お客様が本当に大切にしていることを、想像で決めていませんか?
「いいものを作っているのに…」というモヤモヤ
商品には自信がある。
仕事も丁寧にしている。
それなのに、売上がなかなか伸びない。
長く付き合ってくれたお客様が、いつの間にか離れていく。
そんな手応えのなさを感じたことはありませんか。
そういうとき、社長の頭にはいくつもの「なぜ」が浮かびます。
値段が高いのか。
種類が足りないのか。
もっと新しいことをしないと、忘れられてしまうのか。
そして多くの社長は、その答えを一人で考え、一人で決めます。
夜、静かになった事務所で。あるいは、運転中の車の中で。
思い切って新しいことを始める。
けれど、思ったほど結果が出ない。
時間もお金も使ったのに、迷いだけが深くなる。
毎日お客様と顔を合わせているのに、腰を据えて話を聞いたのは、いつだったか思い出せない。
従業員10名前後の会社の社長には、そんな毎日が多いのではないでしょうか。
私は税理士として、長年、中小企業の社長さんのお話を聞いてきました。
その中で感じるのは、判断が止まってしまう場面の多くが、「お客様のことが分からない」からではなく、「分かっているつもりで、確かめていない」ところにある、ということです。
今回は、この「確かめる」ことについてお話しします。
難しい理論ではなく、明日から試せる小さな行動を中心にお伝えします。
お客様が何を大切にしているかは、お客様にしか分かりません
経営の世界で有名なドラッカーという学者は、組織が自分に問い続けるべきことの一つとして、「お客様にとっての価値は何か」を挙げました。
ここでいう「価値」とは、かんたんに言えば、「お客様が、お金や時間を使ってでも手に入れたいと思うもの」のことです。
この学者は、こう指摘しています。
その答えは、思っている以上に複雑で、お客様ご本人にしか答えられない。
だから、頭の中で想像して済ませず、必ず本人から直接聞くこと、と。
お客様に聞かずに手を打つのは、行き先を聞かないまま、タクシーを走らせるようなものかもしれません。
同じお弁当を買うにしても、味を大切にする人もいれば、届く時間を大切にする人もいます。
もう一つ、心に留めておきたい考え方があります。
お客様の行動には、お客様なりの理屈がある、ということです。
注文が減った。来店の間隔があいた。
別の店に行った。社長から見れば残念な行動でも、お客様には、そうする事情があったはずです。
「どうして分かってくれないのか」と考える前に、「どんな事情があったのだろう」と考えてみる。
そこに立てるかどうかで、次の一手は変わってくると考えられます。
なお、お客様の言うことを何でも聞き入れましょう、という話ではありません。
行動の裏にある事情を、まず知りましょう、という話です。
10年前の卒業生に、電話をかけ続けた学者
この学者自身、毎年欠かさず続けていることがあるそうです。
10年前に大学院を卒業した人たち、50〜60人に、自分で電話をかけるのです。
聞くことは、たとえば次のようなことです。
・学んだことのうち、10年たった今も役に立っているのは何か
・どうすれば、もっと良くなるか
・私たちが、やめたほうがよいことは何か
卒業して10年たった人に、ここまで率直に聞く。
しかも「やめたほうがよいこと」まで尋ねる。
ここに大きな学びがあると感じます。
集めた声は、大学院の運営にとても役立っているそうです。
この学者は、こうも言います。
組織は、自信や使命感が強いほど、自分たちの決まりごとを守ること自体が目的になりやすい。
「お客様に価値を届けられているか」より、「決まりどおりにやれているか」を気にしてしまう。
その結果、成果が上がらないだけでなく、せっかくの志まで薄れてしまう、というのです。
小さな会社でも、心当たりはないでしょうか。
「うちは昔からこのやり方だ」「これがうちのこだわりだ」。
こだわりは、会社の宝物です。ただ、それがお客様のためのこだわりなのか、自分たちが安心するためのこだわりなのか。
ときどき確かめてみる価値はあると思います。
「食事と寝る場所」だと思っていたら、本当の望みは別にあった
生活に困っている人のための宿泊施設の例も紹介されています。
運営する側は、利用する人にとっての価値は、温かい食事と安全な寝る場所だと考えていました。
ところが、運営に関わる人たちが利用者に直接話を聞くと、様子が違いました。
食事と寝る場所は、確かに喜ばれていました。
けれど本当の願いは、今の暮らしから抜け出すことだったのです。
求められていたのは、生活を立て直すための「足場」としての場所でした。
そこで施設は、それまでの前提を手放し、ルールを大きく変えます。
