利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

「まだ誰も気づいていない良さ」を、どう育てるか

「まだ誰も気づいていない良さ」を、どう育てるか

まだ言葉にならない「思いつき」を、どう育てていますか?

コンセプトとは、遠くを照らす灯りのようなもの

商品やサービスを考えるとき、多くの経営者が一度は「コンセプト」という言葉に出会います。
コンセプトとは、簡単に言えば「この事業は、何のために、どこを目指しているのか」という考え方の芯のことです。
少し硬い言葉に聞こえますが、夜道を歩くときに持つ灯り、あるいは航海のときの北極星のようなものだと考えると、イメージしやすくなるのではないでしょうか。

なぜ、この灯りが必要になるのでしょうか。
それは、まだ世の中に存在していないもの、まだ誰もその良さに気づいていないものを生み出したいと願うときほど、この灯りなしでは前に進めなくなるからです。
すでにあるものを少し手直しするだけなら、参考にできる先輩や事例はたくさんあります。
しかし、本当に新しいものをつくろうとすると、その先には手本のない場所が広がっています。

従業員10名前後の会社を経営していますと、「差別化」や「独自性」といった言葉を、耳にする機会が多いのではないでしょうか。
ただ、こうした言葉は少し抽象的で、実際に何から手をつければよいのか、分かりにくいところがあります。
今回お伝えしたい「コンセプトづくり」という考え方は、その入り口を、もう少し具体的にイメージするための一つの手がかりになるのではないかと思います。

コンセプトづくりは、静かな作業ではなく「冒険」に近い

ここで、大切なことをお伝えしたいと思います。
コンセプトを考える作業は、机の上で落ち着いて答えを導き出すような、静かな計算ではありません。
むしろ、深い霧に包まれた見知らぬ土地に足を踏み入れていくような、冒険に近い営みだと考えられます。

霧の中では、少し先すら見通せません。
「この道で本当に合っているのだろうか」「誰にも歓迎されないかもしれない」という不安が、常に足元にまとわりついてきます。
それでも一歩ずつ霧を払いながら進んでいくことで、少しずつ視界が開け、やがて誰も見たことのない景色に出会う。
これが、新しいコンセプトが育つまでの道のりではないでしょうか。

そして、この冒険を進めるためには、ある種の勇気が必要になります。
それは、「まだよくわからないもの」の存在そのものを、いったん受け入れる勇気です。

不安を感じるのは、決して弱さではない

私は税理士として、長年にわたり多くの経営者の方とお話をしてきました。
その中で感じるのは、新しいことを始めようとするとき、不安を覚えるのはごく自然な反応だということです。

「これは本当に売れるのだろうか」「従業員に説明しても、うまく伝わらないかもしれない」「もし失敗したら、今までの信用を失ってしまうのではないか」。こうした思いは、経営に慎重であろうとする方ほど、強く抱くように感じます。
むしろ、こうした不安を全く感じない経営者の方は、あまりお見かけしません。

とくに従業員数が10名前後の会社では、社長ご自身の判断が、そのまま会社全体の方向を決めることになります。
大企業のように、いくつかの部署で同時に試してみて、うまくいったものだけを残す、というやり方が取りづらいのも事実です。
だからこそ、一つの判断にかかる重みが大きく、どうしても足が止まりやすくなるのではないでしょうか。
これは、経営者としての力が足りないからではなく、規模の小さな会社だからこそ生まれる、自然な慎重さだと私は感じています。

大切なのは、不安があること自体を否定せず、その不安と付き合いながら、少しずつ前に進む方法を探すことではないでしょうか。

「まだ自分でも納得できていない」思いを、すぐに手放さないこと

新しいアイデアが生まれたとき、経営者の頭の中には、まだ形になっていない、もやもやとした感覚が浮かぶことがあります。
人に説明しても、うまく伝わらない。
自分自身でも、「これは本当にいいアイデアなのだろうか」と半信半疑になる。
そうした経験は、決して珍しいことではありません。

そんなとき、多くの人は「これはまだ根拠がないから」「誰にも理解されないから」と、早々にその思いを手放してしまいます。
ですが、本当に新しい価値というのは、生まれた瞬間から誰の目にもはっきり分かる形をしているとは限りません。
むしろ、最初は輪郭がぼんやりしていて、周りからは「よくわからない」と言われるほうが、自然なのではないでしょうか。

大切なのは、そのぼんやりとした思いを、すぐに正解か不正解かで判断してしまわないことです。
答えを急がずに、じっくりと温め続けること。
まるで卵を抱くように、時間をかけて育てていくこと。
そうした心の広さを持てるかどうかが、新しい価値を生み出せるかどうかの分かれ道になると考えられます。

