利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「うちの会社らしさ」は、線グラフで見えてくる

「うちの会社らしさ」は、線グラフで見えてくる

これまで縁のなかったお客様に出会うために。逆転の発想から始める経営改善

経営を良くしたいと考えたとき、多くの経営者の方がまず目を向けるのは、同業他社の動きではないでしょうか。
あの会社はこんなサービスを始めた、こちらの会社は値段を下げてきた。
そうした情報を集めるほどに、「うちも何か足さなければ」「うちも負けないように頑張らなければ」という気持ちになりやすいものです。

ただ、その足し算を続けていくと、気づかぬうちに競合他社とよく似た会社になってしまうことがあります。
サービスも、価格も、雰囲気も、どこかで見たようなものばかりになってしまう。
そうなると、お客様から見て「わざわざこの会社を選ぶ理由」が見えにくくなってしまうのです。

従業員が十名前後という規模の会社では、大企業のように広告費や開発費を潤沢に使うことは難しいものです。
だからこそ、限られた力をどこに集中させるのかという判断が、経営の質を大きく左右します。
何を頑張るかを決める前に、何を頑張らなくてよいのかを決める。
実は、そちらのほうが難しく、そして大切な判断ではないでしょうか。

今回は、そうした判断を助けてくれる一つの考え方をご紹介したいと思います。
それは、いわば「会社の健康診断表」を作ってみるという方法です。
難しく聞こえるかもしれませんが、仕組みはとてもシンプルです。
順を追ってご説明していきます。

自社の「特徴」を、正直に書き出してみる

この「健康診断表」というのは、簡単に言うと、自社と競合他社の特徴を並べて、折れ線グラフにしたものです。
横軸にはお客様が気にするポイントを並べ、縦軸にはそのポイントをどれくらい重視しているか、力を入れているかを描きます。
ちょうど、実際の健康診断の結果表のようなものだとイメージしていただくと分かりやすいかもしれません。
血圧、体重、視力といった項目ごとに、自分の数値がどのあたりにあるのかを見て、初めて自分の体の特徴が見えてくる。
それと同じように、会社の特徴も、いくつかの項目に分けて書き出してみることで、初めてはっきりと見えてくるのです。

このとき大切なのは、自分たちが「これが強みだ」と思っていることだけでなく、お客様が実際に何を見て選んでくれているのかという視点で考えることではないでしょうか。
経営者が自信を持っている部分と、お客様が実際に価値を感じている部分は、案外ずれていることも少なくありません。
値段、対応の速さ、丁寧さ、品揃え、立地、雰囲気など、思いつく項目をまずは紙に書き出してみることから始めてみるのも一つです。

書き出す項目の数は、多すぎても少なすぎても扱いにくくなります。
まずは五つから七つほどに絞ってみると、全体を見渡しやすくなるでしょう。
また、一人で書き出すよりも、番頭を任せている従業員や、長年の付き合いのある取引先の方に「うちの会社の、どんなところを選んでもらえていると思いますか」と尋ねてみるのも良い方法です。
経営者本人には見えていない魅力や、逆に思い込みに過ぎなかった強みが、外からの声によって見えてくることがあります。

あえて「逆」を考えてみると、見えてくるもの

特徴を書き出したら、次のステップとして、その逆を考えてみます。
これは少し意外に感じられるかもしれません。
強みをさらに伸ばすのではなく、あえて反対方向に振ってみるのです。

たとえば、「品揃えの豊富さ」を強みにしている会社であれば、逆は「品揃えを絞ること」になります。
「対応の丁寧さ」を売りにしているなら、逆は「あえて簡素に済ませること」です。
もちろん、これをそのまま実行しても、多くの場合はうまくいきません。
ただの手抜きになってしまったり、お客様の期待を裏切ってしまったりするだけだからです。

ここで大切なのは、逆にすること自体が目的ではなく、逆から発想することで、これまで見えていなかった新しい価値のヒントを探すという点です。
当たり前だと思い込んでいた前提を一度疑ってみることで、思いがけない気づきが得られることがあります。

長年その業界にいると、「お客様はこういうものを求めているはずだ」という思い込みが、いつの間にか揺るぎない前提になってしまうことがあります。
その業界にいる人にとっては当たり前でも、業界の外にいる人から見れば、まったく当たり前ではないことも多いものです。
逆から考えるという作業は、いわば、業界の外側に一度立ってみて、素朴な目で自社を眺め直す作業だと言えるかもしれません。

逆を、意味のある価値に置き換えてみる

逆の姿を書き出したら、そのままにせず、もう一段階、言葉を練り直す作業が必要になります。
ここが一番の工夫のしどころではないでしょうか。

たとえば、「品揃えを絞ること」は、ただ商品を減らすという話ではなく、「専門店ならではの、選びやすさと安心感」という価値に言い換えることができるかもしれません。
「対応を簡素にすること」も、「余計なやり取りがなく、すぐに済ませたい忙しい人にとっての手軽さ」と捉え直せば、立派な価値提案になります。
同じ「逆」でも、意味づけ次第で、まったく違う魅力に変わっていくのです。