・「いつ出て行けと言われるか」という不安をなくし、安心して過ごせる期間を長くした
・生活の立て直しについて、相談にのるようにした
・利用する人にも、自分の生活を立て直すことに、自分から取り組んでもらうようにした
その結果、施設が届ける価値は大きくなり、成果も上がったそうです。
この例から、二つのことが見えてきます。
一つは、「良いことをしているつもり」のときほど、ズレに気づきにくいということです。
善意があるほど、確かめるのを忘れてしまいます。
もう一つは、お客様の望みを知ることは、言いなりになることではない、ということです。
この施設は、利用する人に新しい役割をお願いすることで、価値を高めました。聞くことは、こちらの側の見直しにもつながります。
なぜ、社長はお客様に聞けないのでしょうか
「聞くことが大事なのは分かる。でも、なかなか動けない」と感じた方もいるかもしれません。
社長さんたちと話してきて、判断が止まるところには、いくつか共通した理由があるように思います。
後回しになる。 緊急ではないので、いつも「あとで」になりがちです。
悪い話を聞くのがこわい。 長年やってきた自負があるほど、「実は不満があった」と言われるのはつらいものです。
今さら聞くのは失礼な気がする。 付き合いが長いほど、改まって聞きにくくなります。
どれも、会社を真剣に思うからこその迷いです。責める必要はまったくありません。
ただ、お客様の側は、意外と「聞いてもらえたこと」を喜んでくださいます。
「うちのことを気にかけてくれている」と感じるからです。
聞くこと自体が、お客様との関係を深める行動になるのです。
お弁当屋さんの社長が、電話をかけてみた
ここで、ある会社の例をご紹介します。いろいろな会社のお話を重ねて作った、架空の事例です。
山口さん(仮名・50代)は、地域の工場や建設会社に、昼のお弁当を届ける会社を営んでいます。
調理担当、配達担当、盛り付けや事務を担うパートさんを合わせて、社長を含め10名です。
山口さんは、「うちの強みは、手作りのおいしさと栄養のバランスだ」と考えていました。
飽きられないよう、おかずを5品から7品に増やし、月替わりのメニューも始めました。
ところが、仕込みの手間も材料費も増え、配達が遅れる日も出てきました。
そんな中、長年のお得意様だった建設会社の注文が、じわじわ減っていることに気づきます。
「味に飽きられたのか。値上げが響いたのか」。
山口さんは、さらにメニューを工夫しようとしました。
そんなとき、事務のパートの長谷川さん(仮名)が、ぽつりと言いました。
「社長、一度、直接聞いてみたらどうでしょう」
「今さら聞きにくいな」と思いつつ、山口さんは、今も注文してくれている5社と、注文が減った3社の担当者に電話をかけました。
お願いしたのは5分だけ。
質問は3つに絞りました。
・今、うちのお弁当を選んでくださる一番の理由は何ですか(減らした理由は何でしたか)
・注文から受け取りまでで、一番面倒に感じることは何ですか
・もしうちがなくなったら、何が一番困りますか
聞こえてきたのは、想像もしていなかった声でした。
建設会社の総務担当の杉山さん(仮名)は、こう話してくれました。
味は、ちゃんとおいしいですよ。
それは前提です。
困るのは、雨で現場が休みになる日です。
前日の午後3時までに人数を決めるので、当日の朝に変わると、お弁当が余ってしまう。
そのたびに、社内で引き取ってくれる人を探して頭を下げているんです。
別の工場の担当者は、こう話しました。
届く時間に幅があると、配る担当が待っていないといけない。
10分単位で来てくれると助かります。
実際に食べる現場の人にも少し聞くと、「おかずの種類より、ごはんの量を選べるほうがうれしい」という声もありました。
山口さんは、はっとしました。
お弁当を食べる人と、注文する人は、別の人です。
食べる人は、量や食べやすさを気にする。
注文する総務の担当者は、「昼ごはんの心配を、丸ごと任せられること」に価値を感じている。
自分が売っていたのは、お弁当というより、「安心して任せられる昼ごはん」だったのかもしれない。
山口さんは、そう気づいたのです。
山口さんが決めたことは、次の5つです。
・おかずを7品から5品に戻し、新メニューを足すのは、いったんやめる
・人数の変更は、当日朝8時半まで、1割までなら受ける
・配達は「11時40分〜50分の間」と約束し、遅れそうなら出発前に電話する
・ごはんの量を、大・普通・小から選べるようにする
・請求書は月に1枚にまとめ、日ごとの内訳をつける
もちろん、最初からすべてがうまくいったわけではありません。
当日朝の変更に備えて、仕込みに余裕を持たせる工夫が必要でした。
「1割まで」という線を引いたのも、山口さんの判断です。
