お客様の頭の中で、うちの会社は「何番目」に思い出されているでしょうか
はじめに:がんばっているのに、選ばれている気がしない日
「商品も、サービスも、悪くないはずなのに」
「値段を下げても、広告を出しても、手応えがいまひとつ」
そんなモヤモヤを、胸の中にしまっている社長さんは、少なくないと思います。
私は税理士として、長く中小企業や個人事業の経営者の方とお話をしてきました。
決算書(一年間の成績表のようなものです)を一緒に眺めているとき、ふっと本音がこぼれる瞬間があります。
「がんばってはいるんですけどね」
この一言には、いろいろな思いが詰まっているように感じます。
社長の「経営会議」は、たいてい運転中か、湯船の中か、布団に入ってからの数分間に開かれています。
相談相手がいないまま、一人で考え、一人で決めていく。
その心細さは、経営をされている方なら、きっと思い当たるのではないでしょうか。
今回は、「がんばっているのに選ばれない」というモヤモヤを、少し違う角度から見てみたいと思います。
手がかりは、お客様の頭の中にある「〜といえば」の順番です。
難しい理論ではありません。
今日から試せる小さな問いかけも、あとでご紹介します。
お客様の頭の中には「〜といえば」の順番表がある
たとえば、こう聞かれたらどうでしょうか。
「この街で、おいしいラーメン屋さんといえば?」
「引っ越しをするなら、まず電話するのは?」
すぐに思い浮かぶ名前は、一つか二つ。
がんばって思い出しても、三つか四つで止まるのではないでしょうか。
お客様の頭の中には、商品やサービスの種類ごとに、「〜といえば」の順番表のようなものがあります。
一番上の名前が、最初に思い出されます。次に二番目、三番目。買うときには、この順番表を上から順にたどっていきます。
ここで大切なのは、この順番表は、品質の良さだけでは決まらない、という点です。
順番を決めるのは、「誰が先にお客様の頭に入ったか」「どれだけ印象に残ったか」であることが多いからです。
「うちのほうが腕はいいのに」と思っても、順番表に名前がなければ、お客様の候補にすら入りません。
もう一つ知っておきたいのは、人が一度に思い出せる名前の数には、限りがあるということです。
心理学では、七つ前後といわれています。
実際に身近な分野で挙げてもらうと、多くの方が三つ、四つで手が止まります。
しかも、めったに買わないものや、あまり楽しくない買い物ほど、思い出される名前は少なくなります。
タイヤの交換や、保険の見直しを思い浮かべていただくと、イメージしやすいかもしれません。
さらに、順番が一つ違うだけで、お客様の数が二倍、三倍と開きやすいとも言われています。
あくまで目安ですが、上の席が有利だという感覚は、多くの方が持っているのではないでしょうか。
二番手だと正直に伝えたら、お客様が動いた話
アメリカのレンタカー業界に、よく知られたお話があります。
業界には、お客様の頭の中で一番上に座っている会社がありました。
二番手の会社は、長いあいだ赤字が続いていました。
広告では「業界で最高のサービス」と、力強く訴えていました。
けれど、お客様は首をかしげました。
「一番でもないのに、どうして最高だと言えるのだろう」と。
そこで二番手の会社は、伝え方を変えました。
「うちは業界の二番手です。だからこそ、一生懸命がんばります」
自分の位置を、正直に認めたのです。
すると、赤字続きだった会社が、大きな黒字に転じたと伝えられています。
ところが、その会社が別の会社に買われたあと、広告は「これから一番になります」という内容に変わりました。
今度は、お客様の心が動きませんでした。
「あの会社が一番になるとは思えない」と感じたお客様は、結局、一番手の会社に電話をかけたそうです。
この話から、私は二つのことを感じます。
一つ目は、効いたのは「がんばります」という言葉そのものではなく、一番手の隣に並べて思い出してもらえたことだった、という点です。
「あの大きな会社の次の選択肢」という席が、お客様の頭の中にできたのだと考えられます。
二つ目は、お客様が信じられる範囲を超えた言葉は、かえって距離を生んでしまう、という点です。
分かっていても、なぜ社長は迷うのか
とはいえ、これを自分の会社に当てはめるのは、簡単ではありません。
判断が止まるのには、理由があると思います。
一つ目は、「うちは一番だ」と言いたい気持ちがあることです。
長年続けてきた自負があります。
従業員の前で、弱気なことは言いたくありません。
先代から受け継いだ看板なら、なおさらです。
