カリスマは不要—中小企業の社長のためのリーダーシップ入門
「指示は出しているのに、なぜか思うように動いてくれない」。
経営者の方から、こういったご相談をいただくことがあります。
会社のことを真剣に考えているからこそ、この悩みは深くなりがちです。
今日は、そんな悩みを解くヒントになりそうな「リーダーシップ」について、少し丁寧に考えてみたいと思います。
「リーダーシップ」という言葉に身構えてしまう理由
リーダーシップと聞くと、カリスマ的な経営者や、大きな声で部下を引っ張るような人物を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。
そのイメージのせいで、「自分にはリーダーシップなんてない」と感じてしまう経営者の方も少なくないように思います。
しかし実際には、リーダーシップは特別な才能を持つ人だけのものではなく、誰でも少しずつ身につけられる「型」のようなものだと考えられます。
その型を分解すると、大きく三つの要素に整理できます。
一つ目は「どこに向かうのか」という行き先。
二つ目は「一緒に向かう仲間」。
三つ目は「その仲間を動かす力」です。
この三つがそろったとき、初めて「この人についていきたい」と周りが感じるのではないでしょうか。
面白いのは、この三つはどれも、経営者が一人で頑張れば手に入るものではないという点です。
目標は言葉にして共有することで初めて力を持ちますし、仲間との関係も日々の関わりの中で育っていきます。
影響力もまた、一度手に入れたら終わりというものではなく、日々の積み重ねの中で強くなったり、弱くなったりするものだと考えられます。
つまりリーダーシップとは、才能の有無ではなく、日々の姿勢の積み重ねによって育っていくものだと言えそうです。
順番に見ていきましょう。
行き先を示す灯り—「目標」
一つ目は、目標です。
目標とは、簡単に言えば「うちの会社は、どこに向かっているのか」という行き先のことです。
夜の海を走る漁船を思い浮かべてみてください。
灯台の光が見えているからこそ、船は迷わず港に向かうことができます。
灯台の光がなければ、どれだけ腕のいい船長でも、船員たちは不安になってしまうでしょう。
会社における目標も、この灯台の光と似た役割を持っています。
「今期は売上をどれだけ伸ばす」といった数字の目標だけでなく、「お客様にどう喜んでもらいたいか」「どんな会社にしていきたいか」という、もう少し大きな方向性を示すことも、目標の大切な一部だと言えそうです。
ただし、注意しておきたいことがあります。
目標は、経営者の頭の中にあるだけでは、灯台の光にはなりません。
灯台は、遠くからでも見える場所に立っているからこそ役に立つのです。
同じように、目標も、朝礼や会議、日々の会話といった場面で、繰り返し口にすることで、初めてスタッフの目に届く光になるのではないでしょうか。
「以前に一度伝えたから分かっているはず」と思い込んでしまうことが、実は多くの会社で起きているすれ違いの原因かもしれません。
目標が曖昧なままだと、スタッフは目の前の作業に追われるばかりで、自分の仕事がどこに向かっているのか分からなくなってしまいます。
反対に、行き先がはっきりしていれば、多少の遠回りや失敗があっても、スタッフは自分で軌道を修正しながら進んでいけるようになるのではないでしょうか。
一人では山を登れない—「仲間・チーム」
二つ目の要素は、仲間、つまりチームです。
登山を思い浮かべていただくと分かりやすいかもしれません。
どれだけ体力があり、地図を読む力に優れたリーダーでも、一人で装備をすべて担ぎ、一人で全員分の食事を用意することはできません。
仲間がいるからこそ、荷物を分担し、疲れた人を支え合いながら、山頂まで進むことができます。
会社経営も、これと似ているのではないでしょうか。
経営者が一人でどれだけ優れた戦略を描いても、それを実行するのはスタッフです。
仲間を「指示を実行する人」としてではなく、「一緒に山を登るパートナー」として捉え直してみる。
そう考え方を変えるだけで、経営者自身の孤独感も、少し軽くなるかもしれません。
また、登山チームには、体力のある人、地図に強い人、荷物の管理が得意な人など、それぞれ違う役割があります。
全員が同じ動き方をする必要はなく、それぞれの得意なことを活かし合えばよいのです。
会社のスタッフも同じで、全員に同じ能力や積極性を求めるのではなく、一人ひとりの持ち味を、チームの中でどう活かすかを考える視点が大切だと考えられます。
命令ではなく、動きたくなる力—「影響力」
三つ目は、影響力です。
ここで言う影響力とは、肩書きや権限を使って人を動かす力ではありません。
むしろ、「この人が言うなら、やってみよう」と周りが自然に思ってしまう力のことを指します。
地域の祭りの実行委員会を思い浮かべてみてください。
委員長という肩書きがあっても、それだけで住民がボランティアとして動いてくれるわけではありません。
委員長が普段から地域のために汗をかいている姿を見ているからこそ、「あの人が声をかけるなら手伝おう」という気持ちが生まれるのではないでしょうか。
会社においても、同じことが言えます。
影響力は、日々の小さな言動の積み重ねから生まれるものです。
「言っていることとやっていることが一致している」「困っているときに一番先に動いてくれる」。
こうした積み重ねが、権限に頼らない影響力をつくっていくのだと考えられます。
ここで大切にしたいのは、権限と影響力は、似ているようで別のものだという点です。
権限は、社長という立場についた瞬間に手に入りますが、影響力は、その立場をどう使ってきたかという歴史の積み重ねの中で生まれます。
ですから、「社長なのだから当然聞いてくれるはず」という前提を一度外してみると、スタッフとの関わり方が変わってくるかもしれません。
三つがそろうとどう変わるのか—ある町工場の物語
ここで、一つの物語をご紹介します。
実際にあった話ではなく、いくつかの事例を組み合わせた仮の物語として読んでいただければと思います。
金属加工を営む、従業員12名ほどの町工場がありました。
社長の岡田さんは、職人としての技術には自信がありましたが、若いスタッフに指示を出しても、なかなか思うように動いてもらえないことに悩んでいました。
ある日、岡田さんは、自分がこれまで「目標」を数字でしか伝えていなかったことに気づきます。
そこで、「うちの部品が、お客様の製品のどの部分を支えているのか」を、実際の完成品の写真を見せながら伝えるようにしました。
すると、スタッフの表情が少し変わったそうです。
さらに、岡田さんは、若手スタッフに「新人育成の担当」という役割を任せてみました。
仲間として頼られる経験は、若手にとって大きな自信になったようです。
そして岡田さん自身も、朝一番に工場の掃除をする姿を、以前より意識して見せるようにしました。
特別なことを言わなくても、その姿を見た若手が、自然と同じように掃除を始めるようになったといいます。
半年ほど経つころには、スタッフから「もっとこうしたらいいのでは」という提案が出るようになったそうです。岡田さんは、これこそが影響力の変化だったのではないかと振り返っています。
後日、岡田さんはこんなことを話していました。
「以前は、自分がすべて決めて、それをスタッフに伝えるだけだった。
でも今は、スタッフの方から気づいたことを教えてくれる。
指示する側と指示される側という関係が、いつの間にか、一緒に工場を良くしていく仲間という関係に変わっていた気がする」。
この変化は、特別な研修や制度によってもたらされたものではなく、目標の伝え方、役割の任せ方、日々の姿という、ごく身近なところから始まったものだったのではないでしょうか。
今日からできる、小さな一歩
目標、仲間、影響力。
この三つを一度にすべて整えることは、簡単ではありません。
ですから、まずはどれか一つから始めてみるのも一つの方法ではないでしょうか。
目標であれば、来週のミーティングで「なぜこの仕事が、お客様にとって大切なのか」を一言添えてみる。
仲間であれば、いつも指示を出すだけになっているスタッフに、小さな役割を任せてみる。
影響力であれば、自分自身の普段の言動を、少しだけ振り返ってみる。
どれも、特別な準備や費用がいらないことばかりです。
小さな行動の積み重ねが、少しずつスタッフの表情や動き方を変えていくのではないでしょうか。

まとめ
リーダーシップとは、特別な人だけが持つ才能ではなく、目標、仲間、影響力という三つの要素を、日々の中で少しずつ育てていくものだと言えそうです。
完璧である必要はありません。
むしろ、経営者自身が悩みながら、試しながら進んでいく姿こそが、周りのスタッフにとって一番の影響力になるのではないでしょうか。
長年、さまざまな会社の経営者の方とお話をしてきた中で感じるのは、うまくいっている会社ほど、経営者が「自分にはリーダーシップが足りない」と謙虚に感じていることが多いということです。
その謙虚さこそが、目標を見直し、仲間との関わりを見直し、自分自身の言動を振り返るきっかけになっているのかもしれません。
悩むこと自体が、すでに一歩目を踏み出している証なのではないでしょうか。
今日ご紹介した視点が、皆様の会社を見つめ直す、小さなきっかけになれば幸いです。
