利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

良いやり方がいくつも浮かぶとき、どう一つに絞ればいいのか

良いやり方がいくつも浮かぶとき、どう一つに絞ればいいのか

「良い案」が多すぎて選べない—そんなときに効く五つの視点

朝、会社に向かう道を思い浮かべてみてください。
大通りをまっすぐ進む道もあれば、少し遠回りだけれど信号の少ない裏道もあります。
天気の良い日なら、自転車で通う道もあるでしょう。
どれも「悪くない」道です。
けれど、雨の日に自転車の道を選べば濡れてしまいますし、急いでいる朝に信号の多い大通りを選べば遅刻してしまうかもしれません。

実は、会社の中で行われているさまざまな仕事のやり方についても、これとよく似たことが起きているのではないでしょうか。

なぜ「良い案」が並ぶほど、かえって選べなくなるのか

長年、中小企業の経営者の方々とお話をしてきた中で、次のような場面に何度も出会ってきました。
新しい仕事の進め方を考えようと、社員さんたちと話し合いの場を持つ。
すると、驚くほどたくさんの意見が出てきます。
「こうすればもっと早く終わる」「こうすればお客様に喜ばれる」「こうすれば失敗が減る」—どれも、なるほどと思わせる提案ばかりです。

ところが、いざそこから一つを選ぼうとすると、途端に手が止まってしまう。
全部それぞれに良さそうに見えるからこそ、逆に選べなくなってしまうのです。

これは決して珍しいことではありません。
むしろ、真剣に会社を良くしようとしている経営者ほど、この壁にぶつかりやすいと言えるかもしれません。
なぜなら、出てきた工夫を一つも無駄にしたくないという気持ちが強いほど、比べて絞り込むという作業がつらく感じられるからです。
せっかく社員さんが考えてくれた案を退けるのは、心苦しいものです。

その結果、判断が先延ばしになったり、逆にどれも中途半端に取り入れてしまい、現場が「結局どのやり方が正しいのか」と混乱してしまう、ということも起こりがちです。
良い案が多いこと自体は、決して悪いことではありません。
問題は、それらを比べる物差しを持たないまま、感覚だけで選ぼうとしてしまうところにあるのではないでしょうか。

もう一つ、判断が止まってしまう理由があります。
それは、経営者自身が「絞り込む」という作業を、どこかで冷たいことのように感じてしまうことです。
せっかく出てきた意見を退けるのは、社員さんの気持ちに水を差すようで気が引ける、という声を、これまで何度も耳にしてきました。
けれど実際には、はっきりとした基準で丁寧に比べるという行為こそが、それぞれの案を考えてくれた社員さんへの、一番の敬意の示し方なのではないかと思います。
何となく良さそうだからと選ぶよりも、なぜその方法が今の会社に合っているのかを筋道立てて説明できるほうが、むしろ皆が納得しやすいのではないでしょうか。

比べるための物差しを、先に用意しておく

ここで大切になるのが、「比べるための物差し」をあらかじめ決めておくという考え方です。
物差しがなければ、どの案も同じくらい魅力的に見えてしまいます。
逆に言えば、はっきりとした物差しさえあれば、好き嫌いや思い入れに引っ張られすぎず、案同士を落ち着いて比べることができます。

私がこれまでの経験から、特におすすめしたいと感じているのは、次の五つの視点で候補を見比べてみるという方法です。
難しく聞こえるかもしれませんが、一つひとつは、日々の仕事の中でごく自然に感じ取れることばかりです。
順番に見ていきましょう。

そもそも、この考え方はどこから生まれたのか

こうした「複数の候補を、決まった視点で比べる」という発想は、もともと工場や生産の現場で、日々の作業を少しずつ良くしていこうとする取り組みの中から育ってきたものだと言われています。
現場で働く人たちが、日々の小さな気づきをもとに「こうしたらどうだろう」という提案をたくさん出し合い、その中から実際に採用するものを選ぶ場面で、感覚だけに頼らない共通の基準が必要とされてきました。

