お客様の心を開く営業アプローチ
「頑張って説明しているのに、なぜか断られる」
こんな経験はないでしょうか。
電話をかけると、開口一番に「結構です」と言われる。
飛び込み訪問しても、玄関先で終わってしまう。
熱心に自社のサービスを説明したのに、かえって相手がどこか引いていく。
「一生懸命やっているのに、なぜうまくいかないんだろう」
長年、中小企業の経営者のみなさんとお話ししていると、新規のお客様へのアポイント(面会の約束を取り付けること)について、こうした悩みをよく耳にします。
営業担当者がいる会社でも、経営者自身が動く場合でも、「最初の一歩」がなかなかうまくいかないと感じている方は少なくありません。
従業員10名前後の会社では、社長や幹部が自ら営業の前線に立つことも多い。
そんなみなさんに、今日はアポイントについての「考え方の転換」をお伝えしたいと思います。
お客様が警戒するのは、あたりまえのこと
まず、大切な前提から始めさせてください。
アポイントとは、電話や飛び込み訪問で、まだ何も接点のないお客様に「一度お時間をいただけませんか」とお願いする、最初の段階です。
この段階では、お客様はあなたのことをまったく知りません。
名前も、会社も、人柄も、何も知らない相手から突然連絡が来る。
そのとき頭をよぎるのは、こんな気持ちではないでしょうか。
「何を売りつけようとしているんだろう」
「話を聞いたら、断りにくくなるかも」
「貴重な時間をとられたくない」
これは、相手が冷たいのではありません。
初対面の人間に対する、ごく自然な自己防衛の反応です。
私たちも、まったく知らない相手から突然連絡があれば、同じように感じるはずです。
なぜ、懸命に説明するほど逆効果になるのか
では、多くの営業マンはこの警戒心にどう対処しようとするでしょうか。
たいていの場合、「お客様の関心を引こう」「興味を持ってもらおう」と考えて、自社のサービスや商品のメリットを一生懸命に説明しようとします。
「弊社は○○に強くて、△△という実績があります。ぜひ一度お話を聞いていただけませんか」
気持ちはよくわかります。
自分の会社のことを知ってもらえれば、きっと価値を感じてもらえる。
だから、まず伝えなければ。そう考えるのは自然なことです。
しかし、相手の立場に立って考えてみると、どうでしょうか。
見知らぬ相手から、一方的に商品の話が始まる。
しかも熱心に。そのとき、多くの人の心の中に起きるのは「警戒心が薄れる」ではなく、むしろ「やっぱり売り込みだ」という気持ちの強まりです。
熱心さが、裏目に出てしまう。これは、営業の皮肉な現実です。
アポイントで本当に必要なのは「聞く」こと
では、どうすればよいのでしょうか。
答えはシンプルです。
説明より先に、質問する。
話すより先に、聞く。
まず、訪問の目的を手短に伝えます。
「○○のお手伝いをしている者です」と、一言で十分です。
そして、すぐにお客様へ問いかけを向けるのです。
「今、△△についてはどのようにされていますか?」
「最近、こういった点でお困りのことはありますか?」
たったこれだけで、場の空気が変わります。
なぜでしょうか。
質問されると、人は「ああ、この人は私の話を聞こうとしているのだ」と感じます。
売り込まれる恐怖が薄れ、ほんの少し心が開きます。
そしてお客様が自分の言葉で話し始めたとき、初めて本当の対話が生まれます。
お客様の悩みや困りごとが見えてきたら、そこで初めて「実は、そのご状況にこんなお役に立ち方があります」と伝えればよい。
こうすれば、面会の約束はずっと自然な流れで取り付けられるのではないでしょうか。
アポイントの目的は、商品を説明することではありません。
お客様の「欲求(本当に必要としていること)」を知ること、そしてその欲求に応えられることを伝えること。
この順番が大切なのです。
事例:質問一つで、扉が開いた
ある小さな清掃会社の話をさせてください。
従業員9名、地元の事業所や飲食店の清掃を主な仕事としていました。
社長の松本さん(仮名)は、売り上げをもう少し安定させたいと考え、近隣のオフィスビルや医療クリニックへの新規開拓に取り組み始めました。
最初は、電話をかけるたびにこう切り出していました。
