利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

リーダーシップは「地位」ではなく「生き方」ではないでしょうか

リーダーシップは「地位」ではなく「生き方」ではないでしょうか

二代目社長が気づいた、リーダーシップの本当の意味

「リーダー」という言葉が生む、ちょっとした思い込み

「リーダーシップ」という言葉を聞くと、多くの方が、会社の上に立つ人や、肩書きを持つ人だけに必要なものだと感じるのではないでしょうか。
社長だから、部長だから、リーダーシップを発揮しなければならない。
逆に、自分は経営者になったばかりだから、まだリーダーシップを語る資格がない。
そんなふうに感じている方も、少なくないように思います。

このイメージは、決して不思議なものではありません。
学校でも会社でも、「リーダー」という言葉は、たいてい「まとめ役」や「代表者」といった意味で使われてきました。
学級委員長、キャプテン、部長。
いずれも、周りから選ばれた、限られた立場の人を指す言葉です。
そのため、私たちは自然と、「リーダーシップ=特別な立場にある人が持つもの」という考え方を身につけてしまっているのかもしれません。

けれども、これは少し誤解が入っているのかもしれません。
リーダーシップというのは、役職や肩書きといった「外側の飾り」から生まれるものではなく、もっと手前にある、自分自身の内側から生まれるものだと考えられます。
つまり、リーダーシップとは、誰かの上に立つための技術ではなく、その人自身がどう生きていくかという姿勢そのものに近いのではないでしょうか。

実際、肩書きだけを与えられても、人は自然にリーダーシップを発揮できるわけではありません。
反対に、役職を持たない社員が、周りから自然と頼られ、意見を求められることもあります。
この違いを生んでいるのは、地位ではなく、その人が普段からどんな姿勢で物事に向き合っているか、という点にあるように思います。

内側の声が、すべての出発点になる

では、その「内側」とは、いったい何でしょうか。
それは、自分は何がしたいのか、何を大切にしたいのか、どんな会社にしていきたいのか、という、自分自身に向けた小さな問いかけの積み重ねだと言えます。

たとえば、料理人が美味しい料理を作りたいと思う気持ちは、誰かに評価されるためではなく、まず自分の中から湧き上がってくるものです。
その気持ちがあるからこそ、包丁の使い方を工夫したり、食材にこだわったりと、自然に工夫が生まれてきます。
経営における意思決定も、実はこれと似ているのではないでしょうか。

「売上を伸ばしたい」「社員に長く働いてもらいたい」「地域に必要とされる会社でありたい」。
こうした思いは、他の誰かから与えられるものではなく、経営者自身の内側から生まれてくるものです。
そして、この内側から生まれた思いこそが、社員や取引先を自然と引き寄せていく力になっていくと考えられます。
逆に、外から与えられた目標や、他社の成功事例をそのまま真似ただけの方針は、どこかで息切れしてしまうことが多いようです。

たとえば、あるパン屋さんを思い浮かべてみてください。
近所に評判の良いパン屋ができたからといって、同じ商品ラインナップを真似てみても、なぜか長続きしないことがあります。
一方で、「小麦の香りをきちんと楽しんでもらいたい」という店主自身の思いから始まったパン屋は、多少値段が高くても、常連客に支えられて長く続いていく。こうした違いを見ていると、事業の土台になっているのは、外から借りてきた正解ではなく、その人自身の内側にある思いなのだと感じさせられます。

ある工場経営者の物語

ここで、一つの例を挙げてみたいと思います。
ある地方都市に、金属部品の加工を行う小さな工場がありました。
社員は8名ほどで、社長は先代から会社を継いだ二代目の方でした。

この社長は、継いだ当初、「先代のように、強く、頼りがいのあるリーダーでなければならない」と考えていました。
そこで、朝礫(あされい、始業前に社員を集めて行う短い集まりのこと)では大きな声で方針を語り、会議では自分の意見を通すことを心がけていたそうです。
ところが、社員の表情はどこか硬く、会議でも意見が出てこない。
社長自身も、どこかで無理をしているような感覚が抜けなかったといいます。

とりわけ悩ましかったのは、ベテラン社員との距離でした。先
代の時代から工場を支えてきた職人たちは、二代目社長の指示に、表向きは頷きながらも、心から納得している様子ではなかったそうです。
社長は、「自分の力不足のせいだ」と考え、さらに強い姿勢で臨もうとしましたが、それでうまくいく気配はありませんでした。

ある時、社長は自分に問いかけてみました。
「自分は、本当はどんな会社にしたいのだろうか」。
すると、心の奥にあったのは、「社員一人ひとりが、自分の仕事に誇りを持てる会社にしたい」という、意外にも静かな思いでした。
強さや威厳(いげん、堂々として人を圧倒するような雰囲気のこと)を見せることではなく、社員の技術や工夫を認め、育てていくことこそ、自分がやりたいことだったと気づいたのです。

そこから、社長は少しずつ、朝礼での話し方を変えていきました。
方針を一方的に語るのではなく、「最近、どんな工夫をした?」とベテラン社員に問いかけるようにしたのです。
最初は戸惑っていた職人たちも、次第に、自分の技術について語るようになっていきました。
社長は、それを黙って聞き、感心したことは素直に「それはすごいですね」と伝えるようにしたそうです。

半年ほど経った頃、ある職人が、自分から新しい加工方法を提案してくれました。
以前であれば、社長の指示を待つだけだった職人からの提案です。
社長は、この出来事をきっかけに、「強く指示を出すことよりも、社員が力を発揮できる場をつくることの方が、自分らしいリーダーシップなのだ」と感じるようになったといいます。

この物語からわかるのは、リーダーシップというのは、誰かの真似をした「型」ではなく、自分自身の内側にある思いに気づき、それを大切にしていくところから始まるものだということです。

なぜ、経営者は判断で止まってしまうのか

多くの経営者が判断に迷う場面というのは、実は「何が正しいか」がわからないからではなく、「自分は本当は何を望んでいるのか」が、はっきりしていないことが多いように思います。

たとえば、新しい事業を始めるかどうか迷っているとき。数字の計算はもちろん大切ですが、それだけでは答えが出ないことも多いのではないでしょうか。
そこで一度、「自分は、なぜこの事業をやりたいと思ったのか」を振り返ってみる。
すると、損得だけでは見えてこなかった、自分なりの答えが見えてくることがあります。

同じことは、社員への向き合い方でも起こります。
社員を注意するべきかどうか迷ったとき、「正しい注意の仕方」を探すだけでは、なかなか一歩を出せないものです。
そこで、「自分は、この社員にどうなってほしいのだろうか」と問いかけてみる。
すると、単なる正しさよりも、自分なりの答えが見えてくることが多いように思います。

判断に迷ったときほど、外側の情報を集めるだけでなく、自分自身の内側に一度立ち止まって問いかけてみる。
これも、リーダーシップを育てていく上での、大切な習慣の一つではないでしょうか。
数字や正解を探すことに疲れてしまったときは、一度、そちらから目を離してみるのも良いのかもしれません。

今日からできる、小さな一歩

リーダーシップを育てるといっても、何か特別な研修を受ける必要はないと考えられます。
まずは、次のようなことから始めてみるのも一つです。

一つ目は、一日の終わりに、5分だけ、「今日、自分は何を大切にして判断したか」を振り返ってみることです。
忙しい毎日の中では、判断そのものに追われてしまい、自分がどんな思いでその判断をしたのか、振り返る時間がなくなってしまいます。
5分という短い時間で構いません。
ノートに一言書き留めるだけでも、少しずつ自分の思いが見えてくるはずです。

二つ目は、社員との会話の中で、自分の意見を伝える前に、「あなたはどう思う?」と一言問いかけてみることです。
経営者は、どうしても先に答えを持ってしまいがちですが、先に問いかけることで、社員の中にある思いに気づく機会が生まれます。
それは、社員自身のリーダーシップを育てることにもつながっていくのではないでしょうか。

三つ目は、迷ったときに、「自分は、本当は何を望んでいるのか」という問いを、心の中で一度繰り返してみることです。
すぐに答えが出なくても構いません。
この問いを持ち続けること自体が、経営者としての判断の軸を、少しずつはっきりさせていく助けになっていくと考えられます。

こうした小さな積み重ねが、自分の内側にある思いを、少しずつ言葉にしていく助けになっていくはずです。
そしてもう一つ、大切にしていただきたいのは、リーダーシップに「完成形」はないということです。
今日の自分よりも、少しだけ自分の思いに気づけるようになる。それだけで、十分な一歩だと言えるのではないでしょうか。

おわりに

リーダーシップは、特別な人だけが持つ才能ではなく、日々の小さな気づきと選択の積み重ねによって育っていくものだと考えられます。
肩書きや役職ではなく、自分自身がどう在りたいかという静かな思いこそが、その出発点になります。

先ほどの工場経営者も、パン屋の店主も、はじめから答えを持っていたわけではありません。
日々の中で、自分自身に小さな問いを重ねていく中で、少しずつ自分らしい在り方に近づいていったのです。
経営者の皆さまも、きっと同じように、すでにその出発点に立っているのではないでしょうか。

経営者の皆さまが、今日という日の中で、ふと自分自身に問いかける時間を持っていただけたら。
それが、会社をより良くしていく、何よりも確かな一歩になるのではないでしょうか。

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