利益も、チームも、整える。  浜松市の税理士 小林徹が、次の一手まで一緒に考えます。

自分の会社だけ勝っても、町の一杯は続かない 〜まわりを幸せにする社長の考え方〜

自分の会社だけ勝っても、町の一杯は続かない 〜まわりを幸せにする社長の考え方〜

引き受けた役を「自分の役」に変える 〜小さな会社の社長だからこそできる、自分らしいリーダーのあり方〜

はじめに:「リーダー」と聞いて、少し身構えていませんか

「リーダーシップ」という言葉を聞くと、どんな人を思い浮かべるでしょうか。

大勢の前で堂々と話す人。迷わず決断して、組織を力強く引っ張る人。
テレビや雑誌に出てくる、大きな会社の経営者。
そんな姿を思い浮かべる方が多いかもしれません。

そう考えると、どこか自分には縁遠い話に感じてしまいます。

朝は店のシャッターを開け、昼は配達や現場に出て、夜は事務所で請求書を書いている。
小さな会社の社長の一日は、「リーダーとしての自分」について考える前に終わってしまうことがほとんどです。

税理士として長く経営者の方々とお話ししてきて、感じていることがあります。
「自分はリーダーに向いていない」とおっしゃる方ほど、実はまわりの人から深く信頼されていることが多い、ということです。

この記事では、これからの時代に求められるリーダーの姿について、小さな会社の社長の目線で考えてみたいと思います。
難しい理論ではなく、明日からの行動につながる話をお届けできればと思います。

これから求められるのは「引っ張る人」より「よい影響を広げる人」

ひと昔前のリーダー像は、「強い人が先頭に立ち、みんなを引っ張る」というものでした。
トップが決め、下の人はそれに従う。そんな形が当たり前だった時代もあります。

ところが今は、少し様子が変わってきています。

働く人の価値観はさまざまになりました。若い世代ほど「なぜこの仕事をするのか」に納得できないと、力を出しにくいとも言われます。
上から号令をかけるだけでは、人の心は動きにくくなっているのではないでしょうか。

そこで注目されているのが、「自分らしさを手放さずに、まわりによい影響を広げていく」というリーダーのあり方です。

英語では「オーセンティック・リーダーシップ」と呼ばれることがあります。
「オーセンティック」とは、「本物の」「偽りのない」という意味です。
つまり、無理に立派な人を演じるのではなく、自分が本当に大切にしていることを軸にして、人と向き合うリーダーということです。

たとえるなら、焚き火のような存在かもしれません。

焚き火は、人を無理に呼び集めたりはしません。
それでも、火があたたかければ、人は自然とまわりに集まってきます。
そして、集まった人どうしが話を始め、つながりが生まれていきます。

ここで大切なのは、「自分らしさ」とは「わがまま」とは違う、という点です。
自分が大事にしていることを隠さず、飾らない。
そのうえで、それをまわりの人のためにどう生かすかを考える。
そこに、これからのリーダーの姿があると考えられます。

自分から手を挙げていなくても、「自分は何がしたいか」は問える

小さな会社の社長の中には、自分から望んでその立場に就いたわけではない、という方も少なくありません。

親の会社を継ぐことになった。
勤めていた会社の事情で、独立を勧められた。
商工会や同業者の集まりで、順番で役が回ってきた。

こうした「頼まれて引き受けた立場」にいると、判断がどうしても止まりやすくなります。

「引き受けたからには、前の人と同じようにやらなければ」
「自分の色を出すのは、なんだか申し訳ない」
「任期のあいだ、大きな失敗さえしなければいい」

その気持ちは、とても自然なものです。
まわりへの気づかいがある方ほど、そう考えるのではないでしょうか。

ただ、役を「預かりもの」としてだけ扱っていると、何も変えられないまま、疲れだけが残ってしまうことがあります。
人から借りた服を着ているときのように、どこか窮屈で、汚さないようにと気をつかい続けることになるからです。

そこで大切になるのが、「この立場を通して、自分は何を実現したいのか」という問いです。

自分から手を挙げた人だけが、この問いを持てるわけではありません。
むしろ、頼まれて引き受けた人こそ、一度立ち止まってこの問いに向き合うことで、役が「自分の役」に変わっていくのだと思います。

いきなり大きな目標を立てる必要はありません。
まずは、前任者から引き継いだことを一つだけ選び、「自分ならこうしたい」と言い換えてみる。そこから始めてみるのも一つです。

大切なのは「立っている場所の高さ」より「見ている景色の広さ」

たとえば、こんな架空の話を思い浮かべてみてください。

ある港町に、従業員6名ほどの小さな水産加工会社があります。
社長の石田さん(仮名)は、干物や練り物をつくり、地元のお店に卸しています。

町には、もっと大きな加工会社がいくつもありました。
石田さんは漁協の役員でもなく、港のことを決めるような力を持っていたわけでもありません。

それでも、石田さんがある集まりでぽつりと話した言葉が、少しずつ町に広がっていきました。

「このままだと、十年後にはこの港で魚を獲る若い人がいなくなる。
形が悪くて値がつかない魚も、加工する側が工夫すれば、ちゃんと売り物にできるはずなんです」

石田さんは、そうした魚を自分の会社で適正な値段で買い取り、新しい干物に仕上げてみせました。
その姿を見た漁師さんが声をかけ、ほかの加工会社も動き始めました。
やがて、地元の飲食店や学校給食の担当者までが関わるようになっていったのです。

なぜ、小さな会社の社長の言葉が、ここまで届いたのでしょうか。

それは、まわりの人たちが「この人は、自分の会社のことだけでなく、この港のこれからを誰よりも真剣に考えている」と感じたからです。
目先の損得ではなく、町全体の未来を見ている。その姿勢に、共感が広がっていきました。

ここから見えてくるのは、肩書きの高さよりも、目線の高さが人を動かすということです。

小さな会社の社長も、地域や業界の中で一番大きな会社というわけではないかもしれません。
けれど、「この町の商売はこの先どうなっていくのか」「この業界で働く人たちが、これからも誇りを持てるにはどうしたらいいか」を、誰よりも真剣に考えることはできます。

高い塔を建てなくても、少し背伸びをして遠くを見ることはできます。
その「背伸び」こそが、小さな会社のリーダーにできることではないでしょうか。

これからのリーダーは「自分たちの勝ち」だけを目指さない

もう一つ、大切な視点があります。

これからのリーダーは、自分の会社の勝ちや成功だけを目指すのではなく、関わるすべての人の幸せを目指していく、ということです。

関わる人とは、社員とその家族、お客様、取引先、仕入れ先、そして地域の人たちです。

「きれいごとに聞こえる」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
目の前の資金繰りや人手不足で精一杯なのに、他の人の幸せまで考える余裕はない。
そう思われるのも、もっともなことです。

ただ、田んぼにたとえると、少し見え方が変わるかもしれません。

自分の田んぼにだけ水を引いていても、地域の用水路が枯れてしまえば、いずれ自分の田んぼにも水は来なくなります。
取引先が元気をなくせば注文は減りますし、地域がさびれればお客様も減っていきます。

まわりの幸せを考えることは、慈善活動というより、自分の商売の土台を守ることでもあると考えられます。

事例:順番で回ってきた「世話役」を、自分の役に変えた酒屋の社長

ここからは、ある架空の酒屋さんのお話です。

岡田さん(仮名・40代後半)は、住宅街と小さな飲み屋街のあいだにある酒販店の三代目です。
店頭での販売と、近くの居酒屋や小料理屋への配達を手がけていて、従業員は8名。親の代から続く店を、十年ほど前に引き継ぎました。

ある年、地域の酒屋十数軒でつくる集まりの世話役が、順番で岡田さんに回ってきました。

正直なところ、岡田さんの最初の気持ちは「一年、何事もなくやり過ごせればいい」というものでした。
前の年と同じように総会を開き、同じ店で懇親会をする。それで十分だと考えていました。

若手社員のひと言がきっかけに

転機になったのは、配達を担当している若手社員・村上さん(仮名・20代)のひと言でした。

「最近、あの小料理屋さん、仕込みの量がずいぶん減ってます。大将、ずっと一人で回しているみたいで」

言われてみると、ほかにも気になる店がいくつかありました。
注文の量が少しずつ減っている店。店主が「来年はどうなるか」とこぼしていた店。
人手不足や店主の高齢化で、飲み屋街全体が少しずつ元気をなくしているように見えました。

岡田さんは、そこで初めて自分に問いかけました。

「自分は、この世話役を通して何がしたいんだろう」

しばらく考えて出てきた答えは、とてもシンプルなものでした。

「この町で飲む一杯を、この先もずっと続けられるようにしたい」

酒屋だけが生き残っても意味がありません。
飲食店も、地元の酒蔵も、そこで働く人たちも、みんなが続いていかなければ、町の一杯はなくなってしまいます。
そう気づいたとき、世話役という肩書きが、急に「使える道具」に見えてきたそうです。

岡田さんが始めた、小さな取り組み

岡田さんが始めたのは、大きな改革ではありませんでした。

一つ目は、懇親会の前半30分を、飲食店の店主さんたちを招いた「困りごと交換会」に変えたことです。
人手が足りない、仕入れの量が読めない、お客さんへのお酒の説明が難しい。
そんな声を、酒屋側がまず聞く場にしました。

二つ目は、自分の店で、飲食店からの小口の注文を受けやすくしたことです。
これまでは「まとめて頼んでもらう」ことを前提にしていましたが、一人で回している店には、少量ずつのほうがありがたい。
配達の回り方を少し工夫して、少ない本数でも届けられるようにしました。

三つ目は、地元の酒蔵と組んで「今月の一本」を紹介する小さなカードを作ったことです。
店主さんが忙しくても、カードをお客さんに渡せば、お酒の魅力が伝わるようにしました。

そして社内では、村上さんたち配達担当に、「配達先で気づいたことを、伝票の端に一言だけ書いてほしい」とお願いしました。
現場の目が、そのまま地域の様子を知る窓になりました。