新しい価値は、新しいお客様と一緒に生まれる

新しい価値の方向性が見えてきたら、次に考えたいのは、「その価値を喜んでくれるのは、どんな人だろうか」ということです。
これまで自社を選んでこなかった人たち、いわば「これまで縁のなかったお客様」に目を向けてみることが、ヒントになりやすいと考えられます。

ターゲットが変われば、こだわるべきところと、思い切って手放してよいところも見えてきます。
新しいお客様にとって過剰なサービスは何か、逆にどうしても外せない部分は何か。
これを整理せずに、あれもこれもと価値を足していくと、コストばかりが膨らんでしまいます。
何を加え、何を手放すのか。この見極めこそが、この健康診断表を活かすうえで、最も悩ましく、同時に最も重要な部分ではないでしょうか。

ここで一つ、心に留めておいていただきたいことがあります。
それは、価値を足す方向だけでなく、思い切って減らす方向、あるいはこれまで誰もやっていなかったことを新たに加える方向も、同じくらい大切だということです。
今まで力を入れてきたことでも、実はお客様にとってはそれほど重要ではなかった、ということは珍しくありません。
そうした部分を思い切って削り、その分の時間や費用を、本当に喜ばれる部分に振り向ける。
これもまた、逆転の発想の一つの形だと言えるでしょう。

ある学習塾の、小さな逆転劇

ここで、一つの架空の事例をご紹介したいと思います。
ある地方都市に、個別指導を売りにした学習塾がありました。
有名大学を目指す成績上位の生徒を対象に、一対一で丁寧に教えるスタイルで、月謝も決して安くはありませんでした。
しかし、少子化と近隣の競合塾の増加により、生徒数は年々減少していました。

そこで塾長は、思い切って自社の特徴を書き出し、その逆を考えてみることにしました。
「個別指導」の逆は「集団での指導」、「成績上位者向け」の逆は「勉強が苦手な子ども向け」、「高めの月謝」の逆は「手頃な月謝」です。
最初は、ただ単価を下げるだけの話に思えました。

しかし塾長は、そこからもう一歩踏み込んで考えました。
集団指導は、友達と一緒に頑張れる安心感という価値に変えられるのではないか。
勉強が苦手な子ども向けというのは、裏を返せば、「できないことを責められず、小さな成功体験を積み重ねられる場所」という価値になるのではないか。
そう考え直したのです。

ターゲットも、これまでの「難関校を目指す子ども」から、「勉強に苦手意識を持ち、これまで塾自体を敬遠していた子ども」へと変えました。
すると、今まで塾というもの自体に近づかなかった家庭からの問い合わせが増え始めたのです。
派手さはなくても、「うちの子でも通えそう」という安心感が、これまで塾を選ばなかった層の心を動かしたのだと考えられます。

面白いのは、この変化の過程で、塾長自身の気持ちにも変化があったという点です。
以前は、成績上位者向けの個別指導という、いわば業界の「王道」を追いかけることに、どこか無理を感じていたそうです。
近隣の大手塾と同じ土俵で競い合う限り、規模でも知名度でも敵わない。
そうした焦りが、常にあったといいます。
しかし、あえて逆を向いてみたことで、自分たちにしかできない役割が見えてきた。
それは、結果として、経営者自身の気持ちを楽にすることにもつながったようです。
数年後、その塾は地域で最も生徒数の多い塾のひとつになったといいます。

まとめ:まずは紙とペンから、始めてみませんか

「会社の健康診断表」という言葉は少し大げさに聞こえるかもしれませんが、やっていることはとてもシンプルです。
自社の特徴を書き出す、その逆を考えてみる、逆を意味のある価値に置き換える、そして新しいお客様を思い描く。
この四つのステップを、紙とペンさえあれば、今日からでも試すことができます。

大きな設備投資も、専門的な知識も必要ありません。
必要なのは、これまでの「当たり前」を、一度立ち止まって疑ってみる時間だけではないでしょうか。

もちろん、書き出してみたからといって、すぐに答えが見つかるとは限りません。
逆を考えてみても、意味のある価値になかなか結びつかないこともあるでしょう。
それでも構わないのです。
大切なのは、一度立ち止まって自社を見つめ直すという、その姿勢そのものにあると考えられます。
日々の忙しさの中では、なかなか持てない時間かもしれません。
だからこそ、少し落ち着いた時間に、紙とペンを用意して、ゆっくり向き合ってみる価値があるのではないでしょうか。

まずは自社の特徴を三つほど書き出すところから、始めてみるのも一つの方法かもしれません。
その先に、これまで気づかなかった新しいお客様との出会いが、待っているかもしれません。

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