説明するための仮の数字で、消費税は考えない税抜きの金額とします。

商品1個の販売価格が1,200円、材料費や包装代など1個ごとにかかる費用が500円だとすると、1個売れるごとに700円が手元に残ります。
新しい取り組みによって、いつもより20個多く売れたのであれば、残る金額は14,000円です。

ただし、そのために印刷物や試食品に3,000円を使い、追加の作業に3時間かかったとします。
作業時間を1時間あたり1,500円で見積もると、人件費に相当する金額は4,500円です。

すると、14,000円から7,500円を差し引いた6,500円が、この取り組みで実際に増えた利益ということになります。

さらに注意したいのは、本当に20個の販売が「上乗せ」で生まれたのかどうかです。
いつも買ってくださるお客様が、別の商品から乗り換えただけであれば、計算は大きく変わります。

小さな会社には、限られた人数しかいません。
忙しくなるだけで利益が残らない売り方を続ければ、社長も社員さんも疲れてしまいます。
毎月の試算表で売上だけでなく粗利益(売上から原価を差し引いた金額)の動きも確かめながら、小さく試して、手応えのあるものから広げていく。
この順番を大切にしていただきたいと思います。

小さな会社だからこそ、できる売り方がある

大企業には、広告の担当者や商品開発の部署があり、多くの予算を使うことができます。
従業員10人前後の会社には、同じことはできません。

しかし、小さな会社には別の強みがあります。
社長がお客様の声を直接聞けること。
社員さんが商品の良さをよく知っていること。
お客様の反応を見て、すぐに説明や売り方を変えられること。

こうした強みは、特別な予算をかけなくても生かすことができます。

ビアードパパの事例から学びたいのは、毎月新商品を作ることでも、実演販売の設備をそろえることでもありません。
お客様が商品の価値を感じる場面をつくり、もう一度利用したいと思う理由を用意することです。
そのヒントは、これまで見過ごしてきた自社の仕事の中にあるかもしれません。

今日、少しだけ社内を見渡してみてください。

社員さんが当たり前のように行っている仕事の中に、お客様に見せたら驚かれることはないでしょうか。
お客様から何度も感謝されているのに、ホームページではまったく触れていないサービスはないでしょうか。

最初の一歩は、新商品を作ることでも、広告を出すことでもありません。
お客様が自社を選んでくれた理由を、一人のお客様に聞いてみることです。

そこから、今まで気づいていなかった自社の魅力が見えてくるかもしれません。
その魅力を伝える方法を一つ考え、小さく試してみる。
まずは、それだけで十分です。

お客様に選ばれる仕組みづくりは、大きな会社だけの特別な活動ではありません。
お客様のことをよく知り、自社の良さをきちんと伝え、また利用したいと思ってもらうこと。
その積み重ねが、小さな会社の売上と利益を少しずつ支えていくのだと、私は考えています。

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