自分の位置を認めることが、負けを認めるようで、胸がちくりとする。
その気持ちは、とても自然なものではないでしょうか。
二つ目は、がんばれば伝わる、と信じたい気持ちです。
中小企業の社長さんには、まじめな方が多いと感じます。
品質を上げる。
接客を丁寧にする。
値引きもする。
どれも大切なことです。
ただ、それでお客様の頭の中の順番が変わるかどうかは、別の問題です。
努力が足りないのではなく、努力の向かう先が、お客様の頭の中とずれているだけなのかもしれません。
三つ目は、立ち止まって考える時間がないことです。
朝は現場に立ち、昼は電話やお客様への対応に追われ、夜になってようやく請求書に向かう。
そんな毎日の中で、「お客様の頭の中をのぞいてみよう」と思う余裕は、なかなか生まれません。
目の前の売上や、手元のお金のやりくり(資金繰り)のほうが、どうしても先に気になってしまいます。
四つ目は、お客様の頭の中が、目に見えないことです。
自分の会社が何番目に思い出されているのか、誰も教えてくれません。
だから社長は、「うちは、このくらいだろう」という自分の感覚で判断するしかありません。
判断が止まってしまう大きな理由は、この「見えなさ」にあるように思います。
見えないものを、見えるようにする。
まずは、そこから始めてみるのも一つです。
湖のそばの小さな宿の場合
ここで、架空のお話を一つご紹介します。
湖のほとりに、客室十室の小さな宿があります。
社長は内田さん(仮名・四十代後半)。
三年前に、先代のお父さんから宿を継ぎました。
調理場、フロント、客室係、パートさんを合わせて、従業員は十名です。
湖畔には、大きなホテルが二軒あります。
内田さんの宿のホームページには、「心のこもった最高のおもてなし」「湖畔で一番の宿を目指します」と書かれていました。
予約サイトの口コミ点数も、悪くありません。
それなのに、平日の部屋が埋まらないのです。
「設備を新しくしたほうがいいのか」「料金を下げようか」。
内田さんは、夜な夜な考えていました。
そんなある日。
電話予約を受けたフロントの女性が、ぽつりと言いました。
「社長、最近『大きなホテルが満室だったので』とおっしゃる方が多いんです」
内田さんは、はっとしました。
うちは「第一候補」ではなく、「第一候補が埋まったときの次の候補」になっているのかもしれない。
そこで、チェックアウトのときに、二十組のお客様に聞いてみました。
「この湖のまわりで泊まるとしたら、どんな宿が思い浮かびましたか?」
返ってきたのは、大きなホテルの名前ばかりでした。
内田さんの宿は、「そういえば、ここもありましたね」という程度です。
正直、ショックでした。
けれど同時に、こうも思ったそうです。
「私は今まで、姿の見えない相手と戦っていたんだな」
そこから、内田さんは三つのことを変えました。
一つ目は、「湖畔で一番の宿を目指します」という言葉をやめたことです。
かわりに、こう書きました。
「大きなホテルのにぎやかさが、少し苦手な方へ。小さな宿ですが、そのぶん、お客様のお名前とお好みを覚えてお迎えします」
お客様の頭の中で上の席にいる大きなホテルを、隠さずに、比べ方の物差しとして使ったのです。
二つ目は、言葉を行動で裏づけたことです。
前回のお泊まりのメモを、次のご予約のときに客室係が読み返し、お好きなお茶や、苦手な食材をお迎えの準備に生かしました。
「小さいからこそ」を、言葉だけで終わらせなかったわけです。
三つ目は、平日限定の「静かな二人旅プラン」をつくったことです。
ここで内田さんは、慎重でした。
「静かな宿」という切り口が、小さすぎないかを確かめたのです。
予約サイトで「静か」「大人」「二人旅」といった言葉で探す人がどれくらいいるかを見て、平日の部屋を埋めるには十分な広さがある、と判断しました。
半年後、平日の稼働率(部屋が埋まっている割合)は、三割台から五割近くまで上がりました。
二度目のお客様も増え、「大きなホテルで一泊したあと、二泊目にここへ」という使い方まで出てきたそうです。
変わったのは、お客様だけではありません。
客室係の方が「私たちのやっていることが、この宿の強みだったんですね」と話すようになり、現場の表情が少し明るくなったそうです。
内田さんは、こう話しています。
「順位を認めたら、かえって気が楽になりました。もう背伸びしなくていい。うちの席に、ちゃんと座ればいいんですね」
帳簿には出てこない、お客様の「選んだ理由」
税理士として月々の資料を拝見していると、気づくことがあります。
予約サイトや広告に使ったお金は、毎月きちんと帳簿に出てきます。
