「専用」「限定」の一言が、選ばれる理由になる|商品・サービスの対象の絞り込み方
「誰にでも喜ばれる商品」が、実は一番売りにくい
多くの経営者の方とお話をしていると、こんな悩みをよく耳にします。
「うちの商品はいいものだと思うのですが、なかなかお客様に伝わらなくて」
そう話す方の商品案内を拝見すると、たいてい「幅広い世代の方に」「どなたにもお使いいただけます」といった言葉が並んでいます。
一見すると間口が広く、多くの人に届きそうな言葉です。
けれども実際には、こうした表現ほど、お客様の心には残りにくいのではないでしょうか。
これは決して珍しいことではありません。
良いものを、できるだけ多くの人に届けたい。
そう考えるのは経営者として自然な気持ちです。
かつて物が足りなかった時代であれば、「どなたにでも」という言葉だけでも十分にお客様に届いていたのかもしれません。
作れば売れる、店を開けば人が来る。
そうした時代であれば、対象を広く取ることにも意味があったのだと思います。
けれども今は、似たような商品やお店が周りにあふれています。
お客様の側からすると「どなたにでも」という言葉は、かえって「自分のためのものではないかもしれない」という印象にもつながってしまいます。
虫眼鏡で太陽の光を集めると紙が燃えるほどの熱を生みますが、同じ光でも広い面積に当てたままでは、何も変わらないままです。
商品やサービスも、これと似たところがあるように思います。
広く当てるだけでは伝わらない熱が、絞り込むことで初めて伝わることがあるのではないでしょうか。
世の中には、すでに「絞り込み」を選んだ商品があふれている
改めて周りを見渡してみると、対象をあえて狭くすることで支持を集めている商品は、意外と身近にたくさんあります。
代表的なものといえば、朝の時間帯に飲むことだけを考えて作られた缶コーヒーではないでしょうか。
同じ「コーヒー」という商品でも、一日中いつでも、と考えて作るのではなく、通勤前の慌ただしい時間に飲むことだけに絞り込み、目覚めを助ける香りや味わいにこだわって作られています。
時間帯を一つに絞ったことで、かえって多くの方に長く選ばれ続ける商品になった、分かりやすい例だと思います。
たとえば、運動をしたあとの体づくりのために飲む、たんぱく質補給用のドリンクもあります。
「飲み物」とだけ言えば無数の競合がありますが、「運動直後に飲む」という一点に絞ることで、真剣にトレーニングをしている方たちにとって欠かせない存在になりました。
介護のお仕事をされている方向けに作られた靴も同じです。
長時間立ち続け、患者さんやご利用者様を支える動きが多いという、その仕事ならではの負担に応えるために作られています。
一般的な仕事用の靴として売っていたら、ここまで支持されなかったのではないでしょうか。
土に触れる仕事をしている方のために作られたハンドクリームもあります。
土や水に触れる時間が長く、手荒れに悩みやすいという特定の悩みに向き合って作られているからこそ、「これは自分のためのものだ」と感じてもらえるのだと考えられます。
一人暮らしを始めたばかりの学生に向けて作られた宅配食も、同じ考え方です。
栄養バランスも大切にしたいけれど、自炊の時間や経験がない。
そんな状況にある人だけを思い浮かべて作られています。
夜勤で働く方のために作られたお弁当もあります。
日中に食べるお弁当と違い、深夜でも胃に負担をかけにくく、眠気を誘いにくい献立が選ばれているそうです。
同じ「お弁当」という商品でも、いつ、どんな体調の人が食べるのかを具体的に思い浮かべることで、まったく違う商品が生まれてくるのだと感じます。
こうして並べてみると、ヒットしている商品には、ある共通点が見えてきます。
それは「誰にでも」ではなく、「この人のために」という強い思いを持って作られている、ということです。
なぜ、絞り込むほうがかえって選ばれるのか
不思議に思われるかもしれません。
対象を狭めれば、届く人の数も減るはずです。
それなのに、なぜ絞り込んだ商品のほうが結果として多くの支持を集めることがあるのでしょうか。
理由の一つは、人は「自分ごと」だと感じたときに初めて、真剣に耳を傾けるからではないかと考えられます。
街を歩いていて、大勢に向けた看板よりも、自分の名前を呼ばれたときのほうが、はっと振り向くものです。