事例:ある金物屋さんが「道具を貸す」ことを思いついたときの話

ここで、一つの例をご紹介したいと思います。
ある地方の町で、三代続く小さな金物屋を営むご主人がいました。
お店では昔からトンカチや工具、庭仕事の道具などを販売していましたが、近年は大型店やインターネット通販の影響で、売上が徐々に減っていました。

そんなある日、ご主人は「うちに来るお客さんの多くは、そもそも道具をそんなに頻繁に使うわけではないのではないか」と気づきます。
庭の手入れは年に数回、家具の組み立ても数年に一度あるかどうか。
そう考えると、「道具を売る」のではなく「必要なときだけ道具を使ってもらう」という形の方が、本当はお客さんの役に立つのではないかと思い始めたのです。

しかし、最初にこの考えを従業員や家族に話したとき、返ってきたのは「うちは金物屋なのだから、道具を貸すなんて商売にならない」という反応でした。
ご主人自身も、正直なところ、この思いつきが本当に事業として成り立つのか、自信を持てていませんでした。

それでも、ご主人はこの考えをすぐに諦めることをせず、ノートに書き留めておくことにしました。
時間のあるときに少しずつ考えを深め、まずは常連のお客さん数人に「もし道具を借りられたら使いたいと思いますか」と、気軽に尋ねてみることから始めたのです。
すると、思いのほか多くの人が興味を示しました。
「一度しか使わない電動工具を、わざわざ買うのはもったいないと思っていた」という声が、いくつも聞かれたのです。

そこから、ご主人は少しずつ、使う頻度の低い道具を中心に貸し出しを試してみることにしました。
最初は数点だけの小さな取り組みでしたが、今ではその金物屋は「困ったときに頼れる、町のみんなの道具箱」として、近隣ではよく知られる存在になっています。
もし最初の思いつきを「よくわからないから」とすぐに切り捨てていたら、この新しい役割は生まれなかったかもしれません。

すぐに答えを出さなくてもいい、育てる時間を持つ

この金物屋さんの話からも分かるように、新しいコンセプトは、最初から完成した形で現れるわけではありません。
多くの場合、最初はごく小さな違和感や、「なんとなくこうした方がいいのではないか」という感覚から始まります。

経営者が判断に迷い、なかなか前に進めなくなるのは、多くの場合「今すぐ正しい答えを出さなければならない」と考えてしまうためではないでしょうか。
しかし、本当に新しい価値をつくろうとするときには、答えを急がずに、じっくりと育てる時間もまた必要になると考えられます。
植物の種をまいてすぐに花を期待する人はいません。芽が出るまで、じっと待つ時間があってこそ、やがて花が咲きます。事業のアイデアも、それと似ているのではないでしょうか。

これは、金物屋さんのような小売業に限った話ではないと思います。
飲食店であれば、看板メニューになるような一皿が生まれるまでに、何度も試作を重ねる時間が必要でしょう。
修理や整備を請け負う仕事であれば、「うちにしかできない直し方」が見つかるまで、何年もかかることもあるかもしれません。
業種は違っても、「まだ形になっていないものを、諦めずに育てる」という姿勢は、共通しているのではないでしょうか。

今日からできる、小さな一歩

もし今、心のどこかに「うまく言葉にできないけれど、気になっている思い」があるなら、まずはその思いを書き留めてみることから始めてみるのも一つです。
すぐに正解を出す必要はありません。
時間をおいて、また読み返してみる。
信頼できる従業員や、いつも来てくださるお客さんに、軽い気持ちで聞いてみる。

そうした小さな積み重ねが、思いがけず新しいコンセプトへの道を開いてくれることがあります。
完璧な計画書をつくる必要はありません。
まずはノートの片隅に、一行だけ書いてみることから始めてみるのも一つではないでしょうか。

まとめ

新しい商品やサービスを生み出すコンセプトづくりは、静かな計算ではなく、未知の世界へ踏み出す冒険のようなものです。
まだ自分でも納得し切れていない思いであっても、すぐに切り捨てず、時間をかけて温め続けること。
その心の広さこそが、これから事業を育てていく経営者にとって、大きな力になるのではないでしょうか。

不安を感じることは、決して恥ずかしいことではありません。
むしろ、それだけ真剣に事業と向き合っている証だと思います。
まだ形になっていない思いつきほど、実は大切に育てる価値があるのかもしれません。
今日、心に浮かんだその小さな違和感が、いつか御社ならではの、誰にも真似できない良さに育っていくことを願っています。

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