一円単位で、正確です。
ところが、社長に「この広告を見て来られたお客様は、何組くらいでしょうか」とお尋ねすると、少し考えて、「……はっきりとは分からないんですよ」と答えられることが、少なくありません。
使ったお金は、正確に分かる。
けれど、そのお金がお客様の頭の中でどんな順番を作ったのかは、どの帳簿にも載りません。
だからこそ、社長ご自身の耳で聞くことが、いちばん確かな方法なのだと思います。
「うちを選ぶとき、ほかにどこを考えましたか」
この一言を聞くだけで、数字の見え方が変わってきます。
広告費が「高いか、安いか」という話から、「誰の頭の中に、何を届けるためのお金なのか」という話に変わるからです。
明日から試せる、四つの小さな一歩
では、具体的に何から始めればよいでしょうか。大きな準備はいりません。
一歩目:お客様十人に「〜といえば?」を聞いてみる
会計のときや、電話を切る前に、一言だけ。
「この辺りで〇〇をお願いするなら、どんなお店が思い浮かびますか?」
自分の名前が出なくても、がっかりしなくて大丈夫です。
今の位置が分かったこと自体が、大きな一歩です。
ほかにどんな名前が出たかも、メモしておくと、あとで役に立ちます。
二歩目:背伸びの言葉を一つだけ減らす
「地域で一番」「最高の」「どこにも負けない」。
こうした言葉を、ホームページやチラシから一つだけ外してみます。
かわりに、お客様が確かめられる事実を書きます。
「創業から〇年、〇〇件の実績」など、数字や具体的な行動のほうが、信じてもらいやすいと考えられます。
三歩目:上にいる相手と並べて語ってみる
強い相手を避けて通るのではなく、「あそこは大きい。うちは小さい。だから、こういうことができます」と、比べ方を先に示します。
お客様が、うちを思い出す手がかりになります。
四歩目:別の「〜といえば」に乗れないか考えてみる
今の分野で上位に入るのが難しいときは、お客様の別の困りごとから探す方法もあります。
世の中には、こんな例もあります。
あるアメリカの飲料メーカーは、レモンとライムの味の炭酸飲料では一番でしたが、その分野そのものが小さいことが悩みでした。
そこで「コーラではない、もう一つの選択肢」という言い方で、大きな分野の中に席をつくりました。
すると、その大きな分野で三番目に入るところまで売上を伸ばしたと言われています。
ただし、注意点が二つあります。
あまりに小さな分野だと、そもそもお客様が足りなくなるおそれがあります。
「その言葉で探す人は、どれくらいいそうか」を先に確かめておくと安心です。
もう一つは、逆の場合もあることです。
小さな分野で一番になるより、大きな分野の三番目くらいにいるほうが、お客様が多い、ということもあります。
どちらが自分の会社に合うかは、一歩目で集めた声が、ヒントをくれるはずです。

まとめ:順位を知ることは、負けを認めることではありません
お客様の頭の中には、「〜といえば」の順番表があります。
その順番は、品質だけでは決まらず、目に見えません。だから社長は迷うのだと思います。
けれど、見えないものは、聞けば見えてきます。
レンタカーの話が教えてくれたのは、自分の位置を認めることは、負けではなく、お客様に信じてもらえる出発点になるということでした。
湖のそばの宿の内田さんのお話でも、「もう背伸びしなくていい」と気づいた瞬間から、言葉も行動も、ぶれなくなっていきました。
順番表は、一日では変わりません。
けれど、言葉を変え、行動で裏づけ、数か月続けていけば、少しずつ、お客様の頭の中に自分の席ができていくのではないでしょうか。
まずは、次にお客様と話すとき、一つだけ聞いてみてください。
「この辺りで、〇〇といえば、どこが思い浮かびますか?」
その答えの中に、次の一手が、きっと隠れています。
がんばってきた社長さんだからこそ、その努力の向きを少しだけ整えれば、もっと伝わるはずです。

コメント Comments
コメント一覧
コメントはありません。
トラックバックURL
https://wakaruto.jp/%e5%a4%a7%e3%81%8d%e3%81%aa%e7%ab%b6%e5%90%88%e3%81%ae%e9%9a%a3%e3%81%ab%e3%80%81%e8%87%aa%e5%88%86%e3%81%ae%e5%b8%ad%e3%82%92%e3%81%a4%e3%81%8f%e3%82%8b%e3%80%82%e4%b8%ad%e5%b0%8f%e4%bc%81%e6%a5%ad/trackback/