利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

気づきにくい「色眼鏡」——あなたの経営判断を静かに左右しているもの

気づきにくい「色眼鏡」——あなたの経営判断を静かに左右しているもの

「自分だけは公平」その思い込みが、実は一番危ない

「なぜ、あの提案には最初から乗り気になれなかったのだろう」「なぜ、あの人の言うことだけは、いつも素直に聞けないのだろう」—経営をしていると、そんな自分自身の反応に、ふと立ち止まることはないでしょうか。
理由をあれこれ考えてみても、はっきりとした答えは出てこない。
そんなとき、実はその判断の裏側に、ある共通の仕組みが働いていることが多いのです。

今日は、経営者なら誰もが無意識のうちに持っている「色眼鏡」という考え方について、一緒に見ていきたいと思います。
難しい理論のお話ではありません。
むしろ、明日からの会議や、社員との何気ない会話の中で、そっと思い出していただけるようなお話にできればと思います。

頭の中の景色が、そのまま「現実」に見えてしまう

私たちは、目の前で起きていることを、ありのままに見ていると、つい思ってしまいます。
しかし実際には、私たちが見ている景色は、それまでの経験や知識、そのときどきの気分によって、少しずつ色づけされています。
同じ出来事を見ても、疲れているときと元気なときとでは、受け取り方がまったく違う。
これは多くの方が、日常の中で感じたことがあるのではないでしょうか。

つまり私たちは、「現実そのもの」を見ているようでいて、実際には「自分の頭の中で作られた景色」を見ているとも言えます。
これは決して特別なことではなく、人間である以上、誰にでも起きていることです。
まずは、そういうものだと知っておくこと。
それが、経営者にとって大切な第一歩になると考えられます。

なぜこのお話から始めるかというと、経営における判断のほとんどは、数字だけでは決まらないからです。
誰を採用するか、どの提案を通すか、誰の意見を重く受け止めるか。
こうした判断の一つひとつに、実は目に見えない色がついているのです。

色眼鏡は、誰もが無意識にかけている

古くから「色眼鏡で見る」という言い方があります。
もとから偏った見方で物事を判断してしまう、という意味で使われる表現です。この色眼鏡は、生まれてから今日まで、長い時間をかけて少しずつ作られてきたものです。
育った環境、これまでの成功や失敗、周りの人からかけられた言葉。
そうしたものが積み重なって、一人ひとり違う色の眼鏡ができあがっています。

厄介なのは、この色眼鏡が、あまりにも自分の顔にぴったりと馴染んでしまっていることです。
かけていることを忘れるくらい、当たり前になっている。
だからこそ、多くの経営者は「自分は公平に判断している」と感じながら、実は色眼鏡越しに物事を見てしまっている、ということが起こり得ます。

これは、能力や人格の問題ではありません。
長年経営者と向き合ってきた中で感じるのは、真面目に会社のことを考えている方ほど、この色眼鏡の存在に無自覚になりやすい、ということです。
忙しく、次々と判断を下していく毎日の中では、自分の見方そのものを疑う余裕は、なかなか持てないものだからです。

他人の色眼鏡はよく見えるのに、自分の色眼鏡は見えない

不思議なことに、他人がかけている色眼鏡には、私たちは案外気づくことができます。
たとえば、機嫌の悪い上司には、あえて重要な相談を後回しにする。
そうした配慮を、多くの方が自然に行っているのではないでしょうか。
これは、相手が「不機嫌」という色眼鏡越しに物事を見てしまっていることを、無意識のうちに理解しているからです。

ところが、自分自身がかけている色眼鏡には、驚くほど気づきにくいものです。
「若手の意見だから」「現場を知らない人間だから」「あの人はいつもこうだから」—こうした前提のもとで下している判断が、実はどれほどあるでしょうか。
自分では中立のつもりでいても、知らず知らずのうちに、色眼鏡越しに相手を見てしまっていることは、決して珍しくないのです。

これは、自分が空気に囲まれて生きていることを、日々意識しながら過ごすくらい難しいことだとも言えます。
空気は常にそこにあるからこそ、普段はその存在を忘れてしまう。
色眼鏡も同じで、常に自分の目の前にあるからこそ、そこに何かがかかっているとは、なかなか思い至らないのです。

ある製造業の社長が味わった、小さな驚き

以前、ある部品製造業を営む二代目の社長からうかがったお話です。
従業員十名ほどの会社で、先代から工場を受け継いで十数年になる方でした。

あるとき、事務職として入社し、その後たまたま生産管理の補助に回っていた女性社員から、材料の発注方法を見直したいという提案が上がってきました。
話を聞いた瞬間、社長の頭には「現場をよく知らない人の思いつきだろう」という考えがよぎったそうです。
実際、最初はやんわりと聞き流し、提案書もしばらく机の引き出しにしまったままにしていたといいます。

ところが数か月後、別の取引先との雑談の中で、まったく同じ発想の仕組みを既に導入して、材料のロスを大きく減らしていると聞き、社長は驚いたそうです。慌てて引き出しから提案書を取り出し、実際に試してみたところ、無駄な発注が目に見えて減り、社員たちからも歓迎される結果になりました。

このとき社長がしみじみと語っていたのは、「彼女の提案そのものではなく、自分が最初から聞く耳を持たなかったことに驚いた」という言葉でした。
現場経験の長さという物差しだけで、提案の中身を見る前に評価を決めてしまっていた。
そのことに、後になって初めて気づいたそうです。

これは特別な社長の話ではなく、程度の差こそあれ、多くの経営者が心当たりを持てる出来事ではないでしょうか。

色眼鏡に気づくための、小さな習慣

では、この色眼鏡と、どう付き合っていけばよいのでしょうか。
完全に外すことは、おそらくできません。
色眼鏡は私たちの一部であり、それ自体が悪いものというわけでもないからです。
大切なのは、外すことよりも、「今、自分は何かの色眼鏡をかけているかもしれない」と、ときどき思い出せることではないかと思います。

そのための小さな工夫として、判断に迷ったとき、あるいは誰かの提案にすぐ乗り気になれなかったとき、「なぜ自分はそう感じたのだろう」と、一呼吸おいて自分に問いかけてみる。
この習慣は、まずは今日からでも始めてみられるのではないでしょうか。
理由が「相手の経験が浅いから」「部署が違うから」といった、中身とは関係のないところにあると気づくことができれば、それだけでも十分な収穫です。

また、いつも同じ顔ぶれの意見ばかりを聞いていないか、振り返ってみることも一つの方法です。
普段あまり意見を求めない社員に、あえて感想を聞いてみる。
異なる立場の人の見方を取り入れることで、自分一人では見えていなかった景色が、少しずつ見えてくることがあります。

社内でこうした話をすることも、意外と効果があります。
「人はみな、何かしらの色眼鏡をかけている」という前提を、社長自身が口に出して共有しておく。
そうすることで、社員の側からも「社長、それはもしかして色眼鏡かもしれません」と、冗談交じりに指摘しやすい空気が生まれます。
最初は照れくさく感じられるかもしれませんが、こうしたやり取りができる関係は、会社にとって大きな財産になるのではないかと考えられます。

まとめ—気づくことが、経営を変える最初の一歩

色眼鏡は、誰の目にもかかっているものであり、それ自体を恥じる必要はありません。
むしろ、長年の経験によって培われた色眼鏡が、的確な判断につながることも数多くあります。
問題になるのは、色眼鏡をかけていること自体ではなく、かけていることに気づかないまま、それを「客観的な事実」だと思い込んでしまうことです。

十名前後の会社を切り盛りされている経営者の方々は、日々、数えきれないほどの判断を、限られた時間の中で下しておられます。
だからこそ、すべての判断を疑ってかかる必要はありません。
ただ、月に一度、あるいは大きな決断をする前だけでも、「これは自分の色眼鏡越しの見方ではないだろうか」と、立ち止まって考えてみる。
それだけで、これまで見過ごしていた社員の力や、埋もれていた良い提案に、光が当たることがあるかもしれません。

自分の色眼鏡に気づくことは、決して簡単なことではありません。
けれども、気づこうとする姿勢そのものが、社員から見れば、とても頼もしいものに映るのではないでしょうか。
完璧な経営者を目指す必要はなく、まずは「自分にも色眼鏡があるかもしれない」と、静かに認めるところから始めてみる。それが、これからの経営を、少しずつ、しかし確かに変えていく一歩になると、私は考えています。

この記事をシェアする

記事一覧へ戻る

関連記事 Relation Entry