利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

リーダーシップは、社長だけが背負うものではないのかもしれません

リーダーシップは、社長だけが背負うものではないのかもしれません

会社を動かすのは、肩書きではなく「その瞬間の一言」かもしれません

経営者の方とお話ししていると、「結局、最後に決めて、最後に引っ張るのは自分しかいない」という言葉をよく耳にします。
社員が10名前後の会社では特に、社長が営業も現場も資金繰りも見ていることが多く、何かを動かす役割はすべて自分にある、と感じやすいのではないでしょうか。

たしかに、最終的な判断や責任は社長にあります。
ただ、会社が苦しい局面を乗り越えるとき、実際に空気を変えるきっかけをつくっているのは、必ずしも社長本人とは限らないのではないでしょうか。
むしろ、社員の誰かがふと発した一言や、誰かの小さな行動が、チーム全体を前に進めることがあります。
今回は、この「リーダーシップは役職と一致するとは限らない」という考え方について、経営者の日常に近いかたちで考えてみたいと思います。

肩書きと、本当のリーダーシップは別のものかもしれません

会社には、社長、店長、主任といった役職があります。
役職は、責任の所在を明確にするために必要なものです。
ただ、役職を持っている人だけがリーダーシップを発揮できる、というわけではないように思います。

リーダーシップとは、地位そのものではなく、「必要な瞬間に、前を向く言葉や行動を示し、周りを動かす力」だと考えると、少し見え方が変わってきます。
普段は前に出ない社員でも、ある場面では誰よりも早く声を上げ、周囲を励ますことがあります。
逆に、役職を持つ人がプレッシャーで動けなくなる瞬間もあります。
重い責任を背負っている人ほど、追い詰められたときに視野が狭くなりやすいのは、自然なことなのかもしれません。

そう考えると、社長の役割は「自分がすべてのリーダーシップを発揮すること」ではなく、「誰かが発揮したリーダーシップを見逃さず、それを会社全体の力に変えること」なのではないでしょうか。
一人ひとりの強みや瞬発力を引き出し、束ね、会社が目指す方向にまとめていく。
それもまた、経営者にしかできない大切な仕事だと思います。

ある飲食店で起きた、小さな出来事

これは、ある小さな飲食店の話です。
従業員8名ほどのこのお店では、社長自身が厨房にも立ち、ホールにも出て、予約管理や仕入れも担当していました。
土曜の夜、思いがけず団体の予約が重なり、厨房は注文の山、ホールは満席、しかも一人がその日体調を崩して欠勤するという状況になりました。

ベテランのスタッフたちは、長年この店を支えてきた自負がある分、「今日はもう回らないかもしれない」という空気が漂い始めていました。
社長自身も、厨房とホールを行き来しながら、内心では同じ不安を抱えていたといいます。

そのとき声を上げたのは、入って半年ほどの、まだ20代前半のアルバイトスタッフでした。
「一旦、出せる料理から順番に出していきましょう。私、伝票整理します」。
決して大きな声ではなかったものの、その一言で、止まりかけていた手が再び動き始めたそうです。
誰かが具体的な次の一歩を示したことで、ベテランたちも我に返り、自分たちの持ち場で動き直すことができました。
結果として、その日は大きな混乱もなく営業を終えることができたといいます。

社長は後から振り返って、「あの日、店を救ったのは自分ではなく、あのスタッフの一言だった」と話していたそうです。
役職や経験年数とは関係なく、必要な瞬間に必要な行動を取れる人が、その場のリーダーになり得る。
この出来事は、そのことをよく表しているように思います。

経営者がつまずきやすいところ

多くの経営者と話していると、「リーダーシップは自分が発揮するものだ」という意識が強いあまり、社員が見せた小さなリーダーシップに気づきにくくなっている場面によく出会います。
これは、経営者の力不足というより、日々の忙しさの中では自然と見えにくくなってしまうことなのだと思います。

たとえば、誰かが困っている場面で別の社員がさりげなくフォローに入っていても、社長自身が別の業務に追われていれば、その瞬間を見届けることは難しいかもしれません。
あるいは、社員が良い動きをしても、それを言葉にして本人に伝える余裕がなく、結果として「気づいていたけれど、流れてしまった」ということも起こりやすいのではないでしょうか。

また、「リーダーは自分だけ」という思い込みが強いと、無意識のうちに社員が前に出る機会そのものを減らしてしまうこともあります。
社長が先に判断し、先に動いてしまうと、社員は「自分が声を上げる場面ではない」と感じてしまうかもしれません。
これは責められることではなく、責任感の強い経営者ほど起こりやすい、自然な傾向だと考えられます。

今日からできる小さな行動

大きな仕組みを変える必要はありません。
まずは、ごく小さなところから始めてみるのも一つです。

この一週間を振り返り、社員の誰かが見せた、ささやかな良い動きを一つだけ思い出してみてはいかがでしょうか。
声をかけてくれた、率先して動いてくれた、誰かをフォローしていた。
どんなに小さなことでも構いません。
それを見つけたら、本人に一言、具体的に伝えてみることから始めてみるのも良いと思います。
「あのとき助かった」という言葉は、思っている以上に相手に届くものです。

また、次の会議や打ち合わせの場面で、社長自身が先に答えを出すのではなく、「どう思う?」と一拍置いて社員に尋ねてみるのも一つの方法です。
すぐに良い意見が出なくても構いません。
発言する機会そのものが、次にその社員が前に出るきっかけになることがあります。

そしてもう一つ、社長自身が「今回は自分が動かなくても大丈夫かもしれない」と感じた場面があれば、思い切って一歩引いてみることもおすすめです。
任せることで初めて見えてくる、社員の力があるかもしれません。

まとめ

経営者が「自分がすべてを引っ張らなければ」と感じてしまうのは、それだけ会社のことを真剣に考えている証だと思います。
ただ、会社を前に進める力は、社長一人だけのものではなく、社員一人ひとりの中にも、すでに眠っているのかもしれません。

大切なのは、その力に気づき、引き出し、会社という一つの方向にまとめていくことではないでしょうか。
一度にすべてを変える必要はありません。
まずは、最近社員が見せてくれた小さな行動を一つ思い出し、言葉にして伝えてみる。
そんなところから始めてみてはいかがでしょうか。

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