利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

その知識、ちゃんとお客様に届いていますか?

その知識、ちゃんとお客様に届いていますか?

黙っていても、伝わらない ― 専門知識を「価値」に変える一歩

日々、真面目にお仕事に向き合っていらっしゃる経営者ほど、実は「伝えること」を後回しにしてしまいがちです。
良い仕事さえしていれば、いつか分かってもらえるはずだと、心のどこかで思っているからかもしれません。
今日は、その「伝える」ということについて、少し一緒に考えてみたいと思います。

もし、ご自宅の電気の調子が少しおかしいと感じたら、あなたはどちらの電気工事店に相談したいと思うでしょうか。

一方は、日頃から技術の勉強を欠かさず、最新の配線知識にも詳しい会社です。
けれども、その知識をお客様に説明することはほとんどありません。
「専門的な話をしても、お客様にはどうせ分からないだろう」と考え、必要な作業だけを黙々とこなして帰っていきます。

もう一方も、同じように技術の研鑽を怠らない会社です。
ただ、こちらは「なぜこの部品を使うのか」「なぜこの工事が必要なのか」を、専門知識のない方にもわかる言葉で、丁寧に説明してくれます。

おそらく多くの方が、後者を選びたくなるのではないでしょうか。
二つの会社の技術力は、実はそれほど変わらないかもしれません。
それでも私たちの安心感は、大きく変わってくるはずです。

これは、電気工事店に限った話ではありません。
税理士、美容室、飲食店、工務店、小売店…どのような業種であっても、同じことが言えるのではないかと私は考えています。

知っているだけでは、お客様には届かない

中小企業の経営者の方とお話ししていると、「うちの技術には自信があります」「良い商品を作っている自負はあります」という声を、よくお聞きします。
実際、その通りなのだろうと思います。

けれども、ここで少し立ち止まって考えていただきたいのです。
その自信や専門知識を、お客様は知っているでしょうか。

多くの場合、答えは「いいえ」です。
経営者ご自身の頭の中にはしっかりとある知識や想いも、言葉にして外に出さなければ、お客様には届きません。
これは、謙虚さとはまた別の話です。
むしろ、知っていることを伝えないままでいることは、お客様が本来受け取れるはずだった安心や納得の機会を、そのままにしてしまっていることになるのではないでしょうか。

知識や技術そのものは、いわば水面下にある氷山の本体のようなものです。
水面から出ている一角だけを見て、お客様は「良いお店かどうか」を判断せざるを得ません。
水面下にどれだけ立派な本体があっても、見えなければ、無いのと同じように扱われてしまうのです。
少し厳しい言い方かもしれませんが、これが現実に近いのではないかと思います。

それでも、頭では分かっていても、なかなか行動に移せない。
それが、多くの経営者の方に共通する悩みなのではないでしょうか。

なぜ、私たちは「伝える」ことをためらってしまうのか

では、なぜ多くの経営者が、自分の専門知識や見解を発信することをためらってしまうのでしょうか。
悩みの背景には、いくつかの理由が重なっているように思います。

一つには、「専門的な話をしても、どうせ伝わらないだろう」という思い込みがあります。
難しい話をかみ砕いて説明するのは、たしかに手間のかかることです。
けれども、その手間をかける時間こそが、お客様との信頼関係を育てる、大切な時間になるのではないでしょうか。

もう一つには、「わざわざ発信するほどのことではない」という謙遜があります。
経営者ご自身にとっては当たり前すぎる知識であっても、お客様にとっては初めて聞く、とても価値のある情報かもしれません。
この「自分にとっての当たり前」と「相手にとっての当たり前」のずれに気づきにくいところに、判断が止まってしまう理由があるように思います。

さらにもう一つ、日本の商売の文化には、「良いものを作っていれば、いつか誰かが分かってくれる」という、職人的な美意識があるように感じます。
この美意識は、決して間違ってはいません。
ただ、情報があふれる今の時代においては、黙って待っているだけでは、その「誰か」に出会うまでの時間が、以前よりずっと長くかかってしまうように思うのです。

こうして考えてみると、経営者の判断が止まってしまうのは、決してやる気がないからでも、力不足だからでもありません。
むしろ、まじめに仕事と向き合っているからこそ、「軽々しく発信してよいものか」と、立ち止まってしまうのではないでしょうか。
その慎重さは、本来とても大切な資質だと思います。
ただ、その慎重さが、一歩を踏み出す機会そのものを遠ざけてしまうこともある、ということも、心のどこかに置いていただけたらと思います。

では、実際に一歩を踏み出した経営者は、どのような変化を経験するのでしょうか。
一つの事例を通して見てみたいと思います。

小さな家具工房の変化

一つ、事例をご紹介します。
浜松市内で小さな家具工房を営むAさんは、木材の性質やお手入れの方法について、大変豊富な知識をお持ちでした。
けれども、長らくそれをお客様に伝えることはなく、ただ黙々と良い家具を作り続けていらっしゃいました。

Aさんご自身も、以前は「職人は口数が少ないくらいがちょうどいい」と考えていたそうです。
作った家具そのものが語ってくれる、余計な説明はかえって野暮ではないか、という思いもあったといいます。

あるとき、思い切って「この木は、なぜこの季節に反りやすいのか」「長く使うためには、どのように手入れをすればよいか」といったことを、簡単なブログや、お店での会話の中で伝えるようにしてみました。
最初は慣れず、文章を書いては消し、書いては消しを繰り返したそうです。

すると、少しずつお客様の反応が変わっていきました。
「そこまで考えて作ってくださっているんですね」「だから、この工房にお願いしたいと思ったんです」という声が、以前より増えていったそうです。
中には、遠方からわざわざ足を運んでくださるお客様も現れたといいます。

Aさんの木工の技術自体は、以前から何も変わっていません。
変わったのは、「伝える」という一歩を踏み出したこと、それだけでした。

飾らない言葉にこそ、力が宿る

ここで大切にしていただきたいことがあります。
それは、伝える言葉は、決して洗練されている必要はない、ということです。

流暢な文章や、上手な話し方でなくても構いません。
むしろ、経営者ご自身の素朴な言葉で語られたものの方が、お客様には真実味をもって届くことが多いように思います。
取り繕った言葉よりも、多少ぎこちなくても本人の言葉の方が、信頼を生むのではないでしょうか。

完璧な発信を目指そうとすると、それだけで一歩が重くなってしまいます。
まずは「うまく伝えよう」ではなく、「素直に伝えよう」という気持ちから始めてみるのも一つです。

一歩を踏み出すための、三つの入り口

それでも、「何から始めればよいのか分からない」と感じる方も多いのではないでしょうか。
そのようなときは、三つの入り口から選んでみるとよいかもしれません。

一つ目は、お客様からよく聞かれる質問を、一つだけ思い出してみることです。
その答えを、紙一枚にまとめてみるだけでも、立派な発信の材料になります。

二つ目は、日々の仕事の中で、無意識に行っている「工夫」に目を向けてみることです。
当たり前に行っている作業の裏には、必ず理由があります。
その理由を、一言だけお客様に添えてみるところから始めてみるのも一つです。

三つ目は、商品やサービスが出来上がるまでの背景を、少しだけお見せしてみることです。
仕込みの様子、選んでいる材料、こだわっている工程。その裏側を知ることで、お客様の受け取り方は大きく変わってきます。

どれか一つで構いません。
慣れてきたら、お店のチラシやSNS、ブログといった形で、少しずつ発信の場を広げていくとよいのではないでしょうか。
大切なのは、専門用語を並べることではなく、相手が「なるほど」とうなずける、やさしい言葉で伝えることです。
難しい言葉を使う場合には、必ず簡単な言い換えを添えてみてください。

伝えることは、信頼を育てること

情報を発信することは、単なる宣伝ではありません。
それは、お客様との間に「この人になら任せられる」という信頼を、少しずつ育てていく行為なのだと、私は考えています。

知識や技術は、経営者にとって大切な財産です。
けれども、その財産は、伝えることによって初めて、お客様にとっての価値へと変わっていきます。
黙って良いものを作り続けることも、もちろん尊い姿勢です。
しかし、そこに「伝える」という一手間を加えることで、お客様との関係は、もう一段深いものになっていくのではないでしょうか。

今日から少しずつ、「なぜ」を言葉にして伝えてみる。
その小さな積み重ねこそが、やがてお客様との、揺るぎない信頼関係につながっていくのではないでしょうか。

もし、ここまで読んでくださって、「自分にも一つくらいはあるかもしれない」と思う知識や工夫が浮かんだなら、それはとても良い兆しです。
その一つを、今週のうちに、誰か一人のお客様に伝えてみる。
そんな小さな一歩から、始めてみてはいかがでしょうか。

この記事をシェアする

記事一覧へ戻る

関連記事 Relation Entry