利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

経営理念は「掲げる」だけでは終わらない ― 言葉を本物にする小さな工夫

経営理念は「掲げる」だけでは終わらない ― 言葉を本物にする小さな工夫

中小企業の理念づくり ― 立派な言葉より大切なこと

「わが社の経営理念は…」と、立派な言葉が壁に貼られているのに、実際の現場ではその言葉通りに動いていない会社を、見かけたことはないでしょうか。
逆に、特別に飾らない言葉であっても、社長も社員も自然とその通りに動いている会社もあります。
この違いは、いったいどこから生まれるのでしょうか。

長年、中小企業の経営者の方々とお話をしてきた中で感じるのは、理念そのものの「内容」よりも、その理念をどれだけ本気で貫いているかのほうが、会社の空気を大きく左右するということです。
今日は、その「本気で貫く」ということについて、一緒に考えてみたいと思います。

理念を言葉にするだけで、なぜ社内が変わるのか

少し意外に思われるかもしれませんが、心理学の研究によると、人は一度「自分はこう考えます」と口に出したり、公に宣言したりすると、もともとその考えを強く持っていなくても、その発言に沿った行動を取りやすくなるといわれています。
いわば、「言った以上は、それに合わせて振る舞おう」という気持ちが自然と働くのです。

これは会社の理念にもそのまま当てはまります。
「私たちはお客様第一を大切にします」と社長が繰り返し言葉にし、朝礼や会議の場で何度も語ることで、社長自身も社員も、少しずつその言葉に引き寄せられるように行動が変わっていく、ということが起こり得ます。
つまり、理念を「言葉にすること」自体が、社内の行動を変える第一歩になるのではないでしょうか。

ただし、ここで大切なのは、ただ紙に書いて壁に貼るだけでは、この効果はほとんど生まれないという点です。
社長自身が繰り返し、自分の言葉で語り続けること。
会議の冒頭で理念に触れること。
日々の判断の場面で「これは私たちの理念に合っているか」と問いかけること。
こうした積み重ねがあってはじめて、言葉が行動に結びついていくと考えられます。

掲げるだけで終わらせない ― 理念を組織にしみこませる工夫

理念を語ることは第一歩ですが、それだけでは長続きしません。
本当に理念が根づいている会社は、理念を「語る」だけでなく、それを組織のあちこちにしみこませる工夫をしていることが多いようです。

具体的には、次のような取り組みが考えられます。

一つ目は、採用や人の登用の場面で、理念に合っているかどうかを大切な判断材料にすることです。
スキルや経験だけでなく、「この人はうちの理念に共感してくれるだろうか」という視点を持つことで、少しずつ理念に沿った人が集まる組織になっていきます。

二つ目は、日々の目標や仕事の進め方、組織の作り方といった、会社のあらゆる場面で理念との一貫性を意識することです。
たとえば「お客様第一」を掲げているのに、実際の評価制度が売上の数字だけで決まっているとしたら、社員は「結局、数字が一番大事なんだ」と感じてしまいます。
理念と実際の仕組みがずれていないか、時々振り返ってみることが大切ではないでしょうか。

こうした積み重ねの結果、理念は単なるスローガンではなく、社員一人ひとりが自然と体で覚えているような、強い結びつきを持つ文化に育っていきます。
まるで、家族の間で「うちではこうするのが当たり前」という空気が自然とできあがっているのと、少し似ているのかもしれません。

事例:ひまわり引越しサービスの取り組み

ここで、ある会社の例を挙げてみたいと思います。

従業員12名の「ひまわり引越しサービス」という会社があります。
以前は、事務所の壁に「お客様の新生活を、笑顔でお手伝いします」という理念が貼られていましたが、正直なところ、社員の誰もそれを意識して仕事をしていませんでした。
忙しい現場では、効率優先で作業が進み、理念は「そういえばそんな言葉があったな」という程度の存在だったのです。

転機になったのは、社長が朝礼で理念を毎回口にするようになったことでした。
最初は社員も戸惑っていましたが、次第に「今日のお客様には、どうすれば笑顔になってもらえるだろうか」と考える社員が少しずつ増えていきました。

さらに社長は、新しく人を採用する面接で、「困っているお客様を見たとき、自分から動けるタイプか」を必ず確認するようにしました。
また、社員の評価においても、作業の速さだけでなく、お客様からの感謝の声をきちんと拾い上げる仕組みを取り入れました。

こうした小さな積み重ねの結果、半年後には、社員が自主的にお客様の荷物を運ぶ順番を工夫したり、引っ越し先の掃除を一手間多くしたりする姿が見られるようになったといいます。
理念が、貼り紙から実際の行動へと変わっていったのです。

まとめ ― 今日からできる小さな一歩

理念というと、立派な言葉を新しく考え出さなければいけないと思われがちですが、実はそうではありません。
すでにある理念を、どれだけ本気で語り、どれだけ日々の判断や仕組みに結びつけているか。
そのほうが、はるかに重要ではないかと思います。

もし今、御社の理念が「壁の貼り紙」のような存在になっているとしたら、まずは会議の冒頭で一言、理念について触れてみることから始めてみるのも一つです。あるいは、次の評価や採用の場面で、「この判断は理念に合っているだろうか」と自分自身に問いかけてみるのもよいかもしれません。

理念は、掲げた瞬間に完成するものではなく、日々の積み重ねの中で本物になっていくものだと考えられます。
小さな一歩からでも、理念を「生きた言葉」に育てていく。
その積み重ねが、御社の未来の空気をつくっていくのではないでしょうか。

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