お客様の声をすべて受け入れるのではなく、会社としてできる範囲を考えて決めたのです。
半年ほどたつと、注文が減っていた3社のうち2社が元の量に戻り、紹介で1社が増えました。
おかずを5品に戻したことで、仕込みの時間も減り、社員の表情にも余裕が出てきたそうです。
帳簿の中にも、お客様の声はひっそり隠れています
この事例には、税理士の目から見て、もう一つ触れておきたいことがあります。
山口さんの会社では、この建設会社への請求書が、毎月のように作り直しになっていました。
前日に決めた人数と、実際に食べた人数がずれるたびに、金額を訂正していたからです。
帳簿の上では、返品や数量違いを打ち消すための「マイナスの訂正伝票」として残ります。
1件に15分かかるとして、月に12件なら3時間です。
この3時間は、帳簿のどこにも「請求書の作り直し時間」とは載りません。
人件費の中に、静かに溶け込んでいます。
そして同じ手間が、受け取る側の総務担当者にも発生しています。
私はこれまで、帳簿を一緒に見ながら「この取引先だけ、訂正が多いですね」とお伝えして、社長さんが「そういえば」と話し始める場面を、何度も見てきました。
訂正や値引き、入金の遅れといった小さな記録は、お客様が口にしていない困りごとのサインであることが少なくありません。
聞くことに気が重いときは、まず伝票の束から探してみるのも一つです。
「この取引先だけ、なぜか手間がかかる」という気づきが、聞き取りの最初の質問になります。
今日から始める、お客様に聞く4つのステップ
「自分の会社でもやってみたい」と思われた方のために、進め方を整理します。
ステップ1 聞く相手を8〜10人決める
今も付き合いのあるお客様を5人ほど。注文が減ったお客様を2〜3人。
たまにしか来ないお客様を1〜2人。
従業員10名前後の会社なら、10人の声でも十分な手がかりになります。
買う人と使う人が別なら、両方に聞いてみてください。
ステップ2 質問は3つか4つに絞る
たとえば、次のような質問です。
・うちを選んでくださる一番の理由は何ですか
・面倒に感じることは、ありませんか
・もしうちがなくなったら、何が困りますか
・やめたほうがよいと思うことは、ありますか
ステップ3 聞くときは、説明せず、反論せず
一番難しいのは、ここかもしれません。
「それにはこういう事情が」と言いたくなる気持ちをぐっとこらえて、相手の言葉のまま、メモをとります。
うまく聞けなければ、「たとえば、どんなときですか」と一言添えてみてください。
社長ご自身が聞きにくければ、お客様と話しやすい従業員さんにお願いするのも一つです。
ステップ4 3回出てきた声から、1つだけ試す
聞いた声を付箋に書き、似たものを集めます。
同じような声が3回以上出てきたものが、目安として、お客様にとって大事なところです。
その中から、1つだけ、1か月だけ試してみる。
そして「いただいたお声で、こう変えました」と、お客様にお返しします。
これが、次の「聞かせてください」につながります。
足すことだけでなく、やめることも候補に入れてみてください。
山口さんが品数を戻したように、減らすことで、お客様にも会社にも余裕が生まれることがあります。

まとめ:聞くことから、次の一手が見えてきます
・お客様が大切にしていることは、想像ではなく、直接聞いて知る
・お客様の行動には、その方なりの理由がある。まず事情を知る
・提供しているものと、求められているものは、ズレていることがある
・買う人と使う人が別なら、両方に聞く
・聞いた声は、すべてに応えず、大事なものを選んで1つずつ試す
社長の迷いは、会社を大切に思う気持ちの裏返しです。
その迷いを、一人で抱え込まなくてもよいのではないでしょうか。
答えは、社長の頭の中ではなく、お客様の言葉の中にあることが多いのです。
まずは今週、お客様お一人に、5分だけ電話をしてみるところから始めてみてはいかがでしょうか。
「最近、うちの何が一番お役に立っていますか」。
その一言が、次の一手のヒントになるかもしれません。

コメント Comments
コメント一覧
コメントはありません。
トラックバックURL
https://wakaruto.jp/%e3%81%8a%e5%bc%81%e5%bd%93%e5%b1%8b%e3%81%95%e3%82%93%e3%81%ae%e7%a4%be%e9%95%b7%e3%81%8c5%e5%88%86%e3%81%ae%e9%9b%bb%e8%a9%b1%e3%81%a7%e6%b0%97%e3%81%a5%e3%81%84%e3%81%9f%e3%80%81%e3%80%8c%e5%a3%b2/trackback/