「○○清掃サービスと申します。定期清掃のご提案ができればと思いまして……」
しかしほとんどの場合、「今は別の業者さんにお願いしているので」「必要なときに連絡します」と、30秒もしないうちに電話が終わってしまいました。
松本さんは、試しにやり方を変えてみました。
電話の冒頭での説明をすっかりやめて、こう聞くようにしたのです。
「突然のお電話、失礼いたします。清掃の会社をしている者ですが、一つだけ伺ってもよいですか。今の清掃について、何かお困りのことはございますか?」
すると、ある歯科クリニックの受付の方が、こんなことを話してくれました。
「今の業者さんは対応が遅くてね。スタッフから床の汚れについて何度か指摘があって、ちょっと困っているんです」と。
松本さんはその話を丁寧に聞き、「うちは地元密着で、急な対応もしやすいんです。
一度、現場を見せていただくことはできますか?」と伝えました。
そして翌週、現場見学の約束が取れました。
後日、月に2回の定期清掃の契約につながったのです。
何が変わったか。
松本さんが変えたのは、話す「内容」ではありませんでした。
話す「順番」を変えただけです。
自分のことを伝えるのは、相手の話を聞いてからでいい。
それだけで、まったく違う展開が生まれました。
「聞く力」は、特別な才能ではありません
「でも私は営業が苦手で、うまく質問もできない」
そう感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、考えてみてください。
聞くことは、誰でもできます。
むしろ、話すより聞くほうが、相手との距離は縮まりやすいものです。
必要なのは、高度なトークスキルではありません。
お客様の言葉に純粋に関心を持つこと。
「この方は今、どんなことで困っているのだろう」という、素直な興味だけです。
長年、中小企業の経営者のみなさんを見ていて気づくのは、営業が苦手だとおっしゃる方ほど、実は「聞く力」を持っている場合が多いということです。
お客様一人ひとりの話をきちんと受け止め、丁寧に対応してきたからこそ、今の信頼関係や口コミが生まれているのではないでしょうか。
アポイントの場でも、その力はきっと活きます。
今日から試せる、小さな一歩
難しいことを一度にやろうとしなくて、大丈夫です。
まずは一つだけ、変えてみてはいかがでしょうか。
電話や訪問の冒頭で、商品の説明を始める前に、ひとつだけ質問を用意しておく。
それだけです。
たとえば、こんな問いかけです。
「今、○○についてはどのようにされていますか?」
「最近、△△でお困りのことはありますか?」
「どんな点が改善できたらうれしい、と感じていますか?」
この一言が、お客様の心を開く最初の鍵になります。
慣れてきたら、お客様の答えをもとに、「実はそのお困りごとについて、こんなお力になり方があります」と、相手の言葉に寄り添った形でサービスを伝えられるようになります。
最初から完璧にやる必要はありません。
「説明より先に、一つ質問する」それだけを意識するところから始めてみても、お客様の反応は変わっていくのではないでしょうか。

まとめ―アポイントは「売り込む場」ではなく「知る場」
今日お伝えしたいことをまとめると、こういうことです。
アポイントは、商品やサービスを売り込む場ではありません。
お客様のことを知る、最初の大切な入り口です。
初対面のお客様が警戒するのは当然のこと。
その壁を崩そうとして一方的に話せば話すほど、かえって心は閉じていきます。
だからこそ、訪問の目的を手短に伝えたら、すぐに質問へ移る。
お客様の悩みや欲求(本当に必要としていること)を聞く。
そして、その欲求に応えられることを伝える。
この「順番」を変えるだけで、結果は大きく変わってきます。
私がこれまで多くの経営者のみなさんと向き合ってきた中で感じるのは、新規開拓の難しさは「伝え方」よりも「聞く姿勢」に答えがある、ということです。
新しいお客様との最初の接点を、「売り込む場」から「知る場」へ。
そう少し視点を変えるだけで、扉の向こうに新しいご縁が待っているかもしれません。
焦らず、一歩ずつ。
まずは明日の電話の冒頭に、一つだけ質問を用意してみることから始めてみてはいかがでしょうか。