これは、決して大きな工場だけの話ではありません。
従業員十名前後の会社であっても、日々の仕事の中では、同じように「こうしたらどうだろう」という小さな工夫が、社員さんたちの中から自然に生まれているはずです。
そうした工夫の芽を、なんとなくの好みで選んだり、逆に埋もれさせてしまったりするのは、もったいないことだと思います。
工場に限らず、事務作業でも、接客の場面でも、この比べ方はそのまま応用できるのではないでしょうか。

一つ目の視点—無駄な動き、忙しさの偏り、無理な頑張りを減らせるか

まず考えたいのは、その方法によって、無駄な動きや材料が減るかどうかということです。
同じ書類を何度も転記している、同じ場所を何度も行ったり来たりしている—そうした「もったいない動き」が減るなら、それは良い兆候だと考えられます。

次に、忙しさの偏りが減るかどうかも見ておきたいところです。
ある日は手が空いているのに、別の日は誰か一人だけが目の回るような忙しさになる。
そうした偏りが小さくなるなら、これも前向きな変化と言えるでしょう。

そして、誰かに無理な頑張りを強いていないかどうかも、大切な視点です。
新しいやり方が、特定の社員さんの体力や時間を極端に削るものであれば、それはどんなに効果が高く見えても、長くは続きません。
無駄と偏りと無理、この三つが減る方向に向かっているかどうかを、まず確かめてみるのも一つです。

二つ目の視点—安心して、正しく、早く、楽にできるか

二つ目は、実際に手を動かす場面を思い浮かべたときの視点です。
その方法は、安心して取り組めるものでしょうか。
慌てて怪我をしたり、体調を崩したりする心配はないでしょうか。

また、間違いが起きにくい仕組みになっているかどうかも確かめておきたいところです。
誰が担当しても同じ結果になるやり方であれば、正確さは自然と上がっていきます。
担当者の経験や勘に頼りすぎるやり方は、その人が休んだ日に途端に不安定になってしまいます。

そのうえで、以前よりも早く終えられるか、そして何より、担当する人が楽に感じられるかどうかも見ておきましょう。
楽になるというのは、決してさぼるという意味ではありません。
余計な緊張や気疲れが減り、本来集中すべきことに、より多くの力を注げるようになる、という意味だとご理解いただければと思います。

三つ目の視点—うっかりとした間違いやお客様の不満の芽を、あらかじめ摘めるか

三つ目は、失敗やお客様からの不満につながる芽を、事前に摘み取れているかという視点です。
どんなに良い方法に見えても、確認の抜け漏れが起きやすい仕組みのままでは、いずれ大きな問題に育ってしまいます。

たとえば、伝え忘れや聞き間違いが起きやすい流れになっていないでしょうか。
お客様が「話が違う」と感じてしまう余地が、まだ残っていないでしょうか。
こうした点は、机の上で考えているだけでは見えてきません。
実際に仕事をする人の目線に立って、丁寧に確かめてみることが欠かせないのではないかと思います。

四つ目の視点—お客様に「良かった」と思っていただけるか

四つ目は、少し視点を変えて、お客様の側から見た時の印象です。
社内の効率がどれだけ良くなったとしても、それがお客様にとって不便になってしまっては、本末転倒です。

待ち時間が短くなった、対応が丁寧になった、仕上がりが安定するようになった—そうした変化を、お客様自身が実感できるかどうかを想像してみましょう。
社内の都合だけで良し悪しを判断せず、お客様の顔を思い浮かべながら見比べることが大切ではないでしょうか。

五つ目の視点—本当にこれが、今の会社にとって一番なのか

最後の五つ目は、これまでの四つの視点を踏まえたうえで、もう一度立ち止まって考える視点です。
無駄が減り、安心してでき、失敗も防げて、お客様にも喜んでいただける—ここまで確認できた候補であっても、それが本当に、今の会社の状況に最もふさわしいものかどうかを、最後にもう一度問い直してみましょう。

今の人数でも無理なく続けられるか。今ある道具や設備で十分に対応できるか。
かけられる費用や時間の範囲に収まっているか。そうした現実的な条件と照らし合わせてはじめて、「良い方法」は「今の私たちにとって最も良い方法」へと変わっていくのだと考えられます。

ある小さな菓子店での出来事

ここで、一つの例をご紹介したいと思います。
従業員七名ほどで営業している、あるお菓子屋さんでのお話です。

このお店では、誕生日ケーキなどの特別な注文を、これまで電話だけで受け付けていました。
ところが、口頭でのやり取りには限界があり、文字の書き間違いや聞き間違いが少なからず起こっていたそうです。
ある時などは、「いちご」と「もも」を聞き間違え、お客様の当日に慌てて作り直すという出来事もあったといいます。

そこで店主は、社員さんたちと一緒に、注文の受け方そのものを見直すことにしました。
話し合いの中で出てきた案は、大きく三つありました。
一つ目は、紙の注文票に必ず記入し、その場でお客様にも内容を読み上げて確認してもらう方法です。
二つ目は、店頭に専用の端末を置き、注文内容をお客様自身に選んで入力してもらう方法です。
三つ目は、携帯電話の文字でのやり取りを使い、注文内容をそのまま文字として残しておく方法です。

どれも、それぞれに良さがありました。
けれど、先ほどの五つの視点で一つひとつ照らし合わせてみると、少しずつ違いが見えてきました。

専用の端末を導入する方法は、正確さという点では優れていました。
しかし、導入にかかる費用や、社員さんが操作に慣れるまでの手間を考えると、七名という小さな体制には少し重すぎる負担になりそうでした。
無理のない範囲かどうかという視点で見ると、今のこのお店には合わないという判断になったのです。

紙の注文票は、費用もかからず、すぐにでも取り入れやすいものでした。
けれど、結局は手書きであるために、読み間違いの可能性が完全にはなくならないという弱さが残りました。

一方、携帯電話の文字でのやり取りを使う方法は、注文内容がそのまま文字として残るため、聞き間違いが大きく減りました。
お客様の側でも、あとから内容を読み返して確認できるという安心感があったようです。
導入にかかる手間も、それほど大きくはありませんでした。

店主は、この方法を選びました。実際に取り入れてみると、注文の間違いはほとんどなくなり、お客様からも「あとで見返せて安心」という声が届くようになったそうです。
三つの案は、どれも「良いやり方」でした。
けれど、このお店にとっての「最も良いやり方」は、五つの視点を通して初めて、はっきりと見えてきたのではないでしょうか。

まずは、身近な一つの場面から始めてみる

ここまでご紹介してきた五つの視点は、決して特別な道具や、難しい知識を必要とするものではありません。
日々の仕事の中で、少し立ち止まって自分に問いかけてみるだけで、誰でも使うことができます。

もちろん、すべての判断を一度に見直す必要はありません。
まずは、社内で「これ、いくつかやり方があるけれど、どれがいいんだろう」と話題になっている、身近な一つの場面を選んでみるのも良いかもしれません。
そして、その候補たちを、無駄や偏り、無理がないか、安心して正確に早く楽にできるか、失敗やお客様の不満を防げるか、お客様に喜んでいただけるか、そして本当に今の会社に合っているか—この五つの目で、順番に眺めてみてください。

きっと、これまで何となく選んでいた方法の中に、まだ気づいていなかった良さや、逆に見過ごしていた弱さが見えてくるはずです。
それは、会社を大きく変える一歩というよりも、日々の仕事を少しずつ、確かなものにしていく歩みだと思います。

もし、一人で五つの視点を眺めるだけでは判断がつかないと感じたら、社員さんに率直な感想を聞いてみるのも良い方法です。
実際に手を動かす人だからこそ気づける無理や不安があり、逆にお客様と直接接している人だからこそわかる満足の変化もあります。
経営者一人だけで抱え込まず、周りの声を借りながら物差しを当ててみることで、判断の精度は、さらに上がっていくのではないでしょうか。

一つひとつの判断を丁寧に積み重ねていくこと。
それこそが、結果として、会社全体を静かに、けれど着実に、良い方向へ導いていくのではないでしょうか。

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