利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

会社の想いを、お客様と一緒に「物語」にする ― 中小企業でもできる伝え方のヒント

会社の想いを、お客様と一緒に「物語」にする ― 中小企業でもできる伝え方のヒント

お客様が主人公になる会社の伝え方

はじめに:真心を込めた仕事が、なぜか誤解されてしまうとき

一生懸命につくった商品やサービスが、思いがけない形で誤解されてしまう。
経営をしていると、こうした場面に一度は出会うのではないでしょうか。

「うちの商品の良さが、なかなか伝わらない」「安くしているだけだと思われている」「手抜きだと言われてしまった」。
こうした声を、筆者は税理士として多くの経営者の方から聞いてきました。
真面目に仕事をしているからこそ、こうした誤解は余計につらいものです。

けれど、こうした誤解は、実は「伝え方」を少し変えるだけで、大きなチャンスに変わることがあります。
今回は、ある出来事をきっかけに、会社の考え方をお客様と一緒につくり上げていった実例をご紹介しながら、中小企業の経営者の方にも活かせる考え方をお伝えしたいと思います。

会社とお客様が「一緒につくる物語」という考え方

まず、少し立ち止まって考えてみたい考え方があります。
それは、会社とお客様が「一緒につくる物語」という視点です。

会社が「私たちはこんなに良いものを作っています」と説明するだけでは、どうしても宣伝のように聞こえてしまい、聞く側の心には響きにくいものです。
ところが、お客様自身がその物語の登場人物の一人になれるとしたら、どうでしょうか。
人は、自分が関わった物語には自然と愛着を持つものです。
これが、一方的な広告と、お客様と共につくる物語との大きな違いだと考えられます。

ある冷凍食品メーカーに起きた出来事

数年前、ある冷凍食品メーカーで、次のような出来事がありました。

ある女性が、疲れた日の夕食に冷凍餃子を出したところ、子どもは喜んだものの、ご主人から「手抜きだ」と言われてしまい、そのことをSNSに投稿しました。
この投稿には多くの共感が集まり、メーカーの公式SNS担当者が「冷凍餃子を使うことは手抜きではなく、いわば“手間を代わりに引き受けている”だけなのです。
生まれた時間を、お子さんと過ごす時間に使ってほしい」という趣旨の返信をしたところ、これが大きな反響を呼びました。

会社はこの反応を機会と捉え、後日、実際の工場でどれだけ丁寧な工程を積み重ねて製品を作っているかを見せる短い動画を公開しました。
ナレーションはほとんどなく、淡々と作業の様子を映すだけの映像でしたが、最後に「最後の仕上げは、あなたのフライパンで」という一言を添えました。

つまり、会社は「私たちがすべてをやっています」とは言わず、「私たちが手間の大部分を担い、最後のひと工夫はお客様にお任せします」という姿勢を示したのです。
これにより、お客様は単なる消費者ではなく、料理の“共同制作者”のような立場になりました。

なぜこの出来事が、多くの人の心を動かしたのか

この出来事が広がった理由は、会社が「反論」をしなかったことにあるのではないでしょうか。
批判に対して正しさを主張するのではなく、「そう感じるのも無理はない、でも実はこういう背景があるのです」と、静かに事実を見せる。
そして最後は、お客様自身に委ねる余白を残す。

この「余白」こそが、物語を一緒につくる鍵だと考えられます。
すべてを説明し尽くしてしまうと、お客様が入り込む場所がなくなってしまいます。
少し言葉を残しておくことで、お客様が自分の言葉で物語を完成させてくれるのです。

中小企業に置き換えて考えてみる

これは大企業だけの話ではありません。
従業員十名前後の会社であっても、同じような場面に出会うことは少なくないはずです。

「値段を下げていないのに、なぜか安く見られる」「新しいやり方を取り入れたら、昔ながらのお客様から不満が出た」。
こうした場面で大切なのは、正面から言い返すことではなく、まず「なぜそう思われたのか」を丁寧に受け止めることではないでしょうか。
そのうえで、自社が本当に大切にしていること(専門的には「パーパス」と呼ばれることもあります。
会社が何のために存在しているのか、という根本の考え方のことです)を、押しつけではない形で見せていく。
そうした積み重ねが、お客様との共感を生むのだと思います。

事例:地域の電器店が「手抜き」と言われた話

ここで、ある地域の電器店の例を考えてみましょう。

この電器店では、修理に出された家電を見て、状態の良いものについては新品ではなく整備済みの再生品を勧めるようになりました。
すると一部のお客様から「新しいものを売らずに、古いものを回して手間を惜しんでいるのではないか」という声が上がってしまいました。

店主は最初、悔しい気持ちになったそうです。
安いものを勧めているのではなく、むしろお客様の家計と、まだ使える製品を無駄にしないことの両方を考えた末の提案だったからです。

そこで店主は、店頭のポップや店のSNSで、再生品一台一台にどれだけの点検項目があるかを、写真つきで丁寧に紹介することにしました。
「これは手抜きではなく、まだ使えるものを見捨てない選び方です」という言葉を添え、実際に再生品を選んだお客様の声も少しずつ紹介していきました。

すると、次第に「うちも再生品でお願いしたい」「地球にも家計にもやさしい選び方に納得した」という声が増えていったといいます。
お客様の中には、自分から友人にこの店を紹介してくれる人も出てきたそうです。
ここでも、会社が説明をやめて、お客様に判断と発信の余白を残したことが、良い流れにつながったのではないかと考えられます。

物語を「一緒につくる」ために、できること

こうした考え方を、日々の経営に取り入れるには、大きな仕組みは必要ありません。
まずは次のようなことから始めてみるのも一つです。

・お客様から意外な指摘や誤解を受けたとき、すぐに否定せず、「なぜそう感じたのか」を一度受け止めてみる。

・自社の商品やサービスの背景にある、手間や思いを、飾らない言葉で見せてみる。専門的な言葉より、日々の作業の様子や、担当者の実際の声のほうが伝わりやすいことが多いようです。

・すべてを説明し尽くさず、最後の一部分はお客様に委ねる余白を残す。「あとはお客様次第です」という姿勢が、むしろ信頼につながることもあるのではないでしょうか。

・関わってくれる人たち(専門的には「ステークホルダー」と呼ばれます。従業員やお客様、取引先など、会社に関わるすべての人のことです)一人ひとりが、その物語の中でどんな役割を持てるかを考えてみる。

まとめ:今日からできる小さな一歩

誤解や批判は、経営をしていれば避けられないものです。
しかし、その受け止め方次第で、ピンチが会社とお客様との距離を縮めるきっかけになることもあります。

大切なのは、正しさを主張することよりも、自社が大切にしている思いを、押しつけではなくそっと見せること。
そして、最後の物語の続きを、お客様自身に描いてもらう余白を残すことではないでしょうか。

まずは、日々の業務の中で「なぜこれを、この手順で行っているのか」を一度書き出してみることから始めてみるのも良いかもしれません。
そこにきっと、お客様に伝えるべき、あなたの会社らしい物語の種が見つかるはずです。

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