利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「売り込まなくても売れる」状態をつくる ─ マーケティングの本質と人との出会い方

「売り込まなくても売れる」状態をつくる ─ マーケティングの本質と人との出会い方

売り込まずに売れる状態をつくる

はじめに:なぜ「売り込み」はうまくいかないのか

「もっと営業を頑張らなければ」「なんとかして商品を買ってもらわなければ」─そんなふうに力んでしまうこと、ありませんか?

しかし、不思議なことに、一生懸命売り込もうとすればするほど、お客様は引いてしまうものです。
逆に、特に押し売りをしていないのに、なぜか自然とお客様が集まってくるお店や会社もあります。

この違いはどこから生まれるのでしょうか。

「マネジメントの父」と呼ばれる経営学者ピーター・ドラッカーは、こう述べています。
「マーケティングの理想は、販売を不要にすることである」

一見すると矛盾しているように聞こえるかもしれません。
商品を売るための活動が「マーケティング」なのに、「販売を不要にする」とはどういうことなのでしょうか。

これは、「無理な売り込みをしなくても、お客様のほうから『これが欲しい』と手を伸ばしてくれる状態をつくること」こそがマーケティングの本質だ、という意味です。

つまり、お客様が商品やサービスを目にしたとき、「ああ、まさにこれを探していたんだ」と感じてもらえれば、こちらから強く勧めなくても、自然と財布を開いてくださるのです。

背景:お客様の「欲しい」を知ることの難しさ

では、どうすればそのような状態をつくれるのでしょうか。

答えはシンプルです。お客様が何を欲しがっているのか、何に困っているのか、何に価値を感じるのかを深く理解することです。

しかし、これが言うほど簡単ではありません。

たとえば、あなたが工務店を経営しているとしましょう。
お客様は「家を建てたい」と言ってやってきます。
でも、本当に欲しいのは「家」という箱ではありません。
「家族と安心して暮らせる場所」「子どもがのびのび育つ環境」「老後も快適に過ごせる住まい」など、その奥にある願いや想いがあるはずです。

この「表面的なニーズ」と「本当の願い」の違いを理解できるかどうかが、ビジネスの成否を分けます。

そして、お客様の本当の願いを知るためには、まず人と出会うことが第一歩になります。
インターネットやSNSが発達した現代でも、この基本は変わりません。

ただ会えばいいわけではない:「出会いの質」を高める

ここで大切なのは、「とにかくたくさんの人に会えばいい」というわけではないということです。

交流会に参加して名刺を100枚配っても、その後に何も生まれないことはよくあります。
一方で、たった一人との出会いが、長年のビジネスパートナーになることもあります。

この違いは何でしょうか。

それは、出会った瞬間にどんな印象を与えられるか、そして「この人と一緒に仕事をしてみたい」と思ってもらえるかどうかにかかっています。

人は、初対面の相手を数秒から数分で判断すると言われています。
その短い時間で、信頼できそうか、誠実そうか、自分の話を聞いてくれそうか─そういった印象が形成されるのです。

事例:町の電器屋さんが大手量販店に負けなかった理由

ある地方都市に、従業員5名ほどの小さな電器店がありました。

周囲には大手の家電量販店が次々とオープンし、価格では到底太刀打ちできません。
普通に考えれば、廃業に追い込まれてもおかしくない状況でした。

しかし、この電器店は今も元気に営業を続けています。
それどころか、地域のお客様から絶大な信頼を得ています。

その秘密は、店主の「出会い方」にありました。

店主は、新しいお客様が来店されると、まず商品の説明をするのではなく、お客様の暮らしぶりについて丁寧に聞くことから始めました。

「テレビをお探しなんですね。今お使いのテレビで何かお困りのことはありますか?」
「リビングはどれくらいの広さですか?窓の位置は?」
「ご家族で一緒にご覧になることが多いですか?」

こうした会話を重ねるうちに、お客様は「この人は、自分のことを本当に考えてくれている」と感じるようになります。

そして、店主がおすすめする商品は、必ずしも高額なものではありませんでした。
むしろ、「お客様のお宅なら、このくらいのサイズで十分ですよ」と、あえて安い商品を勧めることもありました。

結果として、お客様は「この店で買ってよかった」と感じ、次に家電が必要になったときも、また相談に来るようになったのです。

さらに面白いのは、このお店では「売り込み」をほとんどしていないにもかかわらず、お客様のほうから「エアコンもお願いしたい」「うちの息子が一人暮らしを始めるので、家電一式見繕ってほしい」と相談してくるようになったことです。

まさに、ドラッカーが言う「販売を不要にする」状態が実現していたのです。

なぜこの電器店はうまくいったのか

この電器店の成功には、いくつかのポイントがあります。

まず「聞く」ことから始めた

商品を売ろうとする前に、お客様の話に耳を傾けました。
これにより、お客様が本当に求めているものを理解できただけでなく、「この人は信頼できる」という印象を与えることができました。

短期的な利益より、長期的な関係を優先した

高い商品を売りつけるのではなく、お客様にとって本当に必要なものを提案しました。
一回の売上は小さくなるかもしれませんが、その後何度もリピートしてもらえる関係を築くことができました。

「また会いたい」と思われる存在になった

商品知識だけでなく、お客様の暮らしに寄り添う姿勢が、「困ったときはあの店に相談しよう」という気持ちにつながりました。

中小企業だからこそできる「出会いの質」の勝負

大企業は、膨大な広告費をかけて多くの人に商品を知ってもらうことができます。
価格競争でも、スケールメリットを活かして有利に戦えます。

しかし、一人ひとりのお客様と深く向き合うことにおいては、中小企業や個人事業のほうが圧倒的に有利です。

大企業の店員は、一日に何十人ものお客様を相手にしなければなりません。
一人ひとりの事情を細かく聞いている余裕はありません。

でも、皆さんのような規模のビジネスであれば、お客様一人ひとりの顔と名前を覚え、その人の状況や好みを把握したうえで、最適な提案をすることができます。

これは、大企業にはなかなか真似できない強みです。

まとめ:売り込むのではなく、「選ばれる存在」になる

今回お伝えしたかったことを整理すると、次のようになります。

まず、マーケティングの本質は、「売り込む」ことではなく、お客様のほうから「これが欲しい」と思ってもらえる状態をつくることです。

そのためには、お客様が何を求めているのか、何に困っているのかを深く理解する必要があります。
そして、その理解は、人と出会い、話を聞くことから始まります。

ただし、闇雲に人に会えばいいわけではありません。
出会いの「質」が大切です。
相手に「この人と仕事をしてみたい」「この人に相談したい」と思ってもらえるような印象を与えられるかどうか。
それが、その後のビジネスを大きく左右します。

無理に売り込まなくても、お客様のほうから相談に来てくださる。そんな状態を目指して、まずは目の前の一人のお客様の話に、じっくり耳を傾けることから始めてみてはいかがでしょうか。

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