利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

大きな夢を語る人に、なぜ人は引き寄せられるのか

大きな夢を語る人に、なぜ人は引き寄せられるのか

変化を待つ経営者と、変化をつくる経営者

世の中を見渡してみると、「宇宙旅行を実現したい」「この町でしか食べられない名物料理を作りたい」といった、壮大な目標を口にする人が次々と現れます。
そして不思議なことに、そうした人たちの周りには、いつの間にか協力者が集まってきます。

こうした人たちに共通しているのは、決して「地位が高いから」「肩書きが立派だから」人を動かしているのではない、という点ではないでしょうか。
むしろ、自分自身が心から実現したいと思うことのために、誰よりも先に足を踏み出し、その後ろ姿を見た人たちが「自分もついていきたい」と感じて集まってくる。
そうした順番なのだと考えられます。

これは、決して特別な才能を持つ一部の人だけの話ではありません。
従業員10人前後の会社を経営されている方にとっても、実は身近なテーマなのではないかと私は考えています。

「上に立つ人」と「前を歩く人」の違い

ここで少し立ち止まって考えてみたいのですが、「人を動かす人」には、実は二つのタイプがあるように思います。

一つは、地位や役職の力を使って、後ろから指示を出すタイプです。
もちろん、組織を運営していく上で、こうした役割も必要な場面はあります。
しかし、このタイプだけでは、人はなかなか本気で動いてくれません。
指示されたことをこなすだけで、そこに気持ちがこもりにくいからです。

もう一つは、暗い夜道を歩くときに、提灯(ちょうちん・昔ながらの持ち運び用の明かり)を持って先頭を歩く人のようなタイプです。
この人は、後ろの人に「早く来い」と命令しているわけではありません。
ただ、自分が進みたい方向へ、自分の足で歩いているだけです。
けれども、その明かりがあるからこそ、後ろの人たちも安心してついていくことができる。

冒頭でご紹介したような、大きな目標を掲げて周囲を動かす人たちは、まさにこの「提灯を持って先を歩く人」に近いのではないでしょうか。
命令する人ではなく、道を照らしながら自ら進む人。
その姿勢こそが、人の心を動かす力になっているように思います。

不満を抱えたとき、私たちがしてしまいがちなこと

さて、ここで少し自分自身のことを振り返ってみていただきたいのですが、日々の仕事や暮らしの中で「これはどうにかならないものか」と感じることがあったとき、皆さまはどう行動されているでしょうか。

多くの場合、私たちは「誰か力のある人がこの状況を変えてくれるはずだ」と、心のどこかで期待してしまいがちです。
そして、その期待通りに物事が動かないと、「あの人は立場があるのに、何もしてくれない」と、つい愚痴のひとつもこぼしたくなる。
これは、誰にでも起こりうる、とても自然な心の動きだと思います。

ただ、少し立ち止まって考えてみると、待っている間にも時間は過ぎていきますし、状況が自然に良くなることは、実はそう多くありません。

なぜ、私たちは「自分で変えてみよう」という発想になかなか至らないのでしょうか。
長年、多くの経営者の方とお話をしてきた中で感じるのは、多くの場合、意欲がないわけではなく、「どこから手をつければいいのか分からない」という迷いが、最初の一歩を止めてしまっているということです。
大きな不満や課題であればあるほど、「自分ひとりの力でどうにかできるものではない」と感じてしまい、結果として動けなくなってしまう。
これは、決して怠けているからではなく、むしろ真剣に考えているからこそ起きる立ち止まりなのだと思います。

ある印刷会社の社長が変わった日

ここで、一つの事例をご紹介したいと思います。
ある地方都市で、家族経営の印刷会社を営んでいた佐藤さん(仮名)という経営者の話です。

佐藤さんの会社は、もともとチラシやパンフレットの印刷を主な仕事としていました。
しかし、時代の流れとともに、多くの企業がデータでのやり取りを好むようになり、紙に印刷する仕事は少しずつ減っていきました。
佐藤さんは長い間、「業界全体が縮んでいるのだから、仕方がない」「大手が本気で紙離れを止めてくれない限り、状況は変わらない」と、心のどこかで誰かのせいにしながら日々を過ごしていたそうです。

ところがある日、佐藤さんは地元の商店街のお祭りで配られていた、手作り感のある案内チラシを目にしました。
決して洗練されたデザインではなかったものの、地域の温かみが伝わってくる、味わいのあるものでした。
そのとき佐藤さんは、「うちの印刷技術があれば、こういう地域の魅力を伝えるものを、もっと丁寧に形にできるのではないか」とふと思いついたそうです。

大それた計画があったわけではありません。
まずは、地元の飲食店を数軒回り、無料で試作のメニュー表を作らせてもらうところから始めました。
そこから少しずつ「地域の温かみを紙で伝える印刷屋」という評判が広がり、社員たちも「うちの仕事には、こういう意味があったのか」と、以前より前向きに仕事に取り組むようになったといいます。

佐藤さんは後にこう振り返っています。
「業界が変わるのを待っていたら、きっと何も始まらなかったと思います。小さなことでも、自分から動いてみて初めて、周りも一緒に動いてくれるのだと気づきました」。

小さな一歩を見つけるために

佐藤さんの事例からも分かるように、最初の一歩は、決して壮大なものである必要はないのではないかと思います。

まずは、日々の業務の中で「これはもっとこうなればいいのに」と感じていることを、一度紙に書き出してみるのも一つの方法です。
頭の中だけで考えていると、どうしても「無理だ」「自分には難しい」という否定的な気持ちが先に立ってしまいます。
しかし、実際に文字にしてみると、案外「これくらいなら明日から試せそうだ」と思えることも多いものです。

また、その考えを、いきなり社員全員に発表する必要もありません。
まずは信頼できる一人の社員や、身近な取引先の方に話してみる。
そこで得られた反応やちょっとした助言が、次の一歩を踏み出すための後押しになることも少なくないと考えられます。

そして何より大切なのは、完璧な計画ができあがるのを待たないことではないでしょうか。
佐藤さんも、最初から「地域の魅力を伝える印刷屋になる」という明確な構想を持っていたわけではありませんでした。
目の前の小さな行動を積み重ねていくうちに、結果として自分たちらしい方向性が見えてきた、というのが実際のところだったようです。

まとめ ― 変化をつくるのは、あなた自身

新しいことが次々と生まれる時代には、大きな目標を掲げて周囲を巻き込んでいく人が、これからも数多く現れることでしょう。
しかし、そうした人たちも、最初から特別な力を持っていたわけではないはずです。
ただ、自分の思いに正直に、誰よりも先に一歩を踏み出しただけなのだと思います。

日々の仕事の中で感じる小さな不満や、「こうだったらいいのに」という思いは、実は会社を良くしていくための貴重な種のようなものではないでしょうか。
それを誰かが変えてくれるのを待つのではなく、自分の手で少しずつ育てていく。
そうした姿勢こそが、周りの社員やお客様の心を動かし、結果として会社全体を前へと進めていく力になるのだと思います。

もちろん、いきなり大きな変化を起こす必要はありません。
まずは、日々の中で気になっていることを一つだけ書き出してみることから始めてみるのも一つです。
その小さな一歩が、佐藤さんの印刷会社のように、思いがけない広がりを生んでいくかもしれません。

皆さまの会社にも、まだ気づかれていない、小さな可能性の種がきっとあるはずです。
その種に、そっと目を向けてみていただければ、これほど嬉しいことはありません。

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