一年後に見えた変化

売上が一気に伸びた、というわけではありません。

それでも、交換会に最初は6軒だった飲食店の参加が、翌年には14軒に増えました。
小口の注文を受けるようになってから、飲食店からの注文が途切れにくくなりました。
村上さんは「自分の配達が、町の役に立っている気がする」と話すようになりました。

ほかの酒屋さんからも「この交換会は来年も続けよう」という声が上がり、世話役の任期が終わった今も、岡田さんのもとには相談が寄せられているそうです。

岡田さんは、こう振り返ります。

「肩書きをもらったから動けたわけじゃないんです。自分のやりたいことが見えたから、肩書きが使えるようになったんだと思います」

帳簿の端に表れる、取引先の小さな疲れ

岡田さんの話には、税理士として毎月帳簿を見ている立場から、もう一つ付け加えたいことがあります。

酒屋さんのように、飲食店にお酒を先に届け、代金は月末にまとめて受け取る商売があります。
このように「後から受け取る約束になっているお金」のことを、帳簿では「売掛金(うりかけきん)」と呼びます。

この売掛金の入金日を月ごとに並べてみると、ときどき、ある変化に気づくことがあります。

月末に入っていた入金が、翌月の5日になる。次は10日になる。
その次は15日になる。一度に大きく遅れるのではなく、少しずつ、静かにずれていくのです。

決算書の上では、これは「売掛金の残高が少し増えた」という一行にしかなりません。
数字としては目立たず、見過ごされてしまうことがほとんどです。

けれど、その小さなずれの向こうには、たいてい「取引先の疲れ」があります。
人手が足りずに事務が後回しになっている。
資金繰りが少し苦しくなっている。
店主が体力的にきつくなっている。
帳簿は、そうした声にならない声を、先に教えてくれることがあるのです。

ここで、ただ「早く払ってください」と督促するのか。
それとも「最近、お店はどうですか」と声をかけてみるのか。
そこに、リーダーとしての目線の違いが表れるのではないでしょうか。

もちろん、寄り添うことと、代金の回収を甘くすることは別の話です。
無理のない取引の量に調整したり、支払いについて早めに相談に乗ったりすることも、相手を守ることにつながります。

数字を「取り立ての道具」としてではなく、「まわりの人の様子を知る手がかり」として眺めてみる。
それだけでも、見える景色は少し広がると考えられます。

明日からできる、自分らしいリーダーへの小さな一歩

最後に、明日からでも始められることをいくつかご紹介します。
どれも、紙とペンがあればできることばかりです。

今の自分の「役」を書き出してみる

社長、親、地域の役員、業界の集まりの世話役など、今担っている役を書き出してみてください。
そして、それぞれの横に「この役で、自分は何がしたいか」を一行だけ書いてみます。
すぐに答えが出なくても大丈夫です。
問いを持つこと自体が、第一歩になります。

自分の会社のまわりにいる人を、地図のように書いてみる

紙の真ん中に自分の会社を書き、そのまわりに社員、その家族、お客様、取引先、仕入れ先、地域の人たちを書き込んでいきます。
その中で、最近少し元気がなさそうな人を一人だけ思い浮かべてみてください。
その人のために何ができるかを考えることが、よい影響を広げる入り口になるのではないでしょうか。

現場の人に「最近気づいたこと」を一つ聞いてみる

岡田さんの会社の村上さんのように、社長よりも現場の人のほうが、まわりの変化に早く気づいていることはよくあります。
「何か気づいたこと、一つだけ教えてくれる?」と聞いてみるのも一つです。

月に一度、取引先ごとの入金日を眺めてみる

難しい分析は必要ありません。入金の日付を並べて、少しずつずれている取引先がないかを見るだけです。
気になる相手がいたら、数字の話ではなく、まずは相手の様子をたずねてみてください。

まとめ:あなたらしさは、すでに誰かの支えになっている

これからのリーダーに求められているのは、完璧な人を演じることではありません。
自分が本当に大切にしていることを軸にしながら、まわりの人によい影響を広げていくことです。

自分から手を挙げたかどうかは、あまり関係がありません。
頼まれて引き受けた立場でも、「自分は何がしたいか」と問い直したときに、その役は自分のものになっていきます。

そして、人を動かすのは肩書きの高さではなく、目線の高さです。
自分の会社だけでなく、社員や取引先、地域の人たちの幸せまで見渡そうとする姿勢に、人は共感し、ついてきてくれるのだと思います。

小さな会社の社長は、社員の顔も、お客様の顔も、取引先の顔も、すぐそばで見ることができます。
大きな会社のトップには難しい、その「顔の見える距離」こそが、小さな会社のリーダーの強みではないでしょうか。

焚き火は、小さくてもあたたかければ、人が集まってきます。

まずは今日、身近な誰か一人のことを思い浮かべてみるところから始めてみてください。
その小さな一歩が、きっとあなたらしいリーダーの姿につながっていくはずです。

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