「どなたにでも」という呼びかけは、実は誰の耳にも強くは届きません。
一方で「長時間の立ち仕事で足の疲れにお困りの方へ」という言葉は、そこに当てはまる人にとって、まさに自分に向けられた声として届きます。
もう一つの理由は、対象を絞ることで、商品やサービスの中身そのものが磨かれていくからです。
「みんなに向けて」作ろうとすると、あれもこれもと機能や説明を足したくなり、結果として何が強みなのかぼやけてしまいます。
反対に、たった一人の困りごとに向き合って考えると、削るべきところと、こだわるべきところが自然とはっきりしてきます。
さらにもう一つ、信頼していただきやすくなる、という理由もあると考えられます。
「なんでも扱っています」というお店よりも、「この分野だけを専門に扱っています」というお店のほうが、詳しそうだ、任せて安心そうだ、と感じた経験は多くの方にあるのではないでしょうか。
対象を絞るということは、裏を返せば「ここについては誰よりも詳しい」という宣言でもあります。
範囲を狭めることが、結果として専門性の高さを伝える力に変わっていくのです。
ある整体院の、小さな方向転換
ここで、ある整体院を営む佐藤さん(仮名)の話をご紹介したいと思います。
佐藤さんは長年、肩こりや腰痛に悩む方全般を対象に施術をされていました。
チラシにも「肩こり・腰痛・疲労回復、どなたでもお気軽に」と書かれていました。
真面目に技術を磨き、丁寧な施術を続けてこられたのですが、なかなか新しいお客様が増えず、口コミも思うように広がりませんでした。
近所には似たような看板を掲げる店が何軒もあり、道を歩く人にとっては、どのお店も同じように見えていたのかもしれません。
あるとき佐藤さんは、実際に来院されている方の多くが、一日中机に向かって仕事をされている会社員の方だと気づきました。
特に、パソコンの画面を長時間見続けることで首や肩が固まり、夕方になると頭が重く感じる、という悩みを抱えた方が多かったのです。
そこで思い切って、案内文を「一日中机に向かうお仕事で、慢性的な首・肩のこりにお困りの方へ」と書き直してみました。
施術の内容自体は大きく変えていません。
けれども、案内文を見た人の反応は明らかに変わりました。
「まさに自分のことだ」と感じた会社員の方からの予約が増え、紹介での来院も増えていったそうです。
対象を絞ったことで、それまで来ていた方が来なくなったわけではありません。
むしろ「自分に合いそうだ」と感じる人が増えたことで、結果として来院数そのものが増えていったのです。
半年ほど経った頃には、新規のお客様のうち半分近くが、案内文を読んで「まさに自分のことだと思った」ときっかけを話してくださるようになったといいます。
さらに嬉しい変化もありました。
会社員の方を思い浮かべて施術の内容を組み立て直したことで、「終業後の夜でも通いやすい時間帯にしてほしい」「座り方や机の高さについても相談したい」といった、これまでにはなかった具体的な要望が届くようになったのです。
対象がぼんやりしていた頃には出てこなかった声だと、佐藤さんは振り返っています。
佐藤さんはこの経験を通じて、「広く構えるより、誰か一人を思い浮かべて言葉を選ぶほうが、結局は多くの人に届くのだ」と実感されたそうです。
自分の言葉で、空欄を埋めてみる
ここまでの話を踏まえて、ご自身の商品やサービスについても、少し考えてみていただけないでしょうか。
難しく考える必要はありません。
次のような言葉の形に、空欄を埋めるつもりで当てはめてみるだけです。
「 」専用。
「 」限定。
「 」でお困りの方へ。
「 」をしたいと思っている方へ。
「 」の方へ。
年齢や経験年数、地域といった条件で「 」が「 」以上(あるいは以下)の方へ、という形も考えられます。
最初から完璧な言葉が浮かばなくても構いません。
まずは思いつくままに、いくつかの候補を書き出してみることから始めてみるのも一つです。
実際に来店されているお客様や、印象に残っているお客様の顔を思い浮かべながら考えると、より具体的な言葉が出てきやすいように思います。
それぞれの言葉の形には、少しずつ違った意味合いがあるように思います。
「専用」は、ある人やある場面のためだけに作られたことを表す言葉です。
「限定」は、期間や数量、場所などを区切ることで、特別感を伝える言葉になります。
「でお困りの方へ」は、今まさに悩みを抱えている方の心に寄り添う呼びかけです。
「したいと思っている方へ」は、これから何かを始めたい、変えたいという前向きな気持ちに向けた言葉になります。
年齢や経験年数、地域などで「以上」「以下」と区切る形は、条件をはっきりさせることで、当てはまる方に強く届きやすくなります。
どれか一つに絞る必要はありません。
ご自身の商品やお客様の顔ぶれに、しっくりくる形を選んでいただければと思います。
絞り込みは、案内文だけの話ではない
ここまで、商品やお店の案内文を例にお話ししてきましたが、この考え方は、宣伝の言葉だけにとどまるものではないと考えられます。
たとえば、新しく人を採用するときにも、「明るく元気な方」といった漠然とした条件よりも、「細かい数字の確認をこつこつ続けられる方」というように、実際の仕事に即した言葉で考えたほうが、会社に合う人と出会いやすくなります。
取引先を選ぶときも同じです。
「なんでも相談できる相手」を探すよりも、「この分野については任せられる相手」を思い浮かべたほうが、結果として長く付き合える関係につながりやすいのではないでしょうか。
私自身、税理士として日々さまざまな業種の経営者の方とお話をしていますが、対象を絞り込むことに迷いを感じる方は少なくありません。
「お客様を減らすようで不安だ」というお気持ちは、とてもよく分かります。
ただ、これまで多くの会社を見てきた中で感じるのは、絞り込みに悩む時間そのものが、実はご自身の会社の強みを見つめ直す、貴重な機会になっているということです。
絞り込みは、遠ざけることでもある
もう一つ、大切な視点があります。
それは、対象をはっきりさせることは、同時に「合わない方」をそっと遠ざけることでもある、ということです。
これは冷たいことのように聞こえるかもしれませんが、決してそうではありません。
すべての人に合わせようとすると、経営者ご自身も、働く従業員の方も、少しずつ無理を重ねることになります。
本当にやりたい仕事、得意な仕事に集中できる時間が減ってしまうのです。
反対に、付き合いたいお客様の姿をはっきりさせておくと、そこに当てはまらない方からの依頼は自然と減っていきます。
そのぶん、本当に力を発揮できる仕事に時間とエネルギーを注げるようになります。
従業員数が10名前後の会社であれば、この差はとても大きなものになるのではないでしょうか。
限られた人数だからこそ、誰のために時間を使うかという選択が、会社の未来を大きく左右すると考えられます。
条件が合わないお客様からの依頼を、無理をしてでも引き受けてしまう。
そんな経験がある経営者の方も多いのではないかと思います。
目の前の売上を考えると、なかなか断りにくいものです。
けれども、そうした仕事に時間を取られている間は、本来もっと力を発揮できるはずのお客様に、十分な時間を注げていないことにもなります。
対象をはっきりさせておくことは、無理な仕事を減らし、得意な仕事に集中するための、静かな仕組みづくりでもあるのではないでしょうか。

まずは一つの言葉から
ここまで、対象を絞り込むことの意味についてお話ししてきました。
今日から会社の方針をすべて変える必要はありません。
まずは、先ほどの空欄のうち一つだけでも、ご自身の言葉で埋めてみることから始めてみてはいかがでしょうか。
「うちの商品は、こういう方のためのものです」
そうはっきり言えるようになったとき、これまで届かなかった声が、ふと届くようになる。
そんな瞬間が、きっと訪れるのではないかと思います。
もちろん、一度決めた言葉をずっと変えてはいけない、というものでもありません。
実際にお客様と接する中で、思っていたのと少し違う方が喜んでくださることもあれば、逆に、思い描いていた方にはあまり響かないこともあるでしょう。
そのつど、言葉を見直していけばよいのだと思います。
大切なのは、最初から完璧な答えを出すことよりも、まず一度、誰かの顔を思い浮かべて言葉にしてみることではないでしょうか。
長年、中小企業の経営者の方々とお話をしてきた中で、小さな言葉の変化が、思いのほか大きな変化につながる場面を何度も見てきました。
今回の問いかけが、皆様の商品やサービスを、そして日々の仕事を見つめ直す、小さなきっかけになれば